広告予算(読み)こうこくよさん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「広告予算」の意味・わかりやすい解説

広告予算
こうこくよさん

広告活動を行うためにあらかじめ計上すべき費用。企業でいう広告宣伝費とは、直接的には広告物の制作費と広告媒体のスペースを購入する費用、間接的には広告部門の人件費、資材保持などの管理費が該当するが、かならずしも統一されていない。一般に広告活動に要する費用は、損益計算書の「販売費および一般管理費」の項に「広告宣伝費」として計上されるが、この勘定科目名は企業ごと、業種ごとに異なることが多い。

[島守光雄]

予算設定の諸条件

アメリカのかつての『プリンターズ・インク』誌の広告費に関する分類基準は明快である。これは、広告費に算入すべき費目をホワイト・リスト、算入してもしなくてもよい費目をグレー・リスト、算入してはいけない費目をブラック・リストに分けて、それぞれを具体的に列挙していた。広告予算を設定するにあたっては、(1)市場条件、(2)需要動向、(3)市場の範囲、(4)競合企業の動向とその広告戦略およびその広告費、(5)製品ライフ・サイクルと製品差別化の程度、(6)流通チャンネルの疎密度、(7)市場細分化戦略の有無、などの諸条件を考慮に入れて、その企業の環境に適応した広告予算設定法を採用する必要がある。

[島守光雄]

予算設定方式

広告予算設定方式として、主観的、定率的、目標達成的(タスク法)および限界分析法の四つがある。

〔1〕主観的アプローチ
 (1)任意法 前年度の販売実績、今後の市況、競合企業の意向などを考慮して、経営者が任意に広告予算を設定する方法である。これには、前年度の実績を基準に市況や競争の動向、企業の財務能力から判断して広告費総額を任意に決める任意算定法と、単に前年度の広告費実績を基にこれを増減させて決める任意増減法がある。

 (2)支出可能額法 主観的判断の基準を財源に求めて行う方法で、バランスシートもしくは損益分岐点の分析によって広告費への支出限度を設定し、その枠内もしくは枠いっぱいまで支出する方法である。

 (3)競争対抗法 業界の競争企業、あるいは指導的な企業の広告費支出額あるいは売上高比率などを参考にして、自社の広告費を決定する方法である。

 (4)以上の伝統的手法に対して、過去に成功したやり方をプログラム化するヒューリスティック・シミュレーションheuristic simulationという近代的手法が、開発された。

〔2〕定率的アプローチ
 (1)比率法 売上高、利益高に対して一定の比率で広告予算が設定されるものである。その比率設定上から、固定比率法と変動比率法とに分かれる。固定比率法は、過去の売上高(利益高)または将来の見込売上高(見込利益高)に、ある一定の比率を掛けて広告費を決定する方法で、売上高比率法あるいは利益高比率法ともいわれる。変動比率法のもっとも進んだ手法としては、フリードマンのゲーム理論によるモデルがある。

 (2)販売単位法 商品1個当りなど販売単位当りの広告費を決めて広告費総額を算出する方法である。なお、以上の定率的アプローチは、広告費総額を適正な限度において算出し、これを細分割して個別広告費を決めるので、ブレーク・ダウン法とも総称する。

〔3〕目標達成アプローチ(タスク法) あらかじめ設定したマーケティング目標によって計画された広告目標を達成するための計画を作成し、それに必要な広告費支出の細目を見積もって総額を算定するもので、ビルド・アップ法ともよばれる。そのため売上高または市場占有率と広告費との関係を算出する方法が必要となり、コンピュータ・モデルを使ったシステム手法が開発されている。

〔4〕限界分析法 ある一定条件のもとでの広告効果予測が可能になったことから、広告費と効果の関係は限界効用逓減(ていげん)則に従うということを前提に、広告費と効果の関係から広告予算を決める方法である。

 タスク法と限界分析法の二つは、広告予算決定の理想的手法といわれるが、目標設定のむずかしさと、効果測定や因果関係の分析が困難であるため、日本で採用する企業は1980年代までは多くなかったが、90年代の日経広告研究所の調査によると、次第に増加傾向にある。

[島守光雄]

『A・ケリー著、日経広告研究所訳『広告予算』(1971・誠文堂新光社)』『チャールズ・Y・ヤン著『広告――現代の理論と手法』(1973・同文舘出版)』『野々川幸雄著『広告宣伝費』(1974・中央経済社)』『西沢脩著『広告費の会計と管理』(1985・白桃書房)』『日経広告研究所編・刊『広告費会計に関する実態調査』(1993)』

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