中央アジア西部のカフカスからイラン北部にかけて広がる世界最大の湖(塩湖)。英語名Caspian Sea。北から東にかけてはカザフスタン共和国とトルクメニスタン共和国、北から西にかけてはロシア連邦とアゼルバイジャン共和国、南はイランに囲まれる。面積37万1000平方キロメートル、南北長1200キロメートル、東西幅平均300キロメートル。東岸の北寄りにマンギシュラク半島が、西岸の南寄りにアプシェロン半島が突出し、湖の形状はほぼS字型にくびれている。湖岸線の全長は約7000キロメートルで、屈曲が少ない。水温は、冬季には南北で著しい差があり、南部は13℃前後を保つのに対し、北部は0℃以下で、北の3分の1は結氷する。夏季には水温はほぼ一定し、25~28℃である。
カスピ海はアラル海と同じく、新生代第三紀まではサルマート海の一部であった。地殻変動によって、湖の北部はロシア卓状地、南部は第三系の地向斜となり、それらを縦断して構造線が走り、湖水が蓄えられたとされる。そのため北部の湖盆は皿状で浅く、さらにボルガ、ウラルなどの大河川の流入によって三角州が発達し、水深は10メートル以下である。それに対し、中南部では平均水深200メートル以上で、最深部は1025メートルにもなる。湖水は塩分を含み(平均塩分濃度12.6)、硫酸ナトリウムの量が多い。湖面標高は海面下28メートルと低く、現在も低下し続けている。その原因は、湖水の激しい蒸発と、流入河川の水量不足によるといわれる。湖岸一帯に、アシの生える湿地帯や塩分の固まった裸地帯が拡大して、湖の面積がしだいに減少し、気象条件にも悪影響が出ている。湖面低下による環境悪化を防ぐために、(1)アラル海に流入するアムダリヤを導入する、(2)バレンツ海に流入するペチョラ川の流路を変更してボルガ川水系に組み入れ、同川の水量増大を図る、(3)植林によって緑地を拡大するなど、大規模な総合プランがたてられた。
ヨーロッパとアジアの中間にあるため、周辺のアムダリヤやボルガ川を含めた水上交通路として、また沿岸部は陸上交通路として、古来、民族、物資の移動に重要な役割を果たしてきた。現在も湖面は周辺諸国の重要な水上交通路で、石油、木材、穀物、綿花、硫安などの物資の輸送が盛んである。主要港としてバクー、アストラハン、トルクメンバシ(旧称クラスノボーツク)がある。漁業も活発で、チョウザメ、ニシンなどの漁獲がよく知られ、カスピカイアザラシなどの生息でも知られている。
[小宮山武治]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
西アジアにある世界最大の湖で塩湖。イラン,アゼルバイジャン,ロシア,カザフスタン,トルクメニスタンに囲まれる。裏海ともいい,ロシア語ではKaspiiskoe moreと呼ぶ。面積約37万1000km2,日本の本州の約1.5倍,南北に約1280km,幅160~440km,最大深度995m,湖岸線の長さ約7000km,水面の標高は海面下28m。ボルガ川,ウラル川,アラクス(アラス)川,アトラク川,アスタラ川,セフィード・ルード,ゴルガーン川などが流れ込むが,流入量よりも蒸発量の方が大きい。ゴルガーンの海,マーザンダラーンの海,ヒルカニヤの海,ハザルの海とも呼ばれた。アジアとヨーロッパの境に位置するため,古来東西交通上重要な役割を演じ,とくに中世にはアジアからの商品の主要通商路となった。長らく北沿岸に住むトルコ系ハザル族がカスピ海とボルガ川を通ってイスラムと北欧諸国の仲介商人としての役割を果たし,ボルガ河口に近いその都アティル(イティルとも呼ばれた。現在のアストラハンの約15km上流)は貿易の中心地として栄えた。17世紀以降ヨーロッパの商人はボルガ川,カスピ海経由イランへの貿易路を開いた。1719,20年にはピョートル大帝の命令によりカスピ海の地図が作られている。イランに戦勝したロシアは1813年カスピ海の独占的航海権を取得し,この権利を1918年まで保持した。19世紀にはエンゼリー~バクー航路がイランとヨーロッパを結ぶ主要な航路であった。カスピ海にのみ生息するチョウザメの卵キャビアは世界の珍味として珍重されている。
執筆者:岡崎 正孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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ロシアの南西部,イランに接する世界最大の湖。ヴォルガ川が流れ込む。古くはハザルの海と呼ばれていた。ここにだけ住むチョウザメの卵がキャビアである。沿岸のバクーに油田があったが,現在は水底に多くの油田が発見されている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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