演劇用語。真の現実再現的な舞台表現は,舞台前面に4番目の壁があるかのように,俳優は観客が存在しないものとして行動し,観客は外の世界から舞台上の生活をのぞき見ている意識をもつものだとする理論のこと。こういう舞台は,現実についてのイリュージョン(幻想)を観客に抱かせることを目的とするもので,〈イリュージョン舞台〉とも呼ばれ,リアリズムを主眼とする〈近代劇〉の要求するものであった。俳優は正面に壁があるつもりで観客を無視して演ずべきという考えは,すでに18世紀のディドロなどにみられたが,〈第四の壁〉が成立するためには少なくとも次の三つの外的条件を必要とした。(1)額縁舞台の成立 19世紀初めに大方の劇場は張出し舞台とその両脇のボックス席を撤廃し,舞台と客席の間に截然たる境を意識することが容易になった。(2)箱型装置の使用 19世紀半ばから舞台上の部屋は三方を壁で囲まれた上に天井のついたものとなり,〈第四の壁〉の想定が自然にできるようになった。(3)舞台照明の変革 観客世界を無にするには暗い客席のほうが有利だが,1810年代のガス灯照明の始まりでこれがかなり可能となり,1880年代に一般的となった電気照明によって完全に客席を闇に沈められるようになった。したがって〈第四の壁〉の完全な成立は近代劇の確立と期を同じくしたが,現代演劇は再びこの壁を崩して,舞台と客席の境をあいまいにしたり,イリュージョンを排したりするものが多くなっている。
→近代劇
執筆者:毛利 三彌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
自然主義演劇の美学を示す概念。舞台の上には部屋を示す三方の壁が装置によってつくられるが、観客席との間には目に見えない第四の壁があるものと考えよという理論で、現実をこっそりのぞき込むことを演劇の理想とするもの。行きすぎた写実性に対する皮肉としていわれるのが普通だが、この考えを初めに述べたディドロ(『劇詩論』De la poésie dramatique第11章)では、積極的で革新的な理念であった。
[佐々木健一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…装置も平行衝立に代わって,19世紀半ばから室内の場合三方を壁で囲み天井もついた〈箱型装置〉が使われだす。観客はとりはずされた〈第四の壁〉からのぞき見しているという近代劇のイリュージョン的性格がここにできあがることになる。
[代表的作家]
近代劇の父と呼ばれるイプセンは,49歳になって最初の社会問題劇《社会の柱》(1877)を書いた。…
…たてまえ上は,舞台は四つの壁で囲まれた空間であり,客席と舞台とを隔てる壁だけが透明であるとされる。観客はこの目に見えない〈第四の壁〉を透かして,別世界の事件をのぞき見ることになる。舞台で劇が演じられていないときには,この壁があるとされる場所に幕が下ろされ,舞台を観客の目から遮る。…
※「第四の壁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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