彩文土器(読み)さいもんどき

精選版 日本国語大辞典 「彩文土器」の意味・読み・例文・類語

さいもん‐どき【彩文土器】

〘名〙 焼成の前と後に、赤、黒、白などの顔料で単彩または多彩の文様を描いた古代土器。西南アジアを中心に広く分布しており、古代中国からヨーロッパに及び、中南米古代文明にもみられる。古代農耕生活に関係のあるものとの説が有力で、日本では、彌生土器にみられる。なお土器焼成後彩色する手法が後・晩期縄文土器にあり、広義にはこれも含む。→彩陶

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デジタル大辞泉 「彩文土器」の意味・読み・例文・類語

さいもん‐どき【彩文土器】

彩色顔料で具象文や幾何学文を描いた素焼きの土器。原始農耕文化発生とともに発達し、世界各地に分布。彩色土器。→彩陶

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改訂新版 世界大百科事典 「彩文土器」の意味・わかりやすい解説

彩文土器 (さいもんどき)

彩色によって装飾的要素を加えた土器のことで,中国では彩陶と呼ぶ。釉薬によるものは含まれないが,釉薬によらないギリシア陶器や漢代の土器なども一般には含めない,かなりあいまいな概念である。土器のなかでかつて特に彩文土器が注目されたのは,二つの理由による。第1は20世紀の第1四半世紀に彩文土器の製作者を特定の人種や民族と結びつける考え方が流行し,その分布から彼らの発生や拡大を推測したため,彩文土器の新発見が喧伝されたことである。第2は,20世紀前半に,彩文土器が新石器時代の終りから初期金属器時代にかけて多く発見されていたことから,文化の発達の一指標とされていたことである。しかし土器の詳細な研究と新発見によって,二つともに成立の根拠を失った。1920年代にフランクフォートは西アジア,エジプト地中海世界の土器について総合的な研究を行い,彩文土器が存在するという事実だけで各地の文化と人間の移動を関連づけていた従来の系統観を批判して,各地域間の類似性と独自性とを明確に区別し,彩文土器を特定の民族の所産とみなす偏見を粉砕した。他方,現在までに知られている最古の彩文土器は,イラン西部から北メソポタミアシリアアナトリアにまたがる前6000年ころ(炭素14法年代)の層において知られており,ほとんどの地域で土器そのものの初現に近い年代を示しているばかりでなく,鉄器時代に彩文土器を使用していた地域もあるので,文化の発達の指標としてよりもむしろ土器を使用する社会における彩文土器の役割が重要な問題である。

 土器の中で占める彩文土器の比率は低い。坪井清足によると,中国山西省西陰村遺跡の竪穴出土の土器の比率は彩陶16.3%に対して黒灰色土器11.6%,尖底壺5.6%,粗陶31.3%であって,彩陶の器形は各種の鉢,壺,高杯などの,物を盛ったり貯蔵しておく容器であり,しかもこの種の器形には紅陶もあるから,彩陶は特殊な容器として存在したものであることが指摘されている。これはギリシア・ローマの絵付陶器が冠婚葬祭,宴席,奉納に用いられ,日常の用は無文陶器や青銅容器によっていたことと関連させて考えなければならない現象であろう。

 土器装飾の手法には,沈文,浮文,塗彩,彩文,描画,顔料充塡,象嵌などがあって,このうち塗彩,彩文,描画を用いたものを彩文土器と呼び,二つ以上の手法が併用されることもある。大部分の彩文土器は土器の成形段階の仕上げが終わり,乾燥させてのちに色付け焼成したものであるが,焼成後に彩ったものもある。これは着色材が固着されないために色が落ちやすく,また変色が多い。彩文は一般に幾何学文が用いられたが,植物文,動物文,人像,狩猟や航行など人間の諸活動の場面,およびその何種類かを組み合わせたものがあり,種類は実に豊富である。さらに幾何学文の組合せと見える図文の中に,具象文の変形によるものもあるから,彩文土器の文様を正しく分析してゆくと,製作者や使用者の文化の内容を理解するうえで重要な情報を得ることができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「彩文土器」の意味・わかりやすい解説

彩文土器
さいもんどき

顔料(がんりょう)を用いて文様を描いた土器の総称で、釉薬(ゆうやく)をかけた陶器は含めない。焼成前に施文したものが多いが、焼成後に文様をつけたものもある。顔料には鉄分を含む赤土などがおもに用いられ、酸化炎では赤く、還元炎では黒く発色する。また黒鉛や酸化鉛、白粘土などが使われている場合もある。彩文土器は西アジア、中国、中南米などの農耕文化の中心地でそれぞれ独自に発生し、農耕の伝播(でんぱ)とともに周辺地域へ広がっていった。

 西アジアでは紀元前七千年紀後半に、ザーグロス山脈中の新石器文化のもとで彩文土器が出現する。初期には幾何学文が描かれているが、やがて動物文、植物文、人物文なども用いられ、呪術(じゅじゅつ)的な意味が込められていたと考えられる。西アジア起源の彩文土器は南ヨーロッパ、中央アジア、インド方面にも伝えられ、各地に独自の彩文土器が成立し、各文化の標式遺物となっている。中国では前四千年紀に中原(ちゅうげん)の仰韶(ぎょうしょう)文化や華東の青蓮岡(せいれんこう)文化のもとで彩文土器(彩陶)が生まれ、中原では竜山文化期にその伝統はとだえるが、甘粛(かんしゅく)方面では殷(いん)・周代に至ってもつくり続けられる。中南米では、前2000年ごろにペルーやメキシコ、グアテマラ方面で彩文土器が発生し、その伝統はプエブロ人(アメリカ先住民)にみられるように近代にまで続いていた。

[堀 晄]


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山川 世界史小辞典 改訂新版 「彩文土器」の解説

彩文土器(さいもんどき)

素焼(すやき)の土器に色で装飾文様をつけたもの。新石器時代から初期金属器時代に見出される。赤色ないし白色の土器表面に酸化鉄による赤ないしは黒の文様をつけ,幾何学文様あるいは人物・動物を描く。発生地はおそらくエジプトかメソポタミアであろう。地中海,黒海,イランが最も盛んで,メソポタミアのハラフ彩陶,クレタ彩陶,またはトリポリエ彩陶はことに著名である。中国においても,河南省,陝西(せんせい)省あるいは甘粛省に盛行し,鉢,椀(わん)の形をした赤色磨研土器が多い。文様は,黒または暗紅色で,ときにはスリップ(化粧土)をかけた上に施文したものもある。なお北アメリカ,中央アメリカ,南アメリカでも独特の彩文土器をつくりだした。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「彩文土器」の意味・わかりやすい解説

彩文土器
さいもんどき

土器の一種。素焼の表面を研磨して,赤,白,黒などの顔料で文様を描いた土器。彩色土器ともいい,中国,先史時代のものは特に彩陶と称して区別している。新石器時代後半から初期金属器時代に製作されたもので,地中海のミノス文化圏からミケーネ文化圏,エジプト,メソポタミア,インダス川上流の東方文化圏,ルーマニア,ハンガリーなどのドナウ川沿岸地域,ドネプル川流域,東トルキスタンなどに分布し,アメリカインディアンの土器にもみられる。日本の縄文土器や,弥生土器の塗彩土器に対してもこの名を用いることがある。

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百科事典マイペディア 「彩文土器」の意味・わかりやすい解説

彩文土器【さいもんどき】

彩陶

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旺文社世界史事典 三訂版 「彩文土器」の解説

彩文土器
さいもんどき

彩陶

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世界大百科事典(旧版)内の彩文土器の言及

【ハラフ文化】より

…シリアのトルコ国境近くのハーブール川沿いにあるテル・ハラフTel Halafで,ドイツのオッペンハイムM.F.von Oppenheimが1911‐13,29年に発掘した彩文土器を標式とする北部メソポタミアの先史時代文化。この土器は西アジア陶芸の白眉とされるすばらしいものである。…

※「彩文土器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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