彩陶(読み)サイトウ(その他表記)cǎi táo

デジタル大辞泉 「彩陶」の意味・読み・例文・類語

さい‐とう〔‐タウ〕【彩陶】

彩文土器。特に中国における呼称で、仰韶ぎょうしょう文化を代表する土器とされる。幾何学文動物文が多い。

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精選版 日本国語大辞典 「彩陶」の意味・読み・例文・類語

さい‐とう‥タウ【彩陶】

  1. 〘 名詞 〙 器面を紅か黒、あるいは紫で彩色し、水平文、渦文、幾何学文、禽獣などの文様をもつ土器。新石器時代から金属器時代にかけて多く、世界的に広く分布し、特に地中海や黒海の沿岸、イラン、中国北部に多く、日本にも彌生文化期に類例がみられる。狭義には、中国新石器時代の仰韶(ぎょうしょう)文化の土器をいう。彩文土器。彩色土器

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改訂新版 世界大百科事典 「彩陶」の意味・わかりやすい解説

彩陶 (さいとう)
cǎi táo

中国考古学で土器を区分する用語。土器に彩色文様をほどこしたものをいい,新石器時代以降,各時代にわたって存在する。南中国の河姆渡(かぼと)文化(河姆渡遺跡)の彩陶が今のところもっとも古い。それは夾炭黒陶に細かい灰白色土を下塗し,さらに研磨をくわえコーヒー色ないしは黒褐色の顔料を用いて植物文様を描いたものであった。焼成後に彩色するものは,各地の新石器文化の土器に存在する。

 焼成前に主として酸化鉄の顔料で着色し,黒ないしは赤色に発色させた彩陶は,黄河中流域の仰韶文化で成立し発展をとげる。前期にあたる半坡(はんぱ)様式の彩陶は,粘土紐巻上げで成形し表面を研磨する細泥紅陶であり,土器全体のなかで占める割合は少なく,器種として深鉢,鉢,壺,短頸壺などに限られる。黒色で彩色する三角・直線・斜線・斜格子・波浪文などが一般的で,ほかに人面・魚・鹿・蛙・植物などの絵画的な文様がある。中期の廟底溝様式の彩陶も決して多くない。この段階では黒色を主にするが,赤色の彩色や白色のスリップ(水簸(すいひ)した泥汁を焼成前に塗り,白色に発色させる)をかけたのち彩色するものをふくむ。直線,渦巻,三角渦巻,円点,方格を基本とし花形を連想させる横帯文様を主にし,施文位置は口頸部,胴部上半外面に限られ,内面におよぶことはない。器種としては杯,盤,椀,深鉢,短頸壺,瓶,甑,蓋,器台などがある。後期の秦王寨(しんおうさい)様式では,赤・茶・黒・白色と彩色が豊かになり,2種以上の彩色を組み合わせる場合が多く,白色スリップをかけたのち彩色するものが多い。深鉢には三角,六角,昆虫,太陽,同心円,菱形文などを組み合わせた横帯文を繁縟(はんじよく)なほどに描きこむ。それに対して,短頸壺などでは数条の横線文に限ったり,その間を斜格子やS字・X字文などでうめる比較的簡略な文様になる。特殊なものとして,魚をくわえた長足の鳥の横に斧を配した絵を甕の外壁に描いたものがある。

 河南省北部,河北省にかけて展開する後岡様式,大司空村様式は,黄河中流のそれぞれ半坡様式,廟底溝様式に対応し,その彩陶は単純なものから複雑なものへと変化している。甘粛,青海地方の仰韶文化は,半坡様式と廟底溝様式ののちさらに発展をとげる。それは石嶺下,馬家窯,半山,馬厰様式に区分され,それにつぐ青銅器時代の斉家文化にも彩陶がのこる。この地方の彩陶の器形と文様は独特の展開をとげ,なかでも半山様式の彩陶は精緻をきわめ,口部から胴部にかけて格子文や渦巻文を密に描いた双耳壺は,埋葬用につくられた明器ではないかとも想定されている。黄河中流で発達する仰韶文化の彩陶は周辺の新石器文化に強く影響し,大汶口(だいぶんこう)文化(山東),紅山文化(遼寧),屈家嶺文化(湖北),大渓文化(湖北,四川)の土器のなかに混入するか,類似の彩陶を産出させた。福建地方の新石器文化である曇石山文化には,細砂灰陶に赤色の斑文や格子の彩文を描いた短頸壺があり,この系統の彩陶が台湾にまでおよんでいる。遼寧から吉林にかけて広がる殷・周時代並行の夏家店下層文化にも華麗な彩陶がある。研磨した泥質黒陶の深鉢や鬲(れき)の焼成後に,朱色と白色を主にしときには黄色をくわえた文様を描く。文様は曲線,折線,鉤形などを組み合わせた雲雷文や巻雲文であり,殷周青銅器の文様との類似性が指摘されている。
彩文土器
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百科事典マイペディア 「彩陶」の意味・わかりやすい解説

彩陶【さいとう】

彩文土器とも。特に中国の彩文土器をさすこともある。素焼の土器の表面に,赤,黒色で文様をつけた土器で,新石器時代〜金属器時代(青銅器時代鉄器時代初頭にみられる。前5000年ごろ西アジア出現,地中海沿岸,黒海沿岸,西アジア,インド,中国など広範な地域に分布する。中国では1923年J.G.アンダーソンによって河南省仰韶(ぎょうしょう)遺跡から発見され,次いで甘粛の各地で発掘された。
→関連項目アナウ仰韶文化屈家嶺遺跡黒陶シアルクスーサテル・ハラフトリポリエ文化ハッスナ文化半山遺跡バンチェン半坡遺跡廟底溝遺跡

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「彩陶」の意味・わかりやすい解説

彩陶
さいとう

中国における彩文土器の呼称。新石器時代の仰韶(ぎょうしょう)文化期を特徴づける遺物とされる。その形態と年代とに多様な地域色を含みながら、黄河中流地方の仰韶文化を中心として、西は甘粛(かんしゅく)・青海(甘粛仰韶文化)から東は揚子江(ようすこう)下流地方(青蓮崗(せいれんこう)文化)に分布し、さらにこれに類する土器は中国東北地区や東南海岸地区でも出土する。彩陶は一般に、精良な粘土を用いて巻き上げ法でつくられ、ろくろは使用されていない。表面は滑らかにへら磨きされる。器形は、黄河中流地方では鉢、碗(わん)の類、甘粛仰韶文化では壺(つぼ)の類が多い。酸化炎で焼かれるため器胎は紅色系を呈する。彩文は普通、焼成前に描かれるが、それに先だち、地肌に赤、白、淡黄色などのスリップ(化粧土)をかける場合が多い。彩色は、鉱物質の顔料を用いた赤または黒の単色が一般的であるが、東方の青蓮崗文化や仰韶文化晩期の彩陶では多色の例もみられる。彩色された図柄は、当時の人々の心象世界を映す精神的な所産でもあるが、仰韶文化早期の半坡(はんぱ)類型のそれは、人面、魚などの特定の動物文と、三角形文、網文などの幾何学文が特徴的であり、やや時期の下がる廟底溝(びょうていこう)類型では、動物文に鳥と蛙(かえる)があり、幾何学文は曲線的に流れるような構成をもつといった、類型ないし地域による図柄の変化がみられる。また現在、世界各地の博物館に所蔵されている彩陶には甘粛仰韶文化のものが多く、それらは流麗な渦文(かもん)に特色をみせる。彩陶の起源については、近年の考古学的成果により、従来一般に主張されてきた西アジア起源説に再考の余地が生じており、かわって中国自生説が有力となっている。

[西江清高]


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旺文社世界史事典 三訂版 「彩陶」の解説

彩陶
さいとう

薄手の素焼きの地に赤・白・黒などで模様を描いた彩色土器。彩文土器ともいう
中国の新石器時代末期から青銅器時代初期に作られた。1921年スウェーデンの考古学者アンダーソンにより仰韶 (ぎようしよう) で発見された。甘粛 (かんくゆく) ・山西・河南・満州南部に分布している。オリエント起源説が主張されてきたが,近年の考古学的成果により中国自生説が有力となっている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「彩陶」の意味・わかりやすい解説

彩陶
さいとう
Cai-tao

広義には彩色の文様をもつ土器を総称するが,狭義には中国の新石器時代の土器をさす。分布の中心は甘粛から河南にかけての黄河流域で,いわゆる仰韶文化の標式土器である。彩陶は長城地帯の熱河付近まで分布するが,遼東半島の彩色土器が中原の彩陶と関係があるかどうかは不明である。

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普及版 字通 「彩陶」の読み・字形・画数・意味

【彩陶】さいとう

着色土器。

字通「彩」の項目を見る

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「彩陶」の解説

彩陶(さいとう)

彩文(さいもん)土器

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世界大百科事典(旧版)内の彩陶の言及

【彩文土器】より

…彩色によって装飾的要素を加えた土器のことで,中国では彩陶とよぶ。釉薬によるものは含まれないが,釉薬によらないギリシア陶器や漢代の土器なども一般には含めない,かなりあいまいな概念である。…

※「彩陶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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