改訂新版 世界大百科事典 「復原力」の意味・わかりやすい解説
復原力 (ふくげんりょく)
stability
restoring force
つり合いの位置から変位した物体を,元の位置に戻そうとする力を一般に復原力と呼ぶが,単に復原力というと,船が傾斜したとき元の姿勢に戻そうとする偶力を指すことが多い。船が水面上で直立している場合,鉛直下方に作用する船の重力と鉛直上方に作用する浮力は大きさが等しく,重心(重力の作用点)と浮心(浮力の作用点)は同一鉛直線上に位置しつり合いを保つ。浮心は水面下の船体の体積中心であるので,船体の傾斜とともにその位置を変えるが,重心は移動しない。傾斜後も重力Wおよび浮力の作用線は水面に垂直であるので,重心Gより浮力の作用線に降ろした垂線の足をZとすれば,船にの偶力が作用する(図)。この偶力が船を元の姿勢に戻す方向に作用するとき,正の復原力といい,船の傾斜を増大させる方向であれば負の復原力という。は復原てこと呼ばれ船の傾斜角φによって変化するので,復原力も傾斜角により異なる。船上での重量物の移動ないし風などの傾斜偶力が船体に作用する場合,傾斜偶力と復原力が等しくなる傾斜角で船は静的につり合う。を静復原力というのに対し,直立状態(φ=0)から角度φまで傾けるのに要する仕事量を動復原力という。静復原力は傾斜角φの増加に伴い増大し,ある傾斜角で最大に達したのち減少する。静復原力が0となる角度φrを復原力滅失角,復原力が正である傾斜角の範囲を復原性範囲と呼ぶ。傾斜角φに伴うの変化を示す曲線を復原力曲線というが,復原力曲線を構成する要素には,重心上メタセンターの高さの最大値,などがある。転覆防止などの船体の安全性からは,これらの値は大きいほどよいが,例えばを過大にしすぎると船の動揺周期が短くなり,船体各所での動揺による加速度が許容限度以上に大きくなり,いわゆる乗りごこちの悪い船になる。したがって,よりよい船であるためには,これらの構成要素が最適な範囲内に収まるように設計することが重要である。
執筆者:藤野 正隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報