大きさが等しく、互いに平行で、反対向きの二つの力が一つの物体の異なる作用点に働くとき、この二つの力を1対として取り扱い、偶力という。この1対の力は物体の重心の運動を変化させず、物体の回転のみを引き起こす。一般に剛体(広がりのある固い物体)の運動は、重心の運動と重心の周りの回転運動に分けられる。前者は剛体の各点に働く力のベクトルの和によって支配され、後者はそれぞれの力の回転させる能力、すなわち回転のモーメントの和によって支配される。偶力の場合、二つの力f1とf2のベクトルの和f1+f2は、f2=-f1であるからゼロとなり、重心の運動は不変である。したがって、静止している剛体に偶力が作用した場合には、全体として物体が移動することはない。しかし、回転モーメントの和は、二つの位置ベクトルをr1、r2としたとき、ベクトル積を用いて
r1×f1+r2×f2=(r1-r2)×f1
となり、相対位置ベクトルr1-r2がf1と平行でない限りゼロにならない( )。平行の場合は二つの力の作用線が一致する。
一般に、偶力の回転モーメントの大きさは、ベクトル積の定義に従って、二つの力の平行な作用線の間の距離をl、力の大きさを|f1|=|f2|=fで表すと、それらの算術積flで与えられ、一つ一つの力の作用点によらない。lは偶力のうでの長さとよばれ、てこの原理のうでの長さに対応する。
[阿部恭久]
大きさが等しく互いに平行で反対向きの力Fと-Fが一つの物体に働き,それらの作用線(力の働く点を通り力の方向に引いた直線)が一致しない場合に,この2力を1対にして偶力という。偶力は重心の運動には影響を与えず,物体が剛体の場合には回転運動だけを変化させる。力の大きさをF,作用線間の距離をdとすると,剛体に対する偶力の働きはFdの大きさと2力を含む面の方向だけで決まるので,大きさがN=Fd,2力の作用線を含む面に垂直でかつその偶力で右ねじの進む向きを方向とするベクトルNで表し,これを偶力のモーメントという。剛体では,Nが等しい偶力であればFやdの大きさや作用点の位置にかかわりなくその働きは同じである。
執筆者:小出 昭一郎
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