既知の自然法則から逸脱しているように思われる現象で、それらが心霊など神秘的な力によっておこされると考えられていた超常的現象を総称していう。この現象に強い関心が寄せられるようになったのは19世紀なかばごろからであり、一方では心霊主義者によって無批判的に受け入れられ、その主張の根拠を与えるものとされたが、他方、科学的立場からの厳密な研究をも促した。
[大谷宗司]
心霊現象には、古くから信仰・習俗のなかで受け継がれてきた予言・占い・神託など、また通常人が日常生活のなかで経験する虫の知らせ・予感など、さらに18世紀末から関心がもたれるようになった催眠トランス時にみられる奇異現象、および19世紀中ごろから盛んとなった霊媒が交霊会séanceで示す奇異な現象が含まれる。これらは「物理的心霊現象」physical psychical phenomenaと「精神的心霊現象」mental psychical phenomenaとに分けられる。
物理的心霊現象には、触れることができるなどの物理的性質をもった幽霊が現れる「物質化現象」materialization、支持物がない状態での「物体浮揚」levitation、触れることなく物体を動かす「隔動(かくどう)現象」telekinesis、痕跡(こんせき)を残さず物体を通り抜ける「物体貫通」apport、原因もなく室内で物をたたくような音が聞こえる「叩音(こうおん)」rap、同じく家屋の内部が荒らされる「騒ぐ霊」poltergeist、ペンや石筆がひとりでに動いて文字などを書く「直接書記」direct writingや「石盤書記」slate writing、またそのとき存在しなかったものが撮影される「心霊写真」psychic photography、感光させることなく思念するだけで感光現象や映像を写真乾板に現す「念写」thoughtographyなど化学的効果を生じるものなどがある。
精神的心霊現象には、空中から霊の声が聞こえるとする「直接談話」direct voice、霊媒の口から霊の意向が伝えられるという「自動談話」automatic speaking、霊媒の手が自動的に動いて文字や絵を描き出す「自動書記」automatic writingや「自動描画」automatic drawing、同じく自動運動によるものであるが、「プランセット」planchette、「ウイジャ板」ouija board、「こっくり(狐狗狸)」などの器具を用いて霊からの通信を受けるというもの、「水晶凝視」crystal gazingといい水晶球の中に遠隔地や未来のできごとを映像として見ることなどがある。視覚的イメージを伴って未知の事柄を知るのを「透視」clairvoyance、聴覚を伴うものを「透聴」clairaudienceといい、あたかも現地に行って体験したように遠方からそれを知るのを「遍歴透視」travelling clairvoyanceという。これらの現象を「霊魂」を仮定せず説明するため、人の心と心との直接の通い合いを表す「テレパシー」telepathyという語が考案された。物品を見て、それにまつわる過去のできごとを当てる「探魂法」psychometry、手に持った木の枝や針金の動きで地下の水脈や埋蔵物を当てる「杖(つえ)占い」dowsing、医学的方法によらず、心霊の力により病気の診断治療を行う「心霊治療」psychic healing、同じく外科手術を行うのを「心霊手術」psychic surgeryという。
[大谷宗司]
心霊現象についての科学的研究は、1882年、イギリスに「心霊研究協会」The Society for Psychical Research(S.P.R.)が設立され組織的に行われるようになった。そして、交霊会における諸現象の真偽を確かめるための観察、人間の死の時刻に一致して体験される幻覚についての統計的調査、霊からの通信を複数の霊媒が独立に受信し、それらの内容を比較するという「交差通信」cross correspondenceなどの試みが行われた。そして、これらが人間の死後、生前の個性を保ちながら存続する可能性についての証拠を与えるものであるか否かの問題が研究された。
当時の研究者には、物理的心霊現象を研究し、また統計的方法を用いて透視の研究をしたフランスの生理学者リシェ、物質化現象を研究したイギリスの物理学者クルックス、心霊現象の研究を通じ「識閾下(しきいきか)意識」subliminal consciousnessの役割を強調したイギリスの哲学者マイヤーズFrederick William Henry Myers(1843―1901)、精神的心霊現象の研究をしたアメリカの心理学者ジェームズ、念写の研究で有名な日本の福来友吉(ふくらいともきち)などがいる。
しかし、日常生活のなかで経験される心霊現象は、事実の信憑(しんぴょう)性を示す証拠を得ることが困難であり、霊媒を用いての研究では、条件を十分に管理することがむずかしく、詐術や錯誤を完全に排除することは不可能であった。また、死後の個性存続の問題に、確実な結論を得るための方法をみいだすことは困難である。
心霊研究は20世紀に入り信頼性のある方法論を開発することにより超心理学として発展している。
[大谷宗司]
『ライン著、瀬川愛子訳『心理学の新世界』(1958・日本教文社)』▽『小熊虎之助著『心霊現象の科学』(1983・芙蓉書房)』▽『宮城音弥著『超能力の世界』(1985・岩波新書)』▽『大谷宗司著『超心理の世界』(1985・図書出版社)』
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…通常人にない超能力をもつ人が経験しやすい現象で,有名な宗教家などにはこのような能力をそなえた人物が多い。このほか,死者の姿をみたり,奇跡的な治療を行ったりする現象も超常現象に含まれるが,そのメカニズムはまだ十分明らかでないので,これらは心霊現象とよぶ場合が多い。【湯浅 泰雄】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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