千里の先まで見通すことができる目の意で、転じて、遠方のできごとや未来のこと、また他人の心を見通すことができる能力や、その持ち主をいい、天眼通ともいう。中国、魏(ぎ)の楊逸(よういつ)がスパイを駆使して情報を集め、遠く隔たった土地のことまでよく知っていたので、人々が「楊逸は千里眼をもっている」といった、と伝える『魏書』「楊逸伝」の故事による。また、天帝に仕える神で、天上から下界のすべてを見通している神をいい、下界の万事を聞き知る順風耳に対する。
[田所義行]
わが国で初めて超心理学の研究が行われたとき、超常的現象をさすことばとして千里眼の語が用いられた。1910年(明治43)心理学者福来友吉(ふくらいともきち)は、熊本の御船千鶴子(みふねちずこ)について透視の研究を始めたが、第二の被験者丸亀(まるがめ)の長尾郁子(ながおいくこ)について透視実験の実施中、念写の可能性に気づいた。彼は多くの実験の結果、両現象の存在を確信するに至った。一方、物理学者山川健次郎を中心とする研究グループができ、千里眼研究には物理学者が適しているとして若干の実験を行った。しかし、ともに科学的研究を目ざしながら両者は協調することなく、ついに統一的結論を出すに至らなかった。物理学者たちは彼らの研究の経過を『千里眼実験録』(1911)と題して発表し、福来は『透視と念写』(1913)と題し、両現象は実験的に証明されたと報告した。当時これら研究の経過および能力者(千里眼者)についてセンセーショナルな報道が行われ、この事件は「千里眼問題」として世間の注目をひいた。現在の超心理学では千里眼の語は用いない。
[大谷宗司]
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…超心理学では透視,テレパシー,予知の三つをまとめていう。このうち最もよくみられるのが透視で,俗に千里眼ともよばれる。霊媒や超能力者によくみられる能力で,素質的要因がつよいが,訓練によっても得られる。…
…目を使わずに他の身体部位で字を読んだり,カードの裏の図形をあてたり,遠くにある物の様子を見ること。俗にいう千里眼にあたる。超心理学ではESP(超感覚的知覚)といい,テレパシーと同質の現象とする。…
※「千里眼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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