超感覚的知覚(ESP)、念力(PK)などの超常的現象を研究する科学の一部門。
[大谷宗司]
アメリカの超心理学者ラインは、それまで心霊現象とよばれていた数多い超常的現象を整理分類しESPとPKとにし、厳密な実験条件のもとで統計的手法を用い、通常人がこれらの能力をもっていることを証明した。彼は感覚的手掛りを排除した条件で、ランダマイズrandomize(無作為化)したカード(5種の図形をもつ)の順序を当てさせるという方法(透視条件)で、1934年までに通常人206人を用いて9万1174試行のテストを行い、偶然期待値を7319超える高度に有意な結果を得た。続いてテレパシー・予知を実験的に証明し、これら三者をあわせESPとよんだ。さらに、さいころ投げ法で念力(PK)を証明した。ラインの実験について、38年のアメリカ心理学会の大会でのシンポジウムで、その実験条件の厳密性について、37年のアメリカ統計数理学会の大会において、用いられた統計処理の適切性が承認された。しかし、ESPとPKのもつ超常的性質のため、まだすべての科学者がその存在を認めるという段階には至っていない。ESPとPKをあわせサイ(psi,ψ)とよぶ。
[大谷宗司]
サイ現象の研究は、おもに通常人の示す弱い効果について統計的手法を用い、自然科学の各種領域の研究方法を用いて行われている。心理学的研究では、主体的条件、つまりESP情報の受け手、テレパシーあるいはPKの作用者の性格、態度などの心理的条件と得点との関係、生理学的研究では、中枢神経系の機能との関係が研究され、生物学的研究では、サイ能力の生物界での分布状態の研究、工学的領域からは、電子工学的方法による実験装置の改良(乱数系列発生装置など)、物理学的問題としては、サイ現象の時間・空間的性質の研究や理論物理学での問題をサイ現象の説明に関連づける試みなどがなされている。
日常の生活のなかで偶発的に経験されるサイと思われる現象の調査も、サイの機構解明のための実験的研究に示唆を与えるものとして重要な役割をもつ。
サイ現象は心理的・生理的条件により微妙に影響される。現在扱われているサイ効果は微弱で不安定である。そのため、特殊能力をもつと思われる者の研究、サイ能力の開発訓練の研究が行われているが、まだ成果が得られていない。この効果の空間的性質については地球的規模の距離を隔てて効果が検出されているが、それ以上の知識は得られていない。予知現象も理論的に困難な問題を提起している。このように基礎的研究は十分な進展をみせていないが、近時、サイ能力の応用に関して関心がもたれるようになった。
[大谷宗司]
超心理学者の国際的集まりとして超心理学協会Parapsychological Associationがあり、アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツ、インドなどには専門の研究機関があり、多くの国々には研究者の団体があり、わが国では1963年(昭和38)日本超心理学会The Japanese Society for Parapsychology(東京都中野区中央四丁目)が設立された。
[大谷宗司]
『J・B・ライン著、瀬川愛子訳『心理学の新世界』(1958・日本教文社)』▽『宮城音弥著『超能力の世界』(1985・岩波新書)』▽『D・J・ウエスト著、大谷宗司・金沢元基訳『現代の超心理学』(1966・誠信書房)』▽『大谷宗司著『超心理の世界』(1985・図書出版社)』▽『大谷宗司編『超心理の科学』(1986・図書出版社)』
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報
超常現象についての学問的研究をいう。その歴史的先駆になったのは,19世紀末から20世紀初めに盛んだった心霊研究である。当時W.ジェームズやベルグソンをはじめ,多くの哲学者や科学者が超常現象を研究したが,一般には受け入れられなかった。これに対して,新しい立場から研究する方法を考えたのは,アメリカのラインである。ラインはまず,問題の多い心霊現象についてはとりあげず,研究の対象をESPと念力(PK)の二つだけに限定した。ESP研究の手段としては,特殊な図形(星,十字,波,円,正方形)を描いたESPカードを用い,念力の研究にはさいころを用いた。ラインの研究は,被験者に対する実験管理がきわめて厳重であったばかりでなく,実験結果を統計的に分析し,数量的に示す方法を発明した点において,超常現象の学問的な研究の基礎を確立したものであった。超心理学という名は彼が選んだものである。ラインの研究は1934年に発表され,37-38年のアメリカ心理学会で討論された結果,実験管理や統計的分析の方法には不備のないことが承認された。しかし一般の心理学者には反対の意見が強かった。第2次大戦後になって研究が進歩し,一般の理解も進んできたので,今日では,心理学者や精神医学者の間では,ESPと念力の存在を認める人も出ている(ただし念力については,やや懐疑的な考え方もみられる)。
ラインの研究は,超常現象を引き起こす原因としての被験者の能力と,起こった現象(結果)の関係を数量的に示したものであるが,原因と結果を関係づけるメカニズムは,まだ明らかにされていない。ライン以後の超心理学研究は,このメカニズムの解明に向かっている。超常現象を引き起こす原因は被験者の能力(いわゆる超能力,超心理学ではサイpsi能力とよぶ)にあるが,それは無意識の領域に潜在するものと考えられる。もともと,フロイトやユングのような深層心理学者たちは,臨床的経験から超常現象に関心をもち,心霊現象についての実験も行っていた。今日では,深層心理学と生理学的心理学の研究が進歩した結果,サイ能力は神経や無意識のはたらきと関係が深いものと考えられてきている。また超心理学を,深層心理学,心身医学,東洋医学(ヨーガ,鍼(はり))などの領域と関連させて研究する傾向が強くなってきた。現在,超心理学の研究が最も盛んなのはアメリカとソ連(現,ロシア)である。心理学者や医学者ばかりでなく,物理学者なども参加した学際的研究が盛んである。ソ連では国費を投じて研究していたが,これは宗教ではなく唯物論の立場に立っていた。アメリカでは宇宙空間におけるテレパシー実験や,潜水艦を使った実験もしている。米ソに次いで研究が盛んなのはインドとヨーロッパ諸国で,インドでは宗教の研究と関係させる傾向が強い。日本では,ともにラインに学んだ大谷宗司の日本超心理学会と本山博の国際宗教超心理学会が中心である。ユネスコでは超心理学を現代科学の重要テーマとして,とくに後援している。
→心霊学
執筆者:湯浅 泰雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…近代科学が忘れ去った古代以来の秘密の知,占星術,魔術,錬金術,神智学,降霊術,カバラなども多かれ少なかれオカルティズムの総称の下に包括される。現代では超心理学の別名の下に科学的なアプローチも行われている。 〈オカルト〉という語は16世紀前半からあらわれはじめたが,オカルト的信仰そのものの起源は古く,エジプトやメソポタミアの占星術,ヘブライのカバラ,古代ギリシアのピタゴラス教にまでさかのぼる。…
※「超心理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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