意識の本質性格を示す,フッサール現象学の術語で,現象学の研究領域全体を示唆する主要概念。彼の恩師ブレンターノは,〈対象の志向的,心的内在〉という中世スコラ哲学の用語を借用して,物理的現象と異なる心的現象の特性は,対象に関係し,志向的にそれを内蔵している点にあるとした。これに倣ってフッサールもまず最初は,志向性という術語で〈意識は常に何かについての意識である〉という,意識の静態的構造を表現した。しかしその後彼の関心が,意識構造の単なる記述的研究から,意識作用の諸機能と(いわゆる超越的な)意識対象の在り方についての超越論的-構成的研究へ進むにつれて,志向性も〈自我は意識されたものを意識されたものとして意識する〉という主観-客観の機能的関係を表す術語となり,超越論的主観が志向的対象にその対象的意味を付与する作用(すなわち構成的機能)が志向性と呼ばれるようになる。このほか,諸体験を自我の統一的な体験流へ総合する機能や,感覚与件を受容する機能なども,志向性と呼ばれている。
→現象学
執筆者:立松 弘孝
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現象学の基本概念であり、意識がつねに「或(あ)るものについての意識」であり、つねに一定の対象に向けられていることをいう。ブレンターノは心的現象を物的現象から区別するために、スコラ哲学の志向intentioに由来する志向的内在という術語を用いた。フッサールはこの志向性を構成的志向性へと深め、世界の超越論的構成の問題として発展させた。さらにハイデッガーは志向性を「存在への超越」のうちに基礎づけることを試み、メルロ・ポンティは生きられた世界とのかかわりのうちで、志向性の問題を展開した。
[細川亮一]
…その意味では,カントの構成主義はフッサールに継承されたと言ってよい。彼においては,意識は〈何ものかの意識〉として,対象定立的〈志向性〉を本質とするが,志向性はまた,受動的に与えられる〈生活世界〉をはじめ,知的に構築される科学の諸理念に至るまでのいっさいを〈構成〉する総合の働きでもあったのである。その際,〈受動的総合〉といった概念の導入によって,総合と事実上の自己意識の諸段階との調和が図られているのは,一つの前進と言える。…
…〈スイッチを押す〉という意図的な行為が実現していないからである。行為への意図は,単に意図の結果としてある行為が生ずることを意図するのみならず,まさにその意図によって行為が引き起こされることを意図することをも同時に含んでいる点で,〈自己関係的〉構造を示しており,意図の志向性はこの点で単なる欲求の志向性と区別される。このように考えてくるなら,行為とは,単なる物理的な現象とは違って,欲求,信念,意図などの志向的状態を伴った身体的運動だということになる。…
…この条件を充足する第1の所与は,反省的直観によって直接明証的に把握される自我の〈意識現象〉すなわち自分自身の知覚体験や認識体験の内在領域である。したがって,これら意識体験の構造と機能を記述することが,現象学的研究の第1の課題となり,そしてその結果,意識の本質特性はその志向性(すなわちつねに何らかの対象に関係し,それを思念すること)にあることが確認された。次いでこの特性と関連する第2の課題は,志向される〈対象現象〉としての諸事物とその世界の根源的な在り方を,あくまでも意識体験との相関関係の中で解明することであり,そして第3の課題は,意識する自我それ自身の存在性格を考察することである。…
…それに対して第2巻の主題は,それらイデア的諸対象を認識する主観の意識体験に立ち帰って,その構造や機能を記述分析することにある。この記述的研究の最大の成果は,意識の本質特性をなす志向性,すなわち意識はつねに何らかの対象に関係して,それに何らかの意味規定を与えるものであること,したがってまた,われわれにとって認識可能・存在可能な対象は,つねに何らかの意識作用の相関者であるという事情を解明したことや,本質直観の可能性とその方法論的重要性を示したことである。しかし本書の論述はまだ不完全であり,その後いろいろ修正される。…
※「志向性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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