内科学 第10版 「急性心膜炎」の解説
急性心膜炎(心膜疾患)
心膜疾患は①急性心膜炎,②慢性心膜液貯留と心タンポナーデ,③慢性収縮性心外膜炎に大別される.急性心膜炎はさまざまな原因によって起こる心外膜の急性炎症である.
原因・病因
1)特発性(非特異的):
原因不明という意味であるが,1/4 では先行する感冒症状などウイルス性を疑われる例が含まれる.心膜穿刺が可能な例では割合が低下する.
2)感染性:
ウイルス性ではコクサッキーA,B,エコー,アデノ,サイトメガロ,ヘルペスなどが主で,ペア血清により診断される.細菌性では以前は結核性が多かったが減少してきており,肺炎・胸膜炎それに手術や外傷が波及して起こる肺炎球菌,ブドウ球菌,連鎖球菌,Gram陰性桿菌が多い.真菌性や寄生虫によることもある.
3)急性心筋梗塞:
貫壁性梗塞に接する心膜の炎症で,梗塞後2~4 日後に一過性に発生する.大梗塞,急性期に冠動脈インターベンション治療が施行されていないことがリスクとなる.
4)尿毒症:
狭義の尿毒症性心膜炎は尿毒症毒素による化学的炎症反応であり,広義には腎不全患者で認められる感染性の心膜炎も含まれる.頻度は比較的高い.
5)腫瘍性:
頻度は比較的高く,肺癌,乳癌,造血器の悪性腫瘍などの転移性腫瘍によることが多い.
6)放射線:
Hodgkinリンパ腫,乳癌,肺癌の治療のため肺や縦隔に対する照射の直後より起こり,照射された心臓の範囲と照射量の増加により発生のリスクは増す.
7)自己免疫疾患:
全身性エリテマトーデス(頻度約50%),全身性強皮症(16%),関節リウマチ(10%),混合性結合組織病,多発血管炎,巨細胞動脈炎,そのほかの血管炎などに認められる.炎症性腸疾患にも合併することがある.
8)薬物:
①薬物性ループスによる(プロカインアミド,ヒドララジン,イソニアジド,フェニトインなど),②過敏反応により,好酸球増加を伴う(ペニシリンなど),③心筋傷害を伴う(ドキソルビシン,ダウノルビシンなど).
9)外傷
: 胸部の鈍的あるいは穿孔性外傷後に発生する.ペースメーカ挿入や中心静脈カテーテル挿入などの医療行為も原因の1つとなる.
10)遅延性心筋-心膜障害後症候群:
急性心筋梗塞後1 週以降(2~11 週が多い)に生じる心筋梗塞後(Dressler)症候群と心膜切開術後1 週以降(1~3 週が多い)に生じる心膜切開後症候群の総称で,自己免疫機序が想定されているが,急性期冠動脈インターベンション治療の時代において急性心筋梗塞後の心膜炎はきわめてまれである.
11)急性大動脈解離:
上行から弓部大動脈の解離腔から心膜腔への出血により起こる.
12)その他
: 心筋梗塞後の心破裂(切迫破裂),粘液水腫,サルコイドーシスなどによる.病態生理 心臓の外側は心膜(pericardium)という二重の膜で覆われているが,心筋に密着している膜を心外膜(epicardium),胸膜に接した外側の膜を壁側心膜という.両者は大動脈基部と肺動脈,大静脈還流入口部にて反転して連続しており,20~30 mLの生理的心膜液で満たされている.心膜と近接した胸膜の炎症により横隔膜神経や肋間神経が刺激され,特有な「鋭い」(sharp)胸痛が突然出現する.さらに,心膜が擦れあうことで心膜摩擦音を発する.
臨床症状
1)自覚症状
: 胸痛は深呼吸や仰臥位で増強し,浅い呼吸や坐位,前屈姿勢で軽減する.部位は前胸部のことが多く,時間から日単位で持続する.発熱が認められることもある.胸痛の頻度は高いが,感染性の心膜炎では胸痛はほぼ必発であり,発熱もしばしば合併する.
2)他覚症状:
心膜摩擦音は特徴的である.しかし,その程度は変化するため常に聴取できるわけではない.「ひっかくような」(scratchy)とか「キーキーいう」(squeaking)と形容される膜型の聴診器にて聴取できる高調性の雑音である.坐位や前屈で息止めをすると左胸骨左縁にて聴取しやすい.心膜摩擦音は前収縮期,収縮期,拡張早期雑音の3 成分より構成されるが,3 成分すべてがあるのは約半数にすぎない.
検査成績
1)心電図:
数病日までみられるaVRとV1 を除く全誘導での上に凹のST上昇(第1期)が診断的価値がある.aVRのPR上昇とほかの誘導でのPR低下がみられることがあるが,aVRのPR上昇の診断特異性は高い(図5-12-1).第2期には1週間程度でST もPRも基線に戻り(偽正常化),第3期にはT 波が陰性となり,これらの変化は約1~2カ月で正常化する(第4期).特有な心電図変化は約60%で認められる.約7%に不整脈がみられるが,その場合は心筋炎の合併(心膜心筋炎,perimyocarditis)を疑う.
2)血液検査:
白血球増加,赤沈亢進,CRPの上昇など全身の炎症所見を認めることがある.心膜心筋炎では心筋逸脱酵素が上昇する.抗核抗体やツベルクリン反応,クォンティフェロン検査も参考となる.
3)画像診断:
心臓超音波検査,心臓CT,心臓MRIなどで心膜液貯留を認めるが,認めなくても心膜炎は否定できない.診断 特徴的な胸痛と病因に関係する病歴,心電図所見,心膜摩擦音,新規または増悪する心膜液貯留により診断される.心膜穿刺が可能であれば,穿刺液の生化学検査,細菌検査,細胞診が病因検索に有用である.しかし,診断が困難な場合や細菌性,腫瘍性などで心タンポナーデのおそれのある場合,治療抵抗性の場合以外には必ずしも推奨されない.心膜液のアデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)活性が45 IU/L以上は結核性を示唆する.
鑑別診断
心筋梗塞,狭心症,大動脈解離,肺血栓塞栓症,気胸,胸膜炎など胸痛を伴う疾患との鑑別を要する.なかでも,虚血性心疾患との鑑別が重要である.虚血性心疾患では痛みが左肩や左腕,喉に放散するが,心膜炎でも同様の症状を訴えることがある.狭心症では持続時間が1~5分のことが多く,呼吸や体位により影響されない.心筋梗塞急性期のST上昇は上に凸である.合併症
心タンポナーデや心筋炎,慢性収縮性心外膜炎が合併することがある.治療・予防・リハビリテーション 原疾患の治療(抗菌薬,抗結核薬,抗腫瘍薬)を行い,胸痛と発熱が消失するまで安静とする.胸痛に対しては,アスピリンやインドメタシンなどの抗炎症薬(NSAIDs)を2週間程度投与する.コルヒチンの併用も推奨されている.心筋梗塞後の場合はNSAIDsよりもアスピリンが推奨される.中用量の副腎皮質ホルモンは自己免疫疾患,透析に反応しない尿毒症,NSAIDs禁忌の場合,治療抵抗性の場合のみに使用を限定する.心タンポナーデの合併例では心膜穿刺による速やかな排液が必要である.[原田和昌]
■文献
Robb JF, Laham RJ: Profile in pericardial disease. In: Grossman's Cardiac Catheterization, Angiography, and Intervention, 7 th ed (Baim DS eds),pp 725-743, Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, 2006.
吉川純一編:心筋炎・心膜疾患.臨床心エコー図学 第3版,文光堂,東京,2008.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報