家庭医学館 「急性扁桃炎」の解説
きゅうせいへんとうえんあんぎーなこうきょうえん【急性扁桃炎(アンギーナ/口峡炎) Acute Tonsillitis】
急性の炎症が口蓋扁桃(こうがいへんとう)におこる病気で、痛みとともに、のどが赤く腫(は)れ、狭くなったように見えるので、アンギーナ(口峡炎)とも呼ばれます。
[原因]
口蓋扁桃は気道と上部消化管の間にあるため、いつも外界からの刺激にさらされています。そのため、この部分は細菌やウイルスがつきやすいものです。
口蓋扁桃には通常、病原性をもたない常在細菌(じょうざいさいきん)がすみついていて、外からの病原微生物の感染を防いでいます。ところが、病原性をもった細菌やウイルスにさらされたときに、かぜ、気候の変わり目での寒冷刺激、疲れ、睡眠不足などのストレスが加わると、病気に対する抵抗力のバランスが崩れ、扁桃炎がおこることになります。
ウイルス感染が初めにおこり、これにともなって病原性をもったA群β(ベータ)溶連菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、ブランハメラ菌(ブランハメラ・カタラーシス)などの細菌が増殖、活動して急性扁桃炎がおこります。
[症状]
のどの痛みとともに、ひどい寒け(悪寒戦慄(おかんせんりつ))、だるさ、38~40℃程度の高い発熱がみられ、手足や背中の関節が重く感じたり、痛みを感じることもあります。
のどの痛みが強く、飲食物を飲み込めず、耳のまわりに響くような痛みを感じることもあります。
子どもは、急性中耳炎(きゅうせいちゅうじえん)(「子どもの急性中耳炎」)が同時におこっている場合もあり、耳が強く痛むことがあります。
[検査と診断]
口の中を見ると、両方の口蓋扁桃が赤く腫れています(急性(きゅうせい)カタル性扁桃炎(せいへんとうえん))。
表面に小さな膿(うみ)がついていたり(急性瀘胞性扁桃炎(きゅうせいろほうせいへんとうえん))、表面の凹凸のへこんでいる部分(扁桃陰窩(へんとういんか)、腺窩(せんか))に黄白色~灰白色のかたまっている感じの膿(膿栓(のうせん))がみられたりすることもあります(急性陰窩性扁桃炎(きゅうせいいんかせいへんとうえん))。
膿が表面全体をおおい(偽膜(ぎまく))、はがすと表面がびらん(ただれ)ていたり、少しの出血がみられることもあります(急性偽膜性扁桃炎(きゅうせいぎまくせいへんとうえん))。
原因菌の種類を調べて、有効な抗生物質を選ぶため、のどから細菌を採取して検査します。
また、炎症の程度を知るために、血液を採取し、白血球(はっけっきゅう)の数や種類などを調べます。
[治療]
医師の治療を受けるとともに、家庭での安静を守り、うがいを励行することがたいせつです。また、食事にも配慮が必要になります。
●医師の行なう治療
原因菌に有効な抗生物質の使用が中心となります。第1選択として広域ペニシリン系、セフェム系の抗生物質が用いられることが多いものです。
これに、炎症を抑え、のどの腫れをやわらげる効果のある抗プラスミン剤や非ステロイド性消炎鎮痛薬(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬ではない消炎鎮痛薬)を加えます。
のどの痛みが強くて薬が飲めないときは、抗生物質や解熱薬の坐薬(ざやく)を用い、食事が十分にとれないときや、高い熱が続き脱水傾向にあるときは、静脈から水分と栄養を補うための点滴とともに、抗生物質も点滴する静脈内投与を行なう場合もあります。
症状が強いときは、入院して同じ点滴治療を行なうこともあります。
扁桃の表面へのルゴール液、プロタルゴール液、マンドル液の塗布(とふ)は、炎症を抑える効果がありますが、症状が激しいときには刺激が強いので、病気のかかりはじめや、炎症が軽くなってから行なうようにします。
●家庭での治療と養生
安静
からだのだるいときや熱が高いときはむりをさせず、外出、通園・通学はやめさせて、安静にさせることが必要です。また、入浴もできるだけ避けて保温を保ち、十分な睡眠をとらせるようにします。
うがい
うがいは、口腔内(こうくうない)を清潔にし、咽頭(いんとう)や口蓋扁桃の表面にある、病原性をもった細菌を減らす効果があるので、うがいをさせることは必要です。
ただし、炎症が強いときには、刺激が強く、痛むこともあるので、口に含む程度で静かに行なわせます。
口内錠(こうないじょう)・トローチ
抗生物質を含むもの、消炎鎮痛薬を含むもの、非ステロイド抗炎症薬を含むものなど、さまざまな種類があって、薬剤の効果が口の中で持続し、痛みをやわらげるのに効果があります。
医師から抗生物質の薬をもらっているときは、抗生物質が含まれていないものを使うようにします。
食事
食事はなるべく刺激が少なく、食べやすいもの(おかゆなど)をとらせるようにします。
少量で高い栄養が補給でき、飲み込みやすいことから、プリン、ヨーグルト、ゼリーなども適しています。
また、ビタミンCの補給、水分の十分な補給も心がけます。
のどの痛みが強くて食べ物が飲み込めなかったり、高い熱で食欲がなかったりするために、からだが脱水状態となることがあるので、水分だけでも十分にとらせることが必要です。
きゅうせいへんとうえん【急性扁桃炎 Acute Tonsillitis】
病原微生物が扁桃(口蓋扁桃(こうがいへんとう))に感染し、急性の炎症がおこる病気です。
扁桃は免疫臓器(めんえきぞうき)と感染臓器の二面性をもっています。通常の状態では扁桃の免疫能が強いため、細菌やウイルスにさらされても、これを排除し、感染はおこりません。しかし過労やストレス、のどの衛生状態の悪化などで扁桃の免疫能が低下すると、感染がおこり、扁桃炎が発症するといわれています。
[原因]
原因となる細菌は、β溶血性(ベータようけつせい)レンサ球菌(きゅうきん)(溶連菌(ようれんきん))、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)、肺炎双球菌(はいえんそうきゅうきん)などが多いのですが、ウイルスによる場合も少なくありません。
最近では、性行為によってクラミジア、単純ヘルペスウイルスⅡ型が感染して扁桃炎がおこることもあります。
[症状]
のどの痛みが強く、ものを飲み込むときにとくに痛みます。また、からだがだるく、ひどい寒け(悪寒(おかん))がした後、38~40℃の高い熱が出ます。
重症になると、圧痛をともなう頸部(けいぶ)リンパ節の腫(は)れがみられます。
口蓋扁桃が赤く腫れ、炎症がひどくなると、扁桃の表面にある凹凸のへこんだ部分(陰窩(いんか))に一致して、汚い白色の苔(こけ)(膿栓(のうせん))がつきます。
診断は容易で、症状と扁桃の観察をすればわかります。血液検査や細菌検査を行なって、病状の程度や起炎菌(きえんきん)を調べることもあります。
[治療]
抗生物質と消炎鎮痛薬の服用が治療の中心です。うがいや吸入(抗生物質、ステロイド、抗プラスミン剤)などの局所療法も有効です。
ふつうは1週間程度の通院で治りますが、まったく飲食物がとれないようなときは、点滴で水分と栄養を補うため入院が必要になることもあります。
[日常生活の注意]
頭痛、発熱のために食欲がなく、飲食物がとれないときは、からだが脱水状態にならないように、水分だけは補給するようにします。
のどの痛み、開口障害があるので、刺激の少ない流動食か軟食にし、良質のたんぱく質、ビタミンC、さらに水分を十分とるようにします。
急性扁桃炎はありふれた病気のため、家庭での治療で治そうとする人もいますが、炎症が広がると扁桃の周囲に膿(うみ)がたまったり(扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう))、喉頭(こうとう)に波及して呼吸困難をおこしたり(急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん))するので、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)を受診したほうがよいでしょう。