急性間質性腎炎

内科学 第10版 「急性間質性腎炎」の解説

急性間質性腎炎(間質性疾患)

定義・概念
 腎臓を構成するおもな構造は糸球体尿細管,間質,血管である.急性間質性腎炎病変の主座が腎の間質にあって急速に炎症所見を呈するものをいうが,ほとんどの場合尿細管病変をも同時に伴うため,急性尿細管間質性腎炎(acute tubulointerstitial nephritis)と呼称されることが一般的である.この部位に急性の炎症が起こると腎機能が数日から数カ月で急速に悪化して,急性腎不全病態をとることが多いのが特徴的である.
分類
 病変を引き起こす原因による分類が一般的である.すなわち,薬剤によるもの,感染症によるもの,その他の原因によるもの,などである.急性尿細管間質性腎炎の詳細な機序はまだ十分解明されていないので,病態生理に基づいた分類は一般的でない.
原因・病因(表11-7-1)
急性間質性腎炎の原因として最も多いのは薬剤性である.次いで感染症,免疫異常によるもの,である.薬剤によるものでは抗菌薬,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs),などが代表的なものであるが,そのほかに,ヒスタミンH2受容体拮抗薬(シメチジンなど),プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾールなど),尿酸合成阻害薬(アロプリノールなど),抗てんかん薬フェニトインなど),があげられる.感染症によるものでは腎臓への直接感染によるもの(腎盂腎炎)と,機序不明のものがある.免疫学的異常によって起こるものは多様である.全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),Sjögren症候群,Wegener肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症)に伴って起こるものはよく知られている.また,サルコイドーシスやTINU(tubulointerstitial nephritis with uveitis)症候群,まれではあるが抗尿細管基底膜(tubular basement mem­brane:TBM)抗体腎炎などが報告されている.
疫学・統計的事項
 Thadhani Rら(N Engl J Med, 334: 1448, 1996)によると,急性腎不全のうち約10%は間質性腎炎であると報告されている.また,Haas Mら(Am J Kidney Dis, 35: 433, 2000)らによると,急性腎不全で腎生検が行われた症例の18.6%は急性尿細管間質性腎炎,1.6%が急性腎盂腎炎であった.Baker RJら(Nephrol Dial Transplant, 19: 8, 2004)による急性尿細管間質性腎炎128例の原因分析では,薬剤性71.1%,感染症15.6%,特発性7.8%,TINU症候群4.7%,サルコイドーシス0.8%,などとなっている.近年のデータでは,薬剤が原因と考えられるものがさらに一層増加している(Pragaら,2010).
病理(図11-7-1)
 基本的には腎間質に広範に炎症性細胞浸潤を伴い,尿細管の萎縮やときには破壊を伴う一方で,糸球体の形態学的な異常は軽度である.病因によって浸潤細胞の主体が異なることに注意を要する.すなわち,一般的にはリンパ球を中心とした単核球の浸潤が主体であるが,好酸球や形質細胞の浸潤が多くみられる場合には,アレルギー性やSjögren症候群によるものが示唆される.またWegener肉芽腫,サルコイドーシス,結核,TINU症候群などの肉芽腫性病変では,類上皮細胞の集簇による肉芽腫瘍病変が観察される.急性腎盂腎炎の場合には,多核白血球の浸潤が目立ち尿細管腔には白血球円柱を認めることがある.尿細管基底膜の断裂,尿細管細胞の萎縮壊死,障害が高度の場合には尿細管構造の消失に至る.
 免疫蛍光抗体法では一般的に陰性所見となることが多いが,SLE関連のものではTBMに沿って顆粒状に,また,抗TBM抗体によるものでは線状にIgGが沈着する.さらにIgG4関連腎症ではIgG4陽性の形質細胞が多数集簇する.
病態生理
 急性尿細管間質性腎炎の機序としては,まず第一段階でアレルギー,感染,免疫学的機序などにより,間質に炎症が惹起される.アレルギーの機序としてはいわゆるアレルギーのⅠ~Ⅳ型のいずれもがあり得るとされている【⇨10-22-1)】.次の段階では浸潤した炎症細胞がさまざまなサイトカインを産生放出して,腎炎を増悪させる.障害が高度の場合や遷延する場合には,間質の線維化が惹起され不可逆的に腎機能が悪化する.
臨床症状
 病因によって症状は異なる.急性腎盂腎炎の場合には,発熱と腰背部痛が特徴的であるが,多くの場合自覚症状はないかあっても非特異的かつ軽度である.すなわち,発熱(微熱),発疹,関節の痛み,悪心,嘔吐,下痢,腹痛などの消化器症状などである.病気が進行すると,尿量の減少やむくみが自覚されるがもっと以前の段階で診断されることが望ましい.
検査成績
 血液検査で腎機能低下を示す所見が最も重要である.すなわち血清クレアチニンおよび尿素窒素値(BUN)の上昇である.一般尿検査では異常はないかあっても軽度の蛋白尿あるいは血尿である.尿沈渣所見では白血球尿あるいは白血球円柱を認める.腎臓への尿路感染症以外は,尿細菌培養は陰性である.尿細管障害のマーカーであるN-アセチル-β-d-グルコサミニダーゼ(NAG),尿α1-ミクログロブリン,尿β2-ミクログロブリンの上昇を認める.最近では新規のバイオマーカーとしてヒト尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)が保険適用となっており,早期に尿細管障害を正確に感知できる. 炎症マーカーであるCRPは通常は軽度陽性であるが,感染症がある場合には強陽性となる.尿細管機能障害に基づく電解質酸塩基異常が惹起されることがある(尿細管疾患の項参照).IgG4関連腎症では血中IgG4の上昇がみられる. 画像検査(腎臓超音波検査,CT,MRI)では腎腫大がみられることが多い.また,ガリウムシンチグラフィでは炎症のために両側腎臓への集積がみられる.
診断・鑑別診断
 基本的には腎機能の急激な低下を呈する場合に本症を疑う.急性腎不全を呈する疾患全般について鑑別診断を進める.重要な疾患としては,急性尿細管壊死,急速進行性糸球体腎炎,アテローム塞栓症などがある.急性尿細管壊死では尿細管細胞が種々の腎毒性物質で直接障害を受ける場合と虚血によって尿細管細胞が障害されて腎機能が低下する場合があるが,白血球尿や白血球円柱は認めず,逆に尿細管間質性腎炎ではあまりみられない顆粒円柱や細胞円柱を認める.急速進行性糸球体腎炎の場合は明瞭に蛋白尿,血尿,円柱尿がみられるので,臨床的には鑑別が容易である.アテローム塞栓症は高齢化と動脈硬化が進んだことにより,しばしば経験する疾患である.カテーテルによる血管内診断や治療を受けた後で,血管壁のアテロームが剥離して下肢や腎動脈などに塞栓症を起こすものであり,病歴と下肢のリベドーなどにより比較的鑑別が容易である.血液検査では好酸球増加と低補体血症が出現する.腎生検を行えば病理学的に最終的な鑑別可能であるが,原因が臨床的に明確である場合には腎生検を行わないことも多い.
合併症
 最も重要な合併症は急激な腎機能低下(急性腎不全)である.これに伴い,腎性貧血や高カリウム血症,アシドーシスなどが出現する.そのほかに尿細管機能異常の結果,電解質や酸塩基平衡の異常が出現する.
経過・予後
 早期発見し,原因を特定できてそれを除去ないし治療できれば,腎機能の回復は期待できる.その典型的な例が薬剤によるものである.原因薬剤を特定して投薬を中止し,注意深く経過観察することによって腎機能の回復がみられることが多い.しかし,十分腎機能が改善しない症例もみられ,慢性腎臓病(CKD)に移行してゆっくりと腎機能低下が起こる場合もある.
治療・予防
 原因の大部分を占める薬剤性のものでは,まず被疑薬剤を中止して保存的に経過をみることが原則である.薬剤性であっても発症1週間以内にステロイドを開始すると腎機能の回復が有意によいとする報告がなされている.また,免疫学的機序によるものは副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を使用する.なお,腎機能低下が高度の場合には,一時的に血液透析を行うことがある.[松尾清一]
■文献
Praga M, Gonzalez E: Acute interstitial nephritis. Kidney Int, 77: 956-961, 2010.
Rose BD, Appel GB: Clinical manifestations and diagnosis of acute interstitial nephritis. UpToDate (Last Literature Review Version 19.3) 2011. http://www.uptodate.com/contents/clinical-manifestations-and-diagnosis-of-acute-interstitial-nephritis
Zeisberg M, Neilson EG: Mechanisms of tubulointerstitial fibrosis. J Am Soc Nephrol, 21: 1819-1834, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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