健康および病気にかかわる病態生理について男女差を研究し、病気の診断や治療および予防に役だてようとする医療。個々に適した医療、すなわち医療の個別化の視点も含まれている。明らかに男女どちらかに多く発症する病気や、発症頻度は同じでも経過などで男女に差がみられる病気などのほか、生理的もしくは生物学的にみた雌雄の違い、さらには社会的文化的側面からみた役割(ジェンダー役割)の違いなども考慮して性差を研究するものである。
歴史的には、1957年のアメリカのジャーナリスト、シーマンBarbara Seaman(1935―2008)が始めた女性の健康を守る運動が最初で、その後十数年して全米に「女性の健康ネットワーク」が創設され、NIH(国立衛生研究所)によって女性に特有の病態や疫学的研究が行われた。1995年にはFDA(アメリカ食品医薬品局)に女性の健康について研究するOWH(Office on Women's Health)がつくられ、さらに全米の医科大学に女性の医療に特化した研究を行うセンターが設けられている。
日本での性差医療は、医師の天野恵子(あまのけいこ)(1942― )が、女性に特有の健康上の問題を考慮した医療を提唱したことに端を発する。これを受けて、それまでの成人男性を基準としてきた医療を是正することを目的に、女性専用外来が2001年(平成13)に初めて鹿児島大学病院に、ついで千葉県立東金(とうがね)病院に設けられた。さらには、男性更年期に対応する男性専門外来なども設けられるようになった。
なお、日本の性差医療研究の母体となったのは、2003年に発足した性差医療・性差医学研究会で、その後2008年に「日本性差医学・医療学会」として設立された。
女性専用外来では病歴聴取に多くの時間を割き、既往歴以外にも体調不良の背景にあるストレス要因などについても問診を重ねる。さらには、月経や女性ホルモンに関連する問題や便秘や冷え性など、女性特有の問題についてもアプローチを試みる。
[編集部 2016年9月16日]
(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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