感染症治療剤(読み)カンセンショウチリョウザイ

病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版 「感染症治療剤」の解説

感染症治療剤

感染症かんせんしょう化学療法剤かがくりょうほうざい


 自然界には多種多様の微生物(ほとんどが顕微鏡でなければ見えない小さな生物)が存在しています。


 この微生物には、人間にとって有益な微生物もいれば、有害な微生物もいます。有害な微生物のうち、人間の体に病気をおこす微生物を病原微生物びょうげんびせいぶつといいます。


 病原微生物としては、細菌真菌しんきんかび)、ウイルス原虫寄生虫などがあげられます。病原微生物が、鼻、口、皮膚、粘膜などから体内に侵入し、どこかに定着すると、そこで増殖ぞうしょくを始めます。これが感染で、ひきおこされた病気を感染症といいます。


 感染がおこると、感染部の組織は損傷を受け、組織からヒスタミンセロトニンといった炎症を誘発する物質が出てきて、炎症をおこします。この結果、発熱や痛みなど、炎症に伴う症状が現れてきます(発病)。


 このようにしておこった感染症を治療する薬が化学療法剤で、病原微生物に直接作用して死滅させるので、化学療法剤を使用した治療を原因療法ともいいます。


 化学療法剤には、大きく分けて抗生物質合成抗菌剤とがあります。


抗生物質 自然界では、いろいろな微生物が力のバランスをとり合いながら共存し、ある微生物だけが異常に増殖してしまうことはないのが原則です。これは、微生物どうしが相手の増殖を抑える物質を出して、増殖を抑制し合っているからです。


 この増殖を抑える物質を微生物から取り出し、培養してつくった薬が抗生物質で、体内で増殖して感染症をおこしている病原微生物に直接はたらきかけて、病原微生物を死滅させたり、増殖を抑えたりします。


 現在では、遺伝子工学的な手法を用いて、取り出した物質を大腸菌などの微生物の中に入れて増やし、大量に生産する方法も開発されています。


 最初(第二次世界大戦中)につくられたペニシリン以後、いろいろな抗生物質が開発されていますが、現在もっともよく使われているのはセフェム系の抗生物質です。


合成抗菌剤 微生物から取り出したのではなく、人工的な化学物質を合成してつくった薬です。病原微生物に直接はたらきかけて、病原微生物を死滅させたり増殖を抑えたりします。


 合成抗菌剤の代表的な薬がサルファ剤で、最近では、化学物質から抗生物質もつくられるようになっています。


 このほか、とくに結核菌・真菌・ウイルス・原虫・寄生虫に効果のある化学療法剤を、それぞれ抗結核剤・抗真菌剤・抗ウイルス剤・抗原虫剤・駆虫剤くちゅうざいと呼んでいます。


細菌の種類と抗菌こうきんスペクトル


 感染症のなかで、もっとも頻度が高いのは細菌による感染症で、化学療法剤はもともとこの治療剤として開発されました。


 細菌をグラム染色法という方法で染めてみると、黒紫色に染まる細菌と赤色に染まる細菌とに分かれます。このことから細菌を、黒紫色に染まるグラム陽性菌ようせいきんと、赤色に染まるグラム陰性菌いんせいきんとに分けています。


 一方、細菌はその形から、丸い形をした球菌きゅうきんと、棒のような形をした桿菌かんきんに分けることができます。丸い形をしたグラム陽性菌をグラム陽性球菌(ブドウ球菌、連鎖球菌れんさきゅうきん、肺炎球菌)、グラム陰性菌をグラム陰性球菌(淋菌りんきん髄膜炎菌ずいまくえんきんなど)といいます。同様に、棒のような形をしたグラム陽性菌をグラム陽性桿菌(ジフテリア菌、破傷風菌はしょうふうきんなど)、グラム陰性菌をグラム陰性桿菌(赤痢菌せきりきん、大腸菌、コレラ菌、緑膿菌りょくのうきん、変形菌など)といいます。


 この4つのどれに属する細菌かによって、有効な化学療法剤の種類が違ってきます。


 また、外側がろうのような成分でおおわれているために、抗酸性染色法こうさんせいせんしょくほうという方法でなければ色がつかない細菌もあります。このような細菌を抗酸()といい、結核菌やらい菌がその代表で、グラム染色法で色が染まる細菌とは有効な化学療法剤が違います。


 細菌以外の病原微生物に有効な化学療法剤も出てきて、真菌に有効な薬を抗真菌剤、原虫に有効な薬を抗原虫剤、寄生虫に有効な薬を駆虫剤と、効果のある病原微生物によって呼び分けるようになっています。


 細菌に有効な薬を、ふつう抗菌剤と呼んでいますが、結核菌に有効な薬はとくに抗結核剤と呼んで、区別しています。


 また、ウイルスに有効な薬を抗ウイルス剤といい、インターフェロンなどの薬が研究・開発されています。


 そのほか、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマ、スピロヘータなどに有効な薬もありますが、これらに特別な呼び名はついていません。


 自然界にはいろいろな病原微生物が存在していますが、化学療法剤の中には、いくつもの病原微生物に有効な薬もあれば、特定の病原微生物にしか効かない薬もあります。その薬の有効な病原微生物の種類の範囲を抗菌スペクトルといい、抗生物質の中で、とくにいろいろな細菌に有効な薬を広範囲抗生物質と呼んでいます。


 感染症に化学療法剤を使用する場合は、どの病原微生物が原因になっているのかを調べ、その病原微生物に有効な薬を選ぶのが原則です。しかし、原因菌を確定するまでに日数がかかることが多いので、まず抗菌スペクトルの広い薬を使用しておいて、原因菌が確定したら、その原因菌に有効な薬に切り替えるケースもしばしばみられます。


 また、病原微生物は一定の間隔をおいて増殖してきます。


 そのため、化学療法剤を服用するときには、1日1回(24時間ごと)、1日2回(12時間ごと)、1日3回(8時間ごと)、1日4回(6時間ごと)といったように、一定時間ごとの服用が指示されます。


耐性菌たいせいきん菌交代症きんこうたいしょう


 いくら病原微生物に有効な化学療法剤であっても、長期にわたって使用していると、その化学療法剤に打ち勝って生き抜く病原微生物が現れてきます。こうした状態を「耐性が生じた」といい、耐性の生じた細菌を耐性菌といいます。


 いろいろな化学療法剤が頻繁ひんぱんに使用されるようになって以来、耐性菌による感染症が増え、大きな問題になりつつあります。


 また、人間の口の中、大腸内、皮膚表面などには、いく種類かの細菌が、互いに勢力バランスを保ちながら住みついています(常在菌叢じょうざいきんそう)。この常在菌は、感染症をおこすことはないのが原則です。


 ただ、感染症の治療のために、ある化学療法剤を長期間使用し続けていると、感染症の原因となっている病原微生物のほかに、その化学療法剤が有効な常在菌も死滅してしまうことがあります。そうすると、常在菌叢の勢力バランスがくずれ、死滅しなかったある特定の常在菌が増殖してきて、新たな感染症がおこることがあります。この現象を、菌交代症といいます。


 ですから、かってな判断で化学療法剤の使用量や使用回数を増やしたりすると、耐性菌を出現させたり、菌交代症をおこしたりすることになります。医師・薬剤師の指示通りに使用してください。


抗生物質


合成抗菌剤


抗真菌剤・抗原虫剤・駆虫剤・抗ウイルス剤

出典 病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版について 情報

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