マイコプラズマ(その他表記)mycoplasma

翻訳|mycoplasma

デジタル大辞泉 「マイコプラズマ」の意味・読み・例文・類語

マイコプラズマ(mycoplasma)

ウイルス細菌との中間に位置すると考えられる一群の微生物細菌濾過器を通過し、細胞壁を欠く。病原性を示すものもある。

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精選版 日本国語大辞典 「マイコプラズマ」の意味・読み・例文・類語

マイコプラズマ

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] mycoplasma ) 細菌とウイルスの中間的な位置に分類される多形性の微生物。現在、人から分離されるもので病原性を有するものはマイコプラズマ‐プネウモニエと呼ばれ、咽頭炎・上気道炎・気管支炎・肺炎をひき起こす。

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改訂新版 世界大百科事典 「マイコプラズマ」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ
mycoplasma

マイコプラズマ目Mycoplasmatalesに属する細菌の総称。マイコプラズマ属をはじめ3属が分類されている。菌体は径125~200nmの基本小体と,ときに長さが150μmにもなるフィラメントからなる。菌体の大きさがウイルスなみであることや,細胞壁を欠くことなどから,細菌とウイルスの中間に位置するものと考えられるが,基本小体が増殖能をもち,無細胞培地で培養できることから,現在では細菌に分類されている。このほかマイコプラズマの特徴としては,培養する場合には新鮮な動物血清あるいはタンパク質や脂質を加える必要があること,細胞壁を欠くため抗生物質に対する感受性が異なること,抗体によって発育が阻害されることなどがある。また抵抗性は弱く,一般に50℃,7~10分で死滅する。

 マイコプラズマの単離は,1898年にノカールEdmund I.E.Nocard(1850-1903)が牛肺疫にかかった個体から分離したのが最初で,以後20世紀前半にかけて,同様の病原体がつぎつぎと単離された。当時,これらの病原体はPPLO(牛肺疫類似物質pleuropneumonialike organismの略)と呼ばれた。その後,1957年になって,エドワードD.C.Edwardらがこれをマイコプラズマと呼ぶことを提唱,67年に分類学上の位置が確定された。

 マイコプラズマは動物に対しては,牛肺疫,ヒツジなどに乳房炎,イヌ,ラットなどに肺炎や関節炎を起こし,植物にも萎黄叢生病などを起こすが,ヒトに対する病原性のうち最も重要なものはマイコプラズマ肺炎の原因となることである。
執筆者:

マイコプラズマが直接原因菌として知られている家畜の病気には,牛肺疫,牛関節炎,乳房炎,ブタ肺炎などがある。また家禽(かきんマイコプラズマ感染症として慢性呼吸器病や関節炎を主徴とする家禽病がある。このほかマイコプラズマが少なくとも原因の一つとして関係している疾患もある。以下,牛肺疫と家禽のマイコプラズマ感染症について説明する。

 (1)牛肺疫 Mycoplasma mycoides var.mycoidesが原因菌で,急性期の敗血症から大葉性肺炎および胸膜炎に発達し,肺血管の血栓の形成が起こる。病牛は食欲が欠如して衰弱し,泌乳は完全に停止する。死亡率は約50%。補体結合反応または細菌検査によって鑑別され,治療法としてはオキシテトラサイクリンおよびクロラムフェニコールが比較的有効である。(2)家禽のマイコプラズマ感染症 M.gallisepticumM.synoviaeM.meleagridisの感染は無症状感染で終わる例が多いが,飼料効率の低下,発育の遅延,産卵の低下など産業上の損害が多い。この3種のマイコプラズマはいずれも卵を介して垂直感染を起こす。治療は薬剤によるが完治は望めない。
執筆者:

イネ黄萎病,ジャガイモてんぐ巣病,ミツバてんぐ巣病,クワ萎縮病,キリてんぐ巣病など,萎黄叢生病と呼ばれる一群の植物病の病原は細胞壁を欠く原核細胞微生物で,形態上マイコプラズマと酷似するが,分離培養がきわめて困難なため分類上の位置が決まっていない現在,〈マイコプラズマ様微生物mycoplasmalike organism〉と呼ばれている。栄養繁殖作物では母株から広がるが,圃場(ほじよう)ではもっぱらヨコバイカメムシの媒介で伝染する。病株を吸汁した虫は一定の潜伏期間の後,長期間,多くは終生吸汁のたびに病気をうつし,その間,病原は虫の細胞内で増殖し続ける。媒介昆虫の口針を通って師部に感染した病原はおもに師管で増殖して師部が壊死(えし)し,同化産物の運搬が阻害される結果,植物は全身的に生育不良となる。初め葉の黄化,芯止りがみられ,休眠芽が伸長して細い茎葉が密生するてんぐ巣になり,また花弁やめしべが葉化するものも少なくない。かんきつのスタボンstubborn病やトウモロコシのスタントstunt病の病原は,基本構造はマイコプラズマ様微生物と同じであるが,増殖期に運動性のらせん状粒子となる特徴があり,培養も容易で,新しい微生物としてスピロプラズマspiroplasmaと命名された。マイコプラズマ様微生物とスピロプラズマは,テトラサイクリン系抗生物質に感受性であるが,薬を全身の師部に浸透させることが困難なため,治療効果は一時的で再発する例が多い。媒介昆虫の駆除など,伝染経路を断つことによって防除される。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マイコプラズマ」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ
まいこぷらずま
mycoplasma

広義にはマイコプラズマ目Mycoplasmatalesの細菌をさし、狭義ではマイコプラズマ属Mycoplasmaの細菌をいう。多形態性で、小形であるため分類学上の位置について議論はあったが、明瞭(めいりょう)な細胞構造があること、DNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)の両方を同一細胞中にもつことから細菌とする。

 マイコプラズマ目は次の6属をいう。

(1)スピロプラズマSpiroplasma 11種。生息場所(病原性を含む。以下同)はおもに柑橘(かんきつ)類、トウモロコシ、ダイコン、ソラマメ、ワサビ。

(2)ウレアプラズマUreaplasma 5種。生息場所はヒトやその他の哺乳(ほにゅう)動物の口、呼吸器、尿道。

(3)マイコプラズマMycoplasma 92種。生息場所はヒト、ウシ、ブタ、ニワトリ、ラット、マウスの呼吸器、神経組織、関節、腟(ちつ)。種によっては植物、昆虫。

(4)アコレプラズマAcholeplasma 12種。生息場所は植物、昆虫。

(5)アネロプラズマAnaeroplasma 4種。生息場所はウシ、ヒツジのルーメン(反芻胃(はんすうい))。

(6)アステロプラズマAsteroplasma 1種。生息場所は下水、塵埃(じんあい)。

 マイコプラズマ目の特徴はグラム陰性、細胞壁を欠くが2層の細胞膜に包まれている。小形で多形性、分枝した糸状の細胞は螺旋(らせん)状となる。通常は運動性はないが滑走運動をすることがある。微好気性(通性嫌気性)4属、嫌気性2属がある。ステロイド要求性4属、ステロイド要求性陰性2属がある。一般に宿主(しゅくしゅ)(寄生対象となる生物)域は狭く、ヒトに感染するものは他の動物に感染することはない。

 マイコプラズマ属の特徴は多形態性、球形や短卵形で0.3~0.8マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)、分枝した糸状細胞は150マイクロメートル。通性嫌気性(微好気性)、キノンやチトクロムを欠く。培養上の集落(コロニー)は目玉焼き状で典型的である。化学有機栄養要求性chemoorganotrophicである。コレステロールを要求する。基準種はマイコプラズマ・ミコイデスM. mycoides

 なお、マイコプラズマ・プネウモニアM. pneumoniaはヒトの肺炎をおこし、ウレアプラズマ・ウレオリテクムU. urealyticumは非淋菌(りんきん)性尿道炎や、不妊症の原因となり、スピロプラズマ・シトリS. citriは柑橘類の黄葉病をおこす。

[曽根田正己]

『輿水馨・清水高正・山本孝史編『マイコプラズマとその実験法』(1988・近代出版)』『『マイコプラズマ感染症の基礎と臨床』(『臨床と微生物』vol.30, No.1・2003・近代出版)』

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百科事典マイペディア 「マイコプラズマ」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ

通常の細菌より小さい多形態のマイコプラズマ目の細菌の総称。大きさ50〜300nm,細胞壁をもたず,人工培地に増殖して集落をつくる。牛肺疫の病原体(PPLO)として分離され,その後,人や動物の腟(ちつ)などからも分離された。人の肺炎やその他の疾患を起こすこともあるほか,家畜のマイコプラズマ病,植物の萎黄叢生病などの病原体でもある。
→関連項目風邪原核生物性行為感染症マイコプラズマ肺炎

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マイコプラズマ」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ
mycoplasma

細菌類のなかで最も小さいものの一つ,マイコプラズマ属 Mycoplasmaに属する細菌。広く自然界に分布し,未発見の種も多い。1898年,最初に牛肺疫の病原体である M. mycoidesが分離されたことから,牛肺疫菌類似生物 pleuropneumonia-like organismの語の頭文字をとって PPLOと略称される。大きさは,球形あるいは洋梨形のもので直径 0.3~0.8μm程度,フィラメント状のもので長さ最大 150μmとさまざまである。ほとんどが通性嫌気性で,細胞壁をもたず,小さなコロニーを形成する。細菌ろ過器を通過し,無細胞培地でも成育させることができる。反芻動物,肉食動物,齧歯類の関節や呼吸器,生殖器,消化管を覆う粘膜に寄生し,宿主の組織に蓄積されると深刻な免疫反応を引き起こす。(→マイコプラズマ肺炎

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栄養・生化学辞典 「マイコプラズマ」の解説

マイコプラズマ

 微生物の1綱で3科があり,Mycoplasma属,Ureaplasma属,Acholeplasma属,Spiroplasma属がある.細胞壁をもたないが,人工培養でき,発育にはコレステロールが必要.ヒトや動物に寄生し,病原体となる.

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世界大百科事典(旧版)内のマイコプラズマの言及

【寒冷凝集反応】より

…これは正常ヒト血清中に少量だが低温で血球と結合して凝集を起こし,高温ではずれる寒冷凝集素と呼ばれる自己または同種自然抗体があるためで,この抗体で起こる上述の現象,またはそれを検出,測定する方法を寒冷凝集反応という。寒冷凝集素は,マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)感染による非定型肺炎,EBウイルス感染による伝染性単核症,良性単クローン性高γ‐グロブリン血症,一部の多発性骨髄腫患者等に顕著に現れる。このほか,この抗体は,リステリア(Listeria monocytogens,IVB株),アデノウイルス,サイトメガロウイルスの感染,大腸,肺の腫瘍等の際にも認められ,自己免疫性溶血性貧血に関与する抗体もこの性質を強く示すものがある。…

※「マイコプラズマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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