慢性糸球体腎炎(読み)マンセイシキュウタイジンエン

デジタル大辞泉 「慢性糸球体腎炎」の意味・読み・例文・類語

まんせい‐しきゅうたいじんえん〔‐シキウタイジンエン〕【慢性糸球体腎炎】

徐々に発症し進行する糸球体腎炎腎炎)の総称。血尿蛋白尿高血圧などの症状が持続し、腎不全に進行することがある。慢性腎炎症候群

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六訂版 家庭医学大全科 「慢性糸球体腎炎」の解説

慢性糸球体腎炎
まんせいしきゅうたいじんえん
Chronic glomerulonephritis
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 慢性糸球体腎炎とは、急性発症(急性糸球体腎炎)に引き続くか、蛋白尿もしくは血尿が偶然発見され、少なくとも1年以上にわたり持続する病態とされています。

原因は何か

 病因に関する詳細はいまだに不明ですが、免疫(めんえき)複合体が糸球体へ沈着することによる、免疫学的な機序(仕組み)により引き起こされる場合が多いとされています。

 慢性糸球体腎炎を引き起こす抗原(こうげん)として明らかになっているものはごくわずかで、多様な原疾患が存在し、さまざまな組織病型に分類されています(表1)。

症状の現れ方

 上気道炎、消化器症状などの先行感染に引き続き急性発症するものと、健康診断などにより偶然、蛋白尿や血尿の指摘を受ける潜在発症(チャンス蛋白尿、チャンス血尿)があります。また、家族内発症などの遺伝的素因も認められます。

 一般的に無症状ですが、時に急性糸球体腎炎と似た症状を示すことがあります。まれに、高血圧浮腫(ふしゅ)(むくみ)、紫斑(しはん)、関節痛、尿毒症症状(頭痛や吐き気)を認めることがあります。

検査と診断

 慢性糸球体腎炎患者が発見されるきっかけとして、最も多いのが健康診断での尿検査です。外来診療の場合、尿検査の多くは随時尿が用いられ、蛋白定量、尿潜血反応、尿沈渣検鏡が行われます。蛋白尿は20~30㎎/㎗以上、あるいは顕微鏡的血尿(肉眼では見えない血尿)が継続して認められればそれぞれ陽性とされます。

 また、病気が進行している場合には、尿中に、糸球体からもれ出た赤血球白血球が、尿細管で蛋白成分とともに円柱状になった“赤血球円柱”や“白血球円柱”など、硝子(しょうし)円柱以外の病的円柱(細胞性円柱)が認められることがあり、糸球体腎炎の可能性が高いと判断されます。このような場合には尿素窒素(BUN)、血清クレアチニンとともにクレアチニンクリアランス、イヌリンクリアランスなどを測定し、腎機能を評価します。

 前述したように、慢性糸球体腎炎にはさまざまな組織型があり、原因となる疾患やその活動性により、予後や治療法に対する反応が異なります。本疾患が疑われる場合は、腎臓の一部をとって調べる腎生検がとくに大切な検査となります(表2)。

治療とケアのポイント

①生活指導

 腎障害の程度に応じて生活の制限が必要ですが、原則として過労は避けるようにします。腎血流の保持のためには、仕事量やストレスをできるだけ減らし、安静にすることが大切です。長時間立ち続けることは腎臓に負担となるため、腎機能、血圧、尿所見によっては肉体労働より机上勤務を優先し、激しい運動や競技スポーツは避けるようにします。

②薬物療法

 現在、慢性糸球体腎炎に用いられている薬剤は、抗血小板薬、抗凝固薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬などがあります。

 軽症例には、抗血小板薬が単独投与されます。ジピリダモール(ペルサンチン)300㎎/日では、蛋白尿の減少が期待できますが、副作用として、血管拡張作用に伴う頭痛や難治性の下痢を認めることがあります。塩酸ジラゼプ(コメリアン)300㎎/日は、効果の発現は緩やかですが、副作用が少なく長期にわたり効果が持続するといわれています。

 抗凝固薬は、腎生検組織でメサンギウム細胞の著しい増殖、細胞性半月体の形成などが認められる場合などに用いられます。その他、尿蛋白が多く、組織変化の強いものに対しては副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬も使用されることがありますが、ステロイドには、耐糖能障害、感染症、骨粗鬆症(こつそそうしょう)、消化性潰瘍、高血圧、精神症状などの副作用があり注意が必要です。

 また、シクロホスファミドアザチオプリンシクロスポリン、ミゾリビンなどの免疫抑制薬には、骨髄抑制、催腫瘍性、性腺障害などの副作用があり、投与に際しては注意が必要です。

③食事療法

 腎炎の活動性、組織所見、腎機能、合併症の有無によりますが、原則的には、塩分制限は血圧正常であっても1日7~8g以下にするのが望ましく、GFR糸球体濾過量。一般的にはクレアチニンクリアランスで判定)に応じて1日0.6~0.9g/㎏の間で蛋白制限されます。一方で必要十分なカロリー補給(1日30~35k㎈/標準体重㎏)も重要です。水分の摂取は、浮腫を伴わない限りとくに制限しません。

金丸 裕


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「慢性糸球体腎炎」の解説

慢性糸球体腎炎(原発性糸球体疾患)

定義・概念
 慢性糸球体腎炎は,潜在性に発症する糸球体腎炎症候群の一病型であり,糸球体障害のために1年以上持続して蛋白尿,円柱尿,血尿などの異常尿所見を認めるもので,同様の異常尿所見,高血圧を呈する二次性腎疾患を除外したものである.
分類
 臨床経過から慢性糸球体腎炎は潜在型(latent type)と進行型(advanced type)に分類される.慢性糸球体腎炎をきたす代表的一次性糸球体疾患としては,IgA腎症,非IgAメサンギウム増殖性糸球体腎炎,膜性増殖性糸球体腎炎,管内増殖性糸球体腎炎,ネフローゼを呈さない膜性腎症,巣状糸球体硬化症があげられる.これらは腎生検を実施しない限り組織診断での分類は不能である.尿所見(血尿併発の有無)から表11-3-4のように組織型を想定することが可能であるが,必ずしも定型例だけではないので注意が必要である.
疫学
 慢性糸球体腎炎を原疾患として透析導入となる患者の割合は,1991年までは50%以上を占めていたが,1997年以降は糖尿病性腎症が首位となり,2010年には21.2%まで減少している.しかしながら,年齢別では45歳未満の若年層での透析導入原疾患としては慢性糸球体腎炎が最も多く,いまだ末期腎不全の原因疾患として重要な位置を占めている.わが国の10年ごとの健診受診者中の蛋白尿陽性患者の比率は,男女とも増加傾向を示し,慢性糸球体腎炎の発症そのものの減少を示す事実はない.また健診における検尿異常の出現率は欧米と比べ,日本人を含めたアジア人種で高く,糸球体腎炎の発症にも人種差があることが知られている(Yamagataら, 2008).
病態生理
 慢性糸球体腎炎では,各糸球体腎炎の病型ごとの腎障害機転と同時に,以下にあげる共通の糸球体障害進展機構があることが知られている.
1)蛋白尿の程度と腎機能
: 慢性糸球体腎炎では,尿蛋白排泄量が多いほど,腎機能の悪化が早いことが知られている.蛋白尿の程度は糸球体の蛋白障壁の破壊の程度と並行しており,糸球体組織障害の程度を反映するものと考えられている.また糸球体を透過した蛋白尿そのものが尿細管障害を引き起こし,尿細管間質障害から腎機能障害を招く機序もある.
2)糸球体過剰濾過と腎機能
: 糸球体腎炎のために一部の糸球体の機能低下が起こると残存する糸球体がその機能を代償し,腎機能を維持する機転が働く.残存する糸球体での濾過量が増加(過剰濾過)し,このことが糸球体の濾過圧上昇(糸球体高血圧)を招き,糸球体の伸展,さまざまな分子負荷の結果,残存糸球体も硬化に陥る.
臨床症状
 病初期には自覚症状を欠き,健診や他疾患で医療機関受診時などに実施される検尿スクリーニングなどで偶然の機会に発見される疾患である.この時期は血圧も正常で,自覚症状をまったく欠き,いわゆる無症候性検尿異常(チャンス血尿,チャンス蛋白尿)である.経過中の糸球体障害の進展に伴い,高血圧を認めることが多い.また腎機能障害の進展に伴い,慢性腎不全で認められるさまざまな症状を呈するようになる.
診断
 血尿,蛋白尿,円柱尿といった腎炎性尿所見が1年以上持続し,二次性の糸球体疾患を否定できれば,慢性糸球体腎炎と診断できる.病型診断のためには腎生検による病理組織学的診断が必須である.慢性糸球体腎炎の進行は,尿蛋白排泄量とよく相関することから,無症候性検尿異常がある場合に蛋白尿の程度が強い場合(0.5 g/gCrまたは0.5 g/日以上),あるいは蛋白尿と血尿を同時に認める場合には,発症後1年未満であっても,腎生検を含めた精査を要する.
経過・予後
 無症候性検尿異常のうち,血尿単独例(持続血尿症候群)は,糸球体腎炎以外による血尿例も含まれ,腎機能が悪化することもまれである.しかしながら,約10%の患者で経過中に蛋白尿も陽性となり,慢性糸球体腎炎に移行する(Yamagataら,2002).蛋白尿単独例は,膜性腎症,微小変化群に多く,非ネフローゼ例でのこれらの疾患の腎機能予後は良好である.血蛋白尿例は,IgA腎症,膜性増殖性腎炎,管内増殖性糸球体腎炎に多く,特にIgA腎症などは1 g/日以上の尿蛋白持続例で腎機能予後不良が指摘されている.したがって,腎機能予後は,尿蛋白排泄量と相関するものの,同程度の尿蛋白排泄量であっても,慢性糸球体腎炎の病型によりその予後は異なる.
治療・予防
 慢性糸球体腎炎の治療は,生活指導,食事指導に加え,個々の病型,病態に応じた薬物療法が行われる.詳細は各項を参照されたい.
 慢性糸球体腎炎の病型によらず行われる共通の薬物療法としては,抗血小板薬の尿蛋白減少効果が知られている.ジピリダモール300 mg/日,塩酸ジラゼプ300 mg/日の投与が行われる.また,尿蛋白減少,腎機能悪化防止を目的にレニン-アンジオテンシン系阻害薬を第一選択とした降圧療法が行われる.一般に130/80 mmHg未満を降圧目標とし,さらに尿蛋白1 g/日以上では125/75 mmHg未満を目標として,上記薬剤に加え,カルシウム拮抗薬,利尿薬やその他の降圧薬の多剤併用療法を行う.[山縣邦弘]
■文献
Yamagata K, Iseki K, et al: Chronic kidney disease perspectives in Japan and the importance of urinalysis screening. Clin Exp Nephrol, 12(1): 1-8, 2008.Yamagata K, Takahashi H, et al: Prognosis of asymptomatic hematuria and/or proteinuria in men. Nephron, 91: 34-42, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の慢性糸球体腎炎の言及

【腎炎】より

…これが現在の腎臓病学の基礎となったが,その後の研究によってフォルハルトらの分類には矛盾や欠陥があることが明らかになり,さらに各種の分類が試みられている。現在,単に腎炎というときには急性または慢性の糸球体腎炎glomerulonephritisをさすが,とくに慢性糸球体腎炎についての分類は,いまだ十分確立されたものではなく,今後病因が明らかにされるにつれて再編成されることも考えられている。
[急性糸球体腎炎]
 単に急性腎炎ともいう。…

※「慢性糸球体腎炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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