慢性糸球体腎炎(読み)マンセイシキュウタイジンエン

内科学 第10版 「慢性糸球体腎炎」の解説

慢性糸球体腎炎(原発性糸球体疾患)

定義・概念
 慢性糸球体腎炎は,潜在性に発症する糸球体腎炎症候群の一病型であり,糸球体障害のために1年以上持続して蛋白尿,円柱尿,血尿などの異常尿所見を認めるもので,同様の異常尿所見,高血圧を呈する二次性腎疾患を除外したものである.
分類
 臨床経過から慢性糸球体腎炎は潜在型(latent type)と進行型(advanced type)に分類される.慢性糸球体腎炎をきたす代表的一次性糸球体疾患としては,IgA腎症,非IgAメサンギウム増殖性糸球体腎炎,膜性増殖性糸球体腎炎,管内増殖性糸球体腎炎,ネフローゼを呈さない膜性腎症巣状糸球体硬化症があげられる.これらは腎生検を実施しない限り組織診断での分類は不能である.尿所見(血尿併発の有無)から表11-3-4のように組織型を想定することが可能であるが,必ずしも定型例だけではないので注意が必要である.
疫学
 慢性糸球体腎炎を原疾患として透析導入となる患者の割合は,1991年までは50%以上を占めていたが,1997年以降は糖尿病性腎症が首位となり,2010年には21.2%まで減少している.しかしながら,年齢別では45歳未満の若年層での透析導入原疾患としては慢性糸球体腎炎が最も多く,いまだ末期腎不全の原因疾患として重要な位置を占めている.わが国の10年ごとの健診受診者中の蛋白尿陽性患者の比率は,男女とも増加傾向を示し,慢性糸球体腎炎の発症そのものの減少を示す事実はない.また健診における検尿異常の出現率は欧米と比べ,日本人を含めたアジア人種で高く,糸球体腎炎の発症にも人種差があることが知られている(Yamagataら, 2008).
病態生理
 慢性糸球体腎炎では,各糸球体腎炎の病型ごとの腎障害機転と同時に,以下にあげる共通の糸球体障害進展機構があることが知られている.
1)蛋白尿の程度と腎機能
: 慢性糸球体腎炎では,尿蛋白排泄量が多いほど,腎機能の悪化が早いことが知られている.蛋白尿の程度は糸球体の蛋白障壁の破壊の程度と並行しており,糸球体組織障害の程度を反映するものと考えられている.また糸球体を透過した蛋白尿そのものが尿細管障害を引き起こし,尿細管間質障害から腎機能障害を招く機序もある.
2)糸球体過剰濾過と腎機能
: 糸球体腎炎のために一部の糸球体の機能低下が起こると残存する糸球体がその機能を代償し,腎機能を維持する機転が働く.残存する糸球体での濾過量が増加(過剰濾過)し,このことが糸球体の濾過圧上昇(糸球体高血圧)を招き,糸球体の伸展,さまざまな分子負荷の結果,残存糸球体も硬化に陥る.
臨床症状
 病初期には自覚症状を欠き,健診や他疾患で医療機関受診時などに実施される検尿スクリーニングなどで偶然の機会に発見される疾患である.この時期は血圧も正常で,自覚症状をまったく欠き,いわゆる無症候性検尿異常(チャンス血尿,チャンス蛋白尿)である.経過中の糸球体障害の進展に伴い,高血圧を認めることが多い.また腎機能障害の進展に伴い,慢性腎不全で認められるさまざまな症状を呈するようになる.
診断
 血尿,蛋白尿,円柱尿といった腎炎性尿所見が1年以上持続し,二次性の糸球体疾患を否定できれば,慢性糸球体腎炎と診断できる.病型診断のためには腎生検による病理組織学的診断が必須である.慢性糸球体腎炎の進行は,尿蛋白排泄量とよく相関することから,無症候性検尿異常がある場合に蛋白尿の程度が強い場合(0.5 g/gCrまたは0.5 g/日以上),あるいは蛋白尿と血尿を同時に認める場合には,発症後1年未満であっても,腎生検を含めた精査を要する.
経過・予後
 無症候性検尿異常のうち,血尿単独例(持続血尿症候群)は,糸球体腎炎以外による血尿例も含まれ,腎機能が悪化することもまれである.しかしながら,約10%の患者で経過中に蛋白尿も陽性となり,慢性糸球体腎炎に移行する(Yamagataら,2002).蛋白尿単独例は,膜性腎症,微小変化群に多く,非ネフローゼ例でのこれらの疾患の腎機能予後は良好である.血蛋白尿例は,IgA腎症,膜性増殖性腎炎,管内増殖性糸球体腎炎に多く,特にIgA腎症などは1 g/日以上の尿蛋白持続例で腎機能予後不良が指摘されている.したがって,腎機能予後は,尿蛋白排泄量と相関するものの,同程度の尿蛋白排泄量であっても,慢性糸球体腎炎の病型によりその予後は異なる.
治療・予防
 慢性糸球体腎炎の治療は,生活指導,食事指導に加え,個々の病型,病態に応じた薬物療法が行われる.詳細は各項を参照されたい.
 慢性糸球体腎炎の病型によらず行われる共通の薬物療法としては,抗血小板薬の尿蛋白減少効果が知られている.ジピリダモール300 mg/日,塩酸ジラゼプ300 mg/日の投与が行われる.また,尿蛋白減少,腎機能悪化防止を目的にレニン-アンジオテンシン系阻害薬を第一選択とした降圧療法が行われる.一般に130/80 mmHg未満を降圧目標とし,さらに尿蛋白1 g/日以上では125/75 mmHg未満を目標として,上記薬剤に加え,カルシウム拮抗薬,利尿薬やその他の降圧薬の多剤併用療法を行う.[山縣邦弘]
■文献
Yamagata K, Iseki K, et al: Chronic kidney disease perspectives in Japan and the importance of urinalysis screening. Clin Exp Nephrol, 12(1): 1-8, 2008.Yamagata K, Takahashi H, et al: Prognosis of asymptomatic hematuria and/or proteinuria in men. Nephron, 91: 34-42, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「慢性糸球体腎炎」の解説

まんせいしきゅうたいじんえんまんせいじんえん【慢性糸球体腎炎(慢性腎炎) Chronic Glomerulonephritis】

[どんな病気か]
 子どもの慢性糸球体腎炎とは、糸球体に慢性的な変化、すなわち、もとにもどらない組織変化があるものをいいます。腎臓の細胞をとって調べる腎生検(じんせいけん)で、組織の変化や障害の程度を確認したうえで、いくつかの腎炎のタイプに分類し、それにより予後や経過が予測されます。
 慢性糸球体腎炎は、糸球体に組織学的変化があるため、尿に赤血球(せっけっきゅう)やたんぱくがもれ出てきます。
 腎生検で組織を確認しなくても、血尿(けつにょう)などの尿の異常が1年以上続いたときは、慢性糸球体腎炎と考えることもありますが、いずれにしろ治りにくい腎炎の総称であるといえます。
 子どもによくみられる慢性糸球体腎炎の病型には、大きく分けるとつぎのようなものがあります。
■IgA腎症(アイジーエーじんしょう)
 糸球体の血管と血管の間にあり、たいせつなはたらきをしているメサンギウム細胞が増殖(ぞうしょく)し、かつ免疫(めんえき)にかかわるたんぱくの1つである免疫グロブリン(IgA)が沈着している腎炎を、IgA腎症といいます。
 この病気は、組織の障害度によって予後はさまざまです。放っておいても2~3年でよくなるものから、ゆっくり腎不全(じんふぜん)へ進行するものまであります。学校健診時の検尿で見つかる腎炎の30~40%はこのタイプといわれます。かぜをひいたときに突然、尿の状態が悪くなり、肉眼的血尿発作(にくがんてきけつにょうほっさ)をくり返すことも特徴です。
 有効な治療法は確立されていませんが、腎炎一般での治療に準じて、ステロイド、免疫抑制薬、抗凝固薬(こうぎょうこやく)、抗血小板薬(こうけっしょうばんやく)が用いられています。
 子どもの場合は、おとなとちがって、ゆっくり自然によくなっていくことが多いといわれています。
■膜性増殖性糸球体腎炎(まくせいぞうしょくせいしきゅうたいじんえん)
 びまん性に(広い範囲にわたって)、糸球体毛細血管壁(もうさいけっかんへき)の肥厚とメサンギウムの増殖を示す腎炎で、予後は悪いと考えられていましたが、最近、ステロイドや抗凝固薬が有効なことが確かめられつつあります。組織学的重症度の低い巣状型もあることが知られています。
■膜性腎症(まくせいじんしょう)
 たんぱく尿がおもな症状で、ときにネフローゼ症候群(「特発性ネフローゼ症候群」)の型で現われることの多い腎炎です。
 腎不全(じんふぜん)に進むことはないか、まれにあってもゆるやかなので、ネフローゼ症候群を示さないときは、治療せずにようすをみることもあります。
■巣状糸球体硬化症(そうじょうしきゅうたいこうかしょう)
 難治性(なんちせい)のネフローゼ症候群を呈し、比較的短い経過で腎不全におちいりやすい腎臓病です。
 残念ながら、現在、確実といえる治療法はありません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の慢性糸球体腎炎の言及

【腎炎】より

…これが現在の腎臓病学の基礎となったが,その後の研究によってフォルハルトらの分類には矛盾や欠陥があることが明らかになり,さらに各種の分類が試みられている。現在,単に腎炎というときには急性または慢性の糸球体腎炎glomerulonephritisをさすが,とくに慢性糸球体腎炎についての分類は,いまだ十分確立されたものではなく,今後病因が明らかにされるにつれて再編成されることも考えられている。
[急性糸球体腎炎]
 単に急性腎炎ともいう。…

※「慢性糸球体腎炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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