かつては尿細管の病変によってタンパク尿と浮腫を伴う腎臓の疾患を指したが,近年では,糸球体の病変によって生じ,高度のタンパク尿と低タンパク血症を伴う症候群を指し,医学的にはネフローゼ症候群nephrotic syndromeと呼ばれる。1905年,F.vonミュラーが腎臓疾患を炎症性疾患と尿細管の変性疾患に大別し,後者をネフローゼと呼んだ。以来,ネフローゼの名称が広く用いられるようになったが,その後の研究によって,ネフローゼ様症状は尿細管の病変によるものではなく,糸球体の病変によって起こるものであることが明らかとなり,現在では,ネフローゼ様症状を示す疾患をすべてネフローゼ症候群と呼ぶようになった。
ネフローゼ症候群は,原因の不明な特発性ネフローゼ症候群と,糖尿病などの全身性疾患や感染症,薬物,アレルギーなどによって,糸球体の機能が障害されて起こる二次性ネフローゼ症候群とに大別される。前者は小児期に多く,後者は20歳代の女性に多くみられる傾向がある。
症状は原疾患によって多少異なるが,尿中に大量のタンパク質が出ていくという点では共通しており,これによって,タンパク尿,低タンパク血症,浮腫などの共通した症状がみられる。タンパク尿は高度で,尿タンパクは3.5g/日以上(健康人では40~80mg/日)となり,多量にタンパク質を喪失する結果,低タンパク血症を続発する。さらに,血漿中のアルブミンが減少することによって,血漿の浸透圧が低下し,体液が組織間隙へ移動して浮腫(水腫)が起こる。ネフローゼ症候群による浮腫は一般に高度で,顔または足から始まって全身に及ぶ。ときには腹腔内にも滲出し,腹水がたまることもある。これらの症状のほか,高脂血症もみられ,血液凝固傾向の亢進による血栓症や,免疫グロブリンの減少によって感染症にかかりやすくなる。
治療は原疾患によって異なるが,一般に安静にしたうえで,食事療法,副腎皮質ホルモンや免疫抑制薬などによる薬物療法が行われる。
→腎炎
執筆者:菊池 祥之
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