膜性増殖性糸球体腎炎

内科学 第10版 「膜性増殖性糸球体腎炎」の解説

膜性増殖性糸球体腎炎(原発性糸球体疾患)

概念
 膜性増殖性糸球体腎炎メサンギウム細胞の増殖と基質の増加,糸球体係蹄の肥厚を特徴とする.この肥厚は通常基底膜と内皮細胞の間における高電子密度沈着物とメサンギウム間入(mesangial interposition)およびその管腔側に形成される新たな基底膜様物質による.このような構造は電子顕微鏡により明らかとなるが,基底膜による二重化(double contour)は,PAM染色やPAS染色などにより光学顕微鏡でも観察できる(図11-3-12).また,メサンギウム増殖と係蹄壁の肥厚が進行すると,分葉構造を示すことも多い.なお,係蹄における高電子密度物質の沈着様式の違いから後述するようにⅠ~Ⅲ型に分類されるが,Ⅲ型はⅠ型の亜型とされる.一方,Ⅱ型は光学顕微鏡組織所見や低補体血症を伴うとの類似性からMPGNに含まれてきたが,WHO腎疾患分類では病因が異なる点からⅠ型とはまったく切り離し,デンスデポジット病(dense deposit disease)として代謝と関連した独立の腎疾患として扱っている.このように,MPGNは組織所見に基づく病名であり,その病因が単一とは考えられないが,特発性の症例では高率に低補体血症を呈するという共通性がある.
病因
 多数の症例で低補体血症が認められるため,補体の作用が重要と考えられている.Ⅰ型やⅢ型では免疫グロブリンやさまざまな補体成分が糸球体に沈着しているので,免疫複合体の形成とそれに伴ういわゆる古典経路(classical pathway)の補体活性が発症にかかわると思われる.C4 nephritic factorとよばれる古典経路の自己抗体が発見されたことも,この点を支持している.ただし,免疫複合体とは関連性がない第二経路(alternative pathway)の自己抗体C3 nephritic factorが認められることもあり,詳細な機序は不明である. 一方,C型肝炎に併発する腎障害の多くがMPGNⅠ型であると報告されている.このような例の血中にはクリオグロブリンが証明されることが多いので,それを形成するIgGIgMによる大型の免疫複合体が本症の要因の1つとして注目される. Ⅱ型では補体成分のなかでもC3の糸球体沈着が目立ち,低補体血症は持続性でC3 nephritic factorが高率に認められるので,免疫反応とは異なる感染症や代謝異常が病因として考えられる.海外の報告で部分脂肪異栄養症(partial lipodystrophy)との併発が多いこともその根拠とされている.
疫学
 日本腎臓病総合レジストリーの報告(Sugiyamaら,2011)によれば,2007年から2009年の各年度において,MPGNは腎生検症例の約2%,原発性腎疾患に限れば約6%であり,一次性ネフローゼ症候群のなかでは約7%を占めている.また,年齢層別に検討したところ,小児では2%程度と少なかったのに対して,高齢者では約10%と増加しており,これまで小児に多いといわれてきたこととは異なる様相を示している.MPGNの分類のなかではⅠ型が圧倒的に多く,欧米ではⅡ型も20〜30%はあるといわれるが,わが国では1%以下で,各年度で数例ずつ報告されているにすぎない.
病理
 光学顕微鏡では糸球体は腫大し,メサンギウム細胞増殖や係蹄壁の二重構造を有する肥厚が観察される(図11-3-12).典型的な症例では分葉状構造を呈し,臨床的に急性腎炎様の症状を示す場合には,メサンギウム細胞増殖が著しく,白血球細胞の糸球体血管内内浸潤,内皮細胞増殖などもみられる.また,10〜20%の例で,半月体を伴うといわれている.
 免疫組織学的には,C3をはじめ多くの補体成分が係蹄壁やメサンギウムに顆粒状に沈着する.また,IgGやIgMなども係蹄に沿って顆粒状にみられ,その沈着様式は花弁型(fringe pattern)とよばれる(図11-3-13). 電子顕微鏡による観察は,特に亜分類を確定するうえで重要である.すなわち,メサンギウム細胞の増殖とその一部が糸球体基底膜と内皮の間に入り込むメサンギウム間入は,いずれの症例にも共通した現象であるが,高電子密度の沈着物はⅠ型では内皮側にみられるのに対して(図11-3-14),Ⅱ型では基底膜に一致して存在するので,一見基底膜が不規則に肥厚したとの印象を受ける(図11-3-15).一方,Ⅲ型では基底膜の内皮側だけでなく上皮側にも高電子密度の沈着が認められる場合(Burkholder型)と,破壊されあるいは膨化して不鮮明となった基底膜を横断して沈着物が認められる場合(Strife型)があるが,いずれにせよ,Ⅰ型が変化したとの考えが強い.また,Ⅰ型やⅢ型ではメサンギウム間入の内皮側に基底膜様物質の新生が観察される.
臨床症状・検査成績
 本症の2/3がネフローゼ症候群を呈するといわれており,顕微鏡的血尿もほとんどの例でみられるが,検診などにより無症候性蛋白質・血尿で発見されることもある.小児ではそのような症例が過半数を占めるが,やがてネフローゼ症候群に至ることが多い.一方,急性腎炎様の症状で発症する例が約10%あり,急速な腎機能の悪化に注意を要する.
 低補体血症は初診時約半数に,経過中には90%に認められる.必ずしも低補体血症の程度が予後に一致するとは限らないが,Ⅰ型では治療中に正常化することが少なくない.
診断・鑑別診断
 診断はいままで述べたように腎生検の組織診断によるが,亜分類を明らかにするには電顕観察が必要である.また,メサンギウム細胞や基質の増加と糸球体毛細管壁の肥厚を呈する疾患は,本症との鑑別の対象になる.このようなものとしては,糖尿病性腎症,アミロイドーシス,細線維性糸球体腎炎(fibrillary glomerulonephritis),イムノタクトイド糸球体症( immunotactoid glomerulopathy)などがある.
 低補体血症は診断上重要な参考所見であるが,低補体血症を示すほかの腎疾患,たとえば溶連菌感染後急性糸球体腎炎ループス腎炎は,組織学的にも類似点がある.前述のC型肝炎やクリオグロブリン血症悪性リンパ腫,骨髄腫なども二次性MPGNを呈する.
治療・予後
 ネフローゼ症候群を呈する場合治療が難しく,今般発表されたネフローゼ症候群診療指針(松尾ら,2011)でも,明確な治療法が示されていないが,ほかのネフローゼ症候群に対するのと同様,パルス療法を含むステロイドの投与,免疫抑制薬,抗凝固療法などを組み合わせた治療が行われており,小児では臨床的にはかなり良好な成績を示すとの報告が多い.しかし,その場合でも組織所見の改善は十分でなく,特に成人後への移行例については成人発症例との差がないと考えられる.また,成人例では,わが国からの明確な報告はないが,米国では無治療の場合,10~15年の経過で50~60%が末期腎不全に至り,25~40%が腎機能を維持し,自然寛解例は10%未満といわれている.以上の成績はⅠ型に関するものであるが,Ⅱ型についてもわが国では症例が少なく不明である.海外ではⅠ型より治療に対する反応性や予後は悪いといわれており,移植例での再発も指摘されている.[斉藤喬雄]
■文献
深澤雄一郎:膜性増殖性糸球体腎炎.腎生検病理アトラス(日本腎臓学会・腎病理診断標準化委員会,日本腎病理協会編), pp129-135, 東京医学社,東京,2010.松尾清一,今井圓裕,他:ネフローゼ症候群診療指針.日腎会誌,53: 78-122, 2011.
Sugiyama H, Yokoyama H, et al: Japan renal biopsy registry: the first nationwide, web-based, and prospective registry system of renal biopsies in Japan. Clin Exp Nephrol, 15: 493-503, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「膜性増殖性糸球体腎炎」の解説

まくせいぞうしょくせいしきゅうたいじんえん【膜性増殖性糸球体腎炎 Membranoproliferative Glomerulonephritis】

[どんな病気か]
 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、子どもがかかることが多い病気です。
 かかった人の多くに、低補体血症(ていほたいけっしょう)(細菌などの抗原(こうげん)に対して戦う免疫(めんえき)主役を抗体(こうたい)とすると、脇役にあたるのが補体で、この補体が正常な血液よりも少ない病変)が持続的にみられるのが特徴です。
 症状としては、血尿(けつにょう)をともなうネフローゼ症候群(「ネフローゼ症候群」)、あるいは慢性腎炎症候群(「慢性腎炎症候群」)の状態になることが多い病気です。
 以前は、治療のむずかしい病気と考えられていましたが、最近では早期診断・早期治療によって、症状も腎臓(じんぞう)の組織もよくなる例が増えています。
 膜性増殖性糸球体腎炎の原因はわかっていませんが、免疫複合体(めんえきふくごうたい)(抗原と抗体が結合したもの)が関係しているといわれています。
[検査と診断]
 「膜性増殖性糸球体腎炎の診断基準(WHO分類、1977)」は、膜性増殖性糸球体腎炎を診断するときの基準を示したものですが、診断を確定するには、腎臓の組織をとって顕微鏡で調べる必要があります。
 その電子顕微鏡の組織像によって、膜性増殖性糸球体腎炎はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3つのタイプに分類されます。
 日本では、ほとんどがⅠ型かⅢ型であり、欧米諸国に比べⅡ型が非常に少ないことも特徴の1つです。
 症状としては、慢性腎炎症候群あるいはネフローゼ症候群の状態になることが多いのですが、15歳未満の場合は、急性腎炎症候群(「急性腎炎症候群」)あるいは無症候性たんぱく尿・血尿症候群(「無症候性たんぱく尿/血尿症候群」)となることが多く、年齢によって病態がちがいます。
[治療]
 糸球体の組織に、半月体(はんげつたい)と呼ばれるかたいものができていると、病気の進行を食い止めるのはむずかしいのですが、早期発見と副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬(ステロイド薬)を用いた早期治療で、症状や組織の変化が改善するともいわれています。
 ウイルスの感染でおこる、C型肝炎(かんえん)(慢性肝炎の「どんな病気か」のC型慢性肝炎)をともなった膜性増殖性糸球体腎炎の場合に、インターフェロン(ウイルスに感染した細胞がつくり出す抗ウイルス作用のあるたんぱく質)を使用したところ、腎臓の症状も改善したという報告がされており、この腎炎の原因の解明と治療の面から注目されています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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