慢性肉芽腫症(読み)まんせいにくげしゅしょう

六訂版 家庭医学大全科 「慢性肉芽腫症」の解説

慢性肉芽腫症
まんせいにくげしゅしょう
Chronic granulomatous disease
(子どもの病気)

どんな病気か

 好中球、好酸球、単球、マクロファージなどの白血球は食細胞とも呼ばれ、細菌や真菌などの異物貪食(どんしょく)し、細胞内で殺菌するはたらきをしています。慢性肉芽腫症は先天性のまれな食細胞機能異常症です。

原因は何か

 殺菌機構(メカニズム)の中心的役割を果たすスーパーオキサイド(O2)や過酸化水素(H2O2)などの産生低下が起こり、殺菌能障害を引き起こします。近年本症に対する遺伝子の解析が進み、日本では伴性劣性遺伝(はんせいれっせいいでん)形式をとり、男児に発症するgp91­phox欠損型が約4分の3を占めることが明らかになりました。

症状の現れ方

 生後数カ月から非H2O2産生カタラーゼ陽性菌である黄色ブドウ球菌や大腸菌クレブシエラなどの細菌、およびアスペルギルスカンジダなどの真菌(しんきん)に対する難治性の感染症を繰り返します。また機序(仕組み)は明らかではありませんが、皮膚やリンパ節、消化管などに肉芽腫を形成することがあります。

検査と診断

 NBT色素還元能試験や、フローサイトメトリー法によるH2O2に反応する蛍光(けいこう)色素を用いた方法も、一般的に行われるようになってきました。

治療の方法

 ST合剤(バクタ、バクトラミン)の予防投与が1970年代から行われ、有効性が確立しています。インターフェロンγ(ガンマ)による感染症抑制効果が3分の1の症例で認められます。根治療法としては造血幹細胞(ぞうけっかんさいぼう)移植が実際に行われており、海外では遺伝子治療臨床試験も行われています。

高橋 良博, 伊藤 悦朗

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「慢性肉芽腫症」の解説

慢性肉芽腫症(原発性免疫不全症候群)

(13)慢性肉芽腫症(chronic granulomatous dis­ease:CGD)
概念・病因
 食細胞の活性酸素産生障害のために貪食した細菌・真菌を殺菌できず,また消化管・気道・尿路への肉芽腫形成を特徴とする.活性酸素の産生にかかわるNADPHオキシダーゼの異常による.伴性劣性のgp91-phox欠損症と常染色体劣性遺伝のp22-phox,p47-phox,p67-phox,rac2の遺伝子異常により発症する.伴性劣性の遺伝形式をとるものが全体の約2/3を占める.
臨床症状
 カタラーゼ陽性の化膿菌(黄色ブドウ球菌など)による皮膚,リンパ節,肺,肝の感染症に罹患し,膿瘍形成や肉芽腫形成を伴いやすい.カンジダやアスペルギルスによる真菌感染症も高頻度でみられ,非定型抗酸菌などの細胞内寄生細菌に対しても易感染性である.
検査成績
 好中球のNBT色素還元能陰性で,化学発光が欠如し,活性酸素の産生能低下がみられる.
診断
 臨床症状より疑い,gp91-phox,p22-phox,p47-phox,p67-phox,rac2の蛋白の欠損遺伝子異常を同定することにより確定診断する.
予後
軽症例では成人まで生存するが,アスペルギルスによる真菌感染症が致命的なことがある.
治療
 ST合剤,抗真菌薬の予防内服.IFNγの投与も一部の症例では有効である.根治療法として造血幹細胞移植がある.[峯岸克行]
■文献
Notarangelo LD, Fischer A, et al: Primary immunodeficiencies: 2009 update. J Allergy Clin Immunol, 124: 1161-1178, 2009.
Ochs HD, Smith CIE, et al: Primary Immunodeficiency Diseases, 2nd ed, Oxford University Press, New York, 2007.

慢性肉芽腫症(好中球機能異常症)

(1)慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease)
 スーパーオキシド産生酵素構成分子(gp91 phox,p22 phox,p47 phox,p67 phoxおよびp40 phox)のいずれかに異常があり,好中球および単球・マクロファージのスーパーオキシド産生が障害されている.X連鎖を示すgp91 phox欠損の頻度が最も高い.ほかの異常は常染色体劣性遺伝を示す.殺菌能が著しく障害されており,乳児期から肺,肝,リンパ節,皮膚などの難治性化膿性感染症を繰り返す.原因菌の多くはカタラーゼ陽性で過酸化水素を産生しない菌(黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セラチア,ノカルジア,アスペルギルスなど)である.殺菌能の障害によって慢性炎症となり,腫瘍壊死因子などの炎症性サイトカインが持続的に産生され,その結果,多臓器に肉芽腫が形成される.肉芽腫によってしばしば腸管や尿路の狭窄または閉塞が生じる.肉芽腫には副腎皮質ステロイドの投与が有効である.ST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤,イトラコナゾールおよびインターフェロンγの予防投与が有効である.感染初期に十分量の抗菌薬を投与することが重要である.[北川誠一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「慢性肉芽腫症」の意味・わかりやすい解説

慢性肉芽腫症
まんせいにくげしゅしょう
chronic granulomatous disease

全身の各臓器に小肉芽腫の形成,黄褐色の脂質顆粒含有の組織球が認められる疾患。伴性劣性遺伝をし,男児は女児の7倍で,1歳以前に発病するものが 70%を占めている。患者は幼児期から慢性の化膿性リンパ節炎を反復し,肝脾腫,肺浸潤,眼や口の周囲の発疹を生じる。病因としては,白血球の食作用に際しての過酸化水素の生産障害,五炭糖回路の代謝障害があげられるが,単一のものではなく,一つの症候群と考えられる。7~8歳までに3分の1が感染症で死亡する。早期に抗生物質を使用するほか,膿瘍を形成した化膿巣は切開排膿する。また,白血球輸血や骨髄移植なども試みられている。

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