インド大乗仏教の学者、護法(ごほう)らの著書。唐代659年(顕慶4)に玄奘(げんじょう)によって漢訳された。10巻。世親(せしん)の『唯識三十頌(じゅ)』に対する注釈。『唯識三十頌』には十大論師の注釈が存在したが、玄奘はその高弟の基(窺基(きき))の意見に基づき、そのいちいちを翻訳するかわりに、護法の学説を正義として、それを中心に他の論師の注釈をあわせて一本として訳出したものが本書であると伝えられる。しかしその内容をみると、護法の学説をもって一貫し、他は、何人かの論師の所説が批判さるべきものとして断片的に引用されているにすぎない。本書は、法相(ほっそう)宗の根本典籍として中国、日本の仏教界において重要視され、広く読まれた。本書の注釈としては、基の著した『成唯識論述記』が基本的なものであり、そのほか、慧沼(えしょう)の『成唯識論了義燈(りょうぎとう)』、智周(ちしゅう)の『成唯識論演秘(えんぴ)』など、甚だ多くの注釈書、解説書が存する。
[勝呂信静]
『深浦正文著『唯識学研究』上下(1954・永田文昌堂)』
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…毎版面の右すみに開版の年代,寺名,願主,施主,彫工などの名が隠刻されているが,普通は印刷のさい刷りこまれない。現存のものでは,寛治2年(1088)模工僧観増の刊記のある《成唯識論(じようゆいしきろん)》10巻(残巻,正倉院蔵),元永2年(1119)模工僧延観の刊記のある《成唯識論》巻十(京都守屋家蔵)などが古いほうである。このほか春日版と称されるもののうちには,建暦2年(1212)刊《瑜伽師地論》100巻,承元3年(1209)刊《法華経普門品》3333巻,嘉禄年間(1225‐27)に刊行された《大般若波羅蜜多経》600巻など,質量ともにすぐれたものがある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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