護法(読み)ごほう

精選版 日本国語大辞典 「護法」の意味・読み・例文・類語

ご‐ほう【護法】

[1] 〘名〙
[一] (:ホフ) 仏語。
① 得たところの善法をまもりたもつこと。また、仏の正法を守護すること。〔倶舎論‐二五〕
※霊異記(810‐824)中「法師呼びて曰はく、奚(な)ぞ護法無きかといふ」
※宇治拾遺(1221頃)一五「その聖の護法の、かくやませたてまつる悪鬼どもを、追ひ払ひ侍る也」
祈祷によって物の怪(け)などを調伏する法力。また、それによって鬼神が人にのり移ること。またはその鬼神。
※枕(10C終)二五「せみの声しぼりいだして誦(よ)みゐたれど、いささかさりげもなくこほうもつかねば」
[二] (:ハフ) 法律の権威を擁護すること。
[2] (:ホフ)
[一] 六世紀中期の南インド名僧。原名はダルマパーラ。唯識学派(ゆいしきがくは)十大論師の一人で、法相唯識宗(ほっそうゆいしきしゅう)の祖となった人。那爛陀寺に住んで門下を教育し、のち、大菩提寺著述に専念した。著書に「大乗広百論釈論」や「成唯識論」がある。生没年未詳。
[二] 謡曲。五番目物。陸奥名取の里についた三熊野の僧が、ここの老女から熊野の本宮を勧請(かんじょう)したいわれを聞き、幣帛(へいはく)を捧げると護法善神が現われて神徳を述べる。名取嫗(なとりおうな)廃曲

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デジタル大辞泉 「護法」の意味・読み・例文・類語

ごほう【護法】[人名]

《〈梵〉Dharmapāla》6世紀中ごろの南インドの僧。仏教を広めて多くの門下を教育。唯識ゆいしき十大論師ろんじの一人。著「じょう唯識論」など。

ご‐ほう【護法】

(‐ハフ) 法律を尊重すること。「護法の精神を説く」
(‐ホフ) 仏語。
㋐仏の教えを守ること。仏法を守護すること。
㋑妖怪・変化などを追い払う力。法力。
㋒「護法善神」の略。
㋓「護法天童」の略。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「護法」の意味・わかりやすい解説

護法
ごほう
(530―561)

インド大乗仏教瑜伽行(ゆがぎょう)派(唯識(ゆいしき)学派)の学匠。サンスクリット名はダルマパーラDharmapāla無著(むじゃく)、世親(せしん)以後この学派を発展させた諸学匠のなかの一人で、ほぼ同時代に安慧(あんね)がおり、彼と相対峙(たいじ)する学説を唱えた。最近の研究においては、瑜伽行派に有相(うそう)唯識説と無相(むそう)唯識説との2系統があり、護法は前者を、安慧は後者を代表する学匠であるとみられている。またこの学派の根本教義書である世親の『唯識三十頌(じゅ)』に対し注釈を著した10人の学匠、すなわち十大論師のなかの一人に数えられる。若くしてナーランダー寺の学頭となる。弟子に戒賢(かいけん)、最勝子(さいしょうし)らがあり、戒賢に師事した玄奘(げんじょう)によってその学説が中国に伝えられて法相(ほっそう)宗となった。著書は『唯識三十頌』の注釈である『成唯識論(じょうゆいしきろん)』(玄奘訳)が代表的であり、そのほかに『大乗広百論釈論(だいじょうこうひゃくろんしゃくろん)』(玄奘訳)、『成唯識宝生論(ほうしょうろん)』(義浄(ぎじょう)訳)、『観所縁論釈(かんしょえんろんしゃく)』(義浄訳)などが現存するが、いずれも漢訳のみに伝えられ、サンスクリット原典、チベット訳は現存しない。

[勝呂信静 2016年11月18日]


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改訂新版 世界大百科事典 「護法」の意味・わかりやすい解説

護法 (ごほう)

広義では,仏法に帰依して三宝を守護する神霊・鬼神の類を意味するが,狭義では,密教の奥義をきわめた高僧や修験道の行者・山伏たちの使役する神霊・鬼神を意味する。童子形で語られることが多いため護法童子と呼ぶことが広く定着している。しかし,鬼や動物の姿で示されることもある。役行者(えんのぎようじや)が使役したという前鬼(ぜんき)・後鬼(ごき)は鬼の類であり,羽黒山の護法は,烏飛びの神事に示されるようにカラスである。民俗社会で活動した山伏が使役したイズナやイナリ,犬神なども護法の一種と考えることができる。童子形の護法は,《日本霊異記》をはじめ《今昔物語集》など古代から中世にかけての説話集や絵巻などに数多く描かれており,《信貴山縁起》の主人公命蓮の使役する〈剣の護法〉はもっともよく知られている。護法の属性として,飛行能力,駿足・怪力,身の回りの世話,人に憑依(ひようい)すること,などいろいろと挙げることができるが,病人に取り憑(つ)いている悪霊を追い払うために用いられたということがとりわけ重要な属性であった。剣の護法も延喜の帝(醍醐天皇)の病をなおすために使役されている。山伏などに使役される護法は,彼らの呪力の形象化されたものといえる。
飯綱(いづな)使い
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護法 (ごほう)
生没年:530-561

インドの大乗仏教の学僧。瑜伽行唯識派(ゆがぎようゆいしきは)の所属で十大論師の一人。サンスクリット名はダルマパーラDharmapāla。南インドのドラビダ国に大臣の子として生まれたが,王の娘との結婚式の夕べに出家した。〈唯識思想〉を究めて,ナーランダー寺に入り,ここで戒賢(シーラバドラŚīlabhadra)や最勝子など多くの弟子を育成した。また,従来の諸学説を検討,集大成して新しい唯識説を提唱した。特に,アーラヤ識には,人間に本来そなわっている〈種子(しゆうじ)〉と,新たに発生する〈種子〉がある(新旧合生説)とする種子論,また認識は対象(〈相分〉),主観(〈見分〉),認知(〈自証分〉),再確認(〈証自証分〉)の4要素の相互作用による(四分説)とする認識作用の分析が有名。彼の学説は弟子の戒賢から玄奘に伝えられ,中国で法相宗を形成した。著書に,《成唯識宝生論》《大乗広百論釈論》《観所縁論釈》《成唯識論》がある。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「護法」の意味・わかりやすい解説

護法
ごほう
Dharmapāla

[生]530
[没]561
インド,唯識学派の学匠。南インドのドラビダ国の大臣の子に生れ,王の娘と結婚する夕方,逃れて出家したと伝えられる。仏教のみならず広くインド一般の学問にも通じ,ナーランダ寺において大乗唯識学を説いた。玄奘三蔵によって伝えられた法相宗では最も重視される学匠で,法相宗の伝統を通して中国,日本に与えた影響も強い。『成唯識論』は護法の解釈を正統とする玄奘が複数の著作をまとめて翻訳したものであるが,ほとんど護法の著作と考えられている。ほかに『大乗広百論釈論』『成唯識宝生論』『観所縁論釈』などの著作が漢訳として現存。

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普及版 字通 「護法」の読み・字形・画数・意味

【護法】ごほう(はふ)

仏法をまもる。唐・賈島〔僧を送る〕詩 王侯、皆法 何(いづ)れの寺ぞ、鳴る

字通「護」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「護法」の意味・わかりやすい解説

護法【ごほう】

インドの大乗仏教の学僧。サンスクリット名はダルマパーラ。唯識(ゆいしき)十大論師の一人。ナーランダー寺で多くの門下を教育したという。主著《成(じょう)唯識論》。

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世界大百科事典(旧版)内の護法の言及

【天狗】より

…この宗教の世界では天狗の原質は山神山霊と怨霊である。したがって善天狗は修験道の寺院や霊場や修行者を守る護法善神で,〈南無満山護法善神〉といって礼拝される。護法童子(護法),金剛童子としてまつられるのはその山の山神(山の神)たる天狗である。…

【飛鉢譚】より

…いずれも古代から中世への過渡期に山岳寺院の縁起として形成された話だが,そこには長者や海上交通(米)と霊山(聖)の交渉を通して,王権と山岳寺院(修験道)との関係が物語られており,飛鉢(空鉢(くばつ))とは両者の媒介を象徴するものであった。また,空鉢は聖(ひじり)に奉仕する護法童子の大事な役目であり,命蓮にも剣(つるぎ)護法とともに空鉢護法の存在が語られ(《聖誉鈔》),頭上に鉢をいただく竜神の姿として描かれる。護法は,霊山における古層の神が新米の聖の使霊と化したのでもあり,陰陽道の識神とも重なり,飛鉢譚が仏教の枠を超えた独自な宗教世界の話であることを具体的にあらわす存在といえよう。…

【二上山】より

…山頂近くに泰澄が開いたと伝えられる両山寺(りようざんじ)がある。二上山の信仰で特徴的なのは,護法善神をまつる護法社の存在と,両山寺で8月14日に執行される護法祭である。護法は仏法の守護神であるが,修験道では修験者のよく使う使役神でもある。…

※「護法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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