日本大百科全書(ニッポニカ) 「成育医療等基本法」の意味・わかりやすい解説
成育医療等基本法
せいいくいりょうとうきほんほう
成育過程にある者および妊産婦を支援するための法律。正式名称は「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(平成30年法律第104号)で、2019年(令和1)12月1日施行。略称は「成育基本法」。
成育過程とは、「出生に始まり、新生児期、乳幼児期、学童期及び思春期の各段階を経て、大人になるまでの一連の成長の過程」のことである。成育医療等とは、「妊娠、出産及び育児に関する問題、成育過程の各段階において生ずる心身の健康に関する問題等を包括的に捉(とら)えて適切に対応する医療及び保健並びにこれらに密接に関連する教育、福祉等に係るサービス等」のことである。
この法律には、成育医療等の提供の推進に関する基本理念、国・地方公共団体・保護者・医療関係者等の責務、「成育医療等基本方針」の策定、基本的施策の概要、成育医療等協議会の設置、都道府県の医療計画等を作成する際の成育医療等への配慮義務についての内容が規定されている。
基本理念としては下記の四つの項目があげられている。
(1)成育過程にある者の心身の健やかな成育が図られることを保障される権利を尊重する。
(2)社会環境の変化に即応するとともに、多様化し、高度化する成育過程にある者等の需要に適確に対応した成育医療等が切れ目なく提供されるよう、施策間の連携を図る。
(3)居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切な成育医療等を提供する。
(4)成育過程にある者等に対する適切な情報提供、社会的経済的状況にかかわらず安心して子どもを生み、育てることができる環境を整備する。
基本方針については、施策の推進に関する基本的方向、および基本的な事項等について、政府が成育医療等協議会の意見を聴いて定めるとされている。
基本的施策としては下記の五つの項目があげられている。
(1)成育過程にある者および妊産婦に対する医療。
(2)成育過程にある者等に対する保健。
(3)教育および普及啓発。
(4)記録の収集等に関する体制の整備等。
(5)調査研究。
成育基本法の背景となる社会状況をみると、近年の少子化は予想を上回るペースで進行しており、2019年の出生数は過去最少の86万5234件(概数)であった。夫婦の最終的な平均出生子ども数は1.94(『2015年出生動向基本調査』)であり、合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む子どもの数に相当)は1.36(『2019年人口動態統計月報年計(概数)』)である。乳幼児死亡率は世界的にみてきわめて良好な水準であるが、結婚、妊娠、出産、産後、育児に対するさまざまな不安や負担への対策が課題となっており、本法成立以降、少子化社会対策大綱(2020年5月)が策定され、具体的施策が進められている。
[前田幸宏 2020年12月11日]