指揮権発動(読み)しきけんはつどう

百科事典マイペディアの解説

指揮権発動【しきけんはつどう】

法務大臣は,検察庁法に基づいて検察事務について検察官を指揮監督する権限をもつが,この指揮権は,個々の事件の取調べまたは処分については検事総長に対してのみ発動される。法務大臣が具体的事件について干渉した場合に,検事総長の識見による調整がなされることを期待したものである。1954年4月,造船疑獄事件の捜査の際に,犬養健法相が与党自由党の幹事長佐藤栄作の逮捕をこの指揮権発動で阻止した事件は有名。発動後,法相は辞職した。
→関連項目検察官(法律)最高検察庁佐藤栄作

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

指揮権発動
しきけんはつどう

法務大臣が検察事務に関し、検察官に対して有する指揮監督権を行使すること。ただし個々の事件の取調べまたは処分については、検事総長のみを指揮できる(検察庁法14条)。1954年(昭和29)の造船疑獄の際、これが発動されて有名になった。造船疑獄の捜査が最終段階に入った同年4月20日、最高検察庁は、自由党幹事長佐藤栄作に対する収賄容疑による逮捕許諾の請求を行ったが、翌日、犬養健(いぬかいたける)法相は、吉田茂(しげる)首相の意向を受け、指揮権発動によってこれを拒否した。このため捜査は挫折(ざせつ)し、構造汚職事件の追及は阻止された。犬養は翌22日辞職し、第五次吉田内閣も、結局、12月7日、総辞職を余儀なくされた。[荒 敬]

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世界大百科事典内の指揮権発動の言及

【検察制度】より

…これは,検事総長に適切な人物を得れば,個々の検察権に対する不当な政治的圧力を排除しうるであろうとの趣旨である。法務大臣が検事総長に対し具体的事件について指揮しうる権限を一般に〈指揮権〉といい,この権限の行使を〈指揮権発動〉という。いわゆる指揮権発動には,処分請訓規程(1948年の訓令)に定めるとくに重要な事件についての請訓に対してなされるもの,国会議員の逮捕など将来政治問題化するおそれのある事件の報告に際してなされるものなどがある。…

【造船疑獄】より

…また飯野海運,日立造船,新日本海運,中野汽船,東西海運などの8海運会社があいついで手入れを受け,4月には日本船主協会,日本造船工業会の各幹部,自由党本部会計責任者が逮捕された。さらに最高検察庁は4月20日,佐藤栄作(自由党幹事長)の収賄(船主協会,造船工業会から各1000万円,未届など)による逮捕許諾請求を決定したが,翌21日,犬養健法相は吉田茂首相の意向を受けて検察庁法14条により指揮権を発動し(指揮権発動),佐藤の逮捕延期と任意捜査を指示した(犬養は翌日辞任)。このため捜査は〈政治のカベ〉に阻まれて事実上の中断を余儀なくされ,7月30日に終了したが,事件とその真相を隠ぺいした指揮権発動は吉田内閣の屋台骨を揺るがし,12月7日の総辞職へと追い込まれていった。…

※「指揮権発動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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