政府の計画造船および造船利子補給法改正案成立をめぐる典型的な構造汚職事件。1954年(昭和29)1月表面化した。事件は、海運会社が、計画造船に融資された国家資金の一部を造船会社から得た3億円近くのリベートを裏金として浮き貸ししたことから発覚した。またそのリベートが計画造船の適格船主決定に際し、割り込みの運動資金としても利用され、当時の運輸省・開発銀行関係者へ贈賄したことも明らかになった。さらに計画造船融資の金利引下げを目的とした利権法案である造船利子補給法改正案の成立(1953年7月)のため、政・官界有力者三十数名に工作資金としてこのリベートを用いていた事実も明らかとなって、事件は第二次世界大戦後最大の疑獄へと発展した。東京地方検察庁は、54年の1月以降、山下汽船会社社長横田愛三郎、運輸省官房長壺井玄剛をはじめ、有田二郎(自由党副幹事長)ほか国会議員4名を、4月には日本船主協会・日本造船工業会の幹部、自由党本部会計責任者を、と続々逮捕した。捜査は政界中枢に及び事件の核心に迫る最終段階に入った。4月20日、最高検察庁は、収賄容疑で佐藤栄作(自由党幹事長)の逮捕許諾請求を決定した。しかし、翌21日、犬養健(いぬかいたける)法相は検察庁法第14条によって指揮権を発動したため捜査は挫折(ざせつ)し、7月30日、検事総長は終結を宣言した。指揮権発動によって政治資金の元となる構造汚職の追及が阻止され、以降、疑獄事件摘発も困難となった。捜索を受けた造船会社は11社、海運会社は17社、逮捕者71人のうち起訴された者34人、政・官界に流れた資金は2億7000万円以上であった。
[荒 敬]
『田中二郎編『戦後政治裁判史録 第2巻』(1980・第一法規出版)』▽『室伏哲郎著『汚職の構造』(岩波新書)』
計画造船などをめぐる政官財界の大規模な贈収賄事件。1954年1月,東京地方検察庁は山下汽船会社の家宅捜索を行い,同社幹部2名,同社長,運輸省官房長らを逮捕した。その容疑は,1953年度の計画造船(37隻445億円,うち財政融資266億8000万円)の適格船主選考,同年の外航船舶建造融資利子補給および損失補償法の制定をめぐって,海運業界,造船業界と政官界との間に行われた贈収賄であった。これが発端となって検察の手は政界に伸び,2月衆議院が有田二郎(自由党副幹事長)の収賄による逮捕許諾請求を期限付きで認めたほか,衆参両院で4人の議員が逮捕された。また飯野海運,日立造船,新日本海運,中野汽船,東西海運などの8海運会社があいついで手入れを受け,4月には日本船主協会,日本造船工業会の各幹部,自由党本部会計責任者が逮捕された。さらに最高検察庁は4月20日,佐藤栄作(自由党幹事長)の収賄(船主協会,造船工業会から各1000万円,未届など)による逮捕許諾請求を決定したが,翌21日,犬養健法相は吉田茂首相の意向を受けて検察庁法14条により指揮権を発動し(指揮権発動),佐藤の逮捕延期と任意捜査を指示した(犬養は翌日辞任)。このため捜査は〈政治のカベ〉に阻まれて事実上の中断を余儀なくされ,7月30日に終了したが,事件とその真相を隠ぺいした指揮権発動は吉田内閣の屋台骨を揺るがし,12月7日の総辞職へと追い込まれていった。造船疑獄の関係者は約1900人にものぼり,被疑者122人,在宅取調者51人,逮捕者71人。危うく逮捕を免れた佐藤は6月16日,政治資金規正法違反だけで起訴されたが,1956年12月28日,日本の国際連合加盟による恩赦で大赦,免訴となった。その他の被告17人は60年から62年にかけて,懲役1~2年(執行猶予付き)の有罪が確定した。
執筆者:川村 善二郎
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…特に昭和20年代は,政府の民間に対する保護政策を焦点とした事件がめだっている。1948年の昭電疑獄は,傾斜生産方式による復興金融金庫の政策融資をめぐり,GHQ内の対立もからんだ事件であり,54年の造船疑獄は,計画造船における見返り資金(利子補給,開銀融資)をめぐり,検察内の対立もからんだ事件として著名である。昭和30年代以降,許認可行政の範囲の拡大と国際的な融資の増大とにより,第1次・第2次FX選定問題,インドネシア賠償問題,ソウル地下鉄問題,税政連問題,KDD事件などの疑獄が表面化した。…
※「造船疑獄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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