撫物(読み)なでもの

精選版 日本国語大辞典 「撫物」の意味・読み・例文・類語

なで‐もの【撫物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. けがれを除くための禊(みそぎ)祈祷などに用いる、身代わり人形衣類。それで身体を撫でてけがれや禍などを移し、川に流したり、祈祷所などにつかわして祓い捨てたりした。形代(かたしろ)贖物(あがもの)。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「みし人の形代ならば身に添へて恋しき瀬々のなで物にせむと」(出典:源氏物語(1001‐14頃)東屋)
  3. 小袖。〔随筆貞丈雑記(1784頃)〕
  4. 猫のこと。〔和訓栞(1777‐1862)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「撫物」の意味・わかりやすい解説

撫物 (なでもの)

身の穢(けがれ)を除くために用いる呪物。一般に陰陽師(おんみようじ)が祓(はらい)や祈禱を行う際に,人形や衣類等を用意し,これに依頼者の穢をなでて移し,川に流し去るものである。平安時代,摂津難波津で行われた一代一度の八十島祭(やそしままつり)では,天皇が下賜した御麻(おおぬさ)の撫物を振って金人銀人の人形に穢を移し,海浜に棄却した。やがてこれが密教の〈六字河臨法〉と称する祓にも影響し,河川に舟を浮かべ,僧侶読経と陰陽師の中臣祓(なかとみのはらい)読誦を伴いつつ,檀家がわら人形である撫物に穢を移し散米をかけ茅の輪(ちのわ)をくぐらせる呪法を行ってこの人形を水中に投ずる。こうして中世には広く社寺が撫物棄却の祭儀を行うようになった。室町幕府将軍の祈禱に際し撫物使を社寺に派遣しこの祭儀を行わせており,近世賀茂別雷(わけいかずち)神社では禁裏,仙洞,大宮,東宮の各御所より毎月撫物の入った筥を下賜されて祈禱を行い,年末にこれを返上することになっていた。
形代(かたしろ)
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世界大百科事典(旧版)内の撫物の言及

【身固】より

…《宇治拾遺物語》には安倍晴明が少将某を身固するのに,この人物を抱き呪文をとなえ加持した話を載せている。これは密教でいう護持に相当し,一般には撫物(なでもの)と称し,陰陽師の用いる人形を,依頼する人がなでまわしてこれを川に流す呪法も,広い意味からは身固の作法の一部とみなしうる。一説に身固は反閇(へんばい)の略法ともいわれ,反閇は六甲術とも称し,その作法の陰陽道の宗家である賀茂・安倍両氏の習伝するところで,大地を踏む所作(禹歩)が含まれる。…

※「撫物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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