人,器財,動物などを模してそれに代わるべきものを作り,種々の呪術を行う道具。人形,馬・牛・鳥・鶏・犬形,刀・剣・鉾・鏃形,車・輿・舟形,男茎形など多種にわたり,素材も紙,布,木,鉄,スズ,銀,金,土製と多様である。飛鳥時代中国から伝わり藤原宮期に確立し,奈良・平安時代に盛行し後代につづく。人形代には凶用と善用の2種がある。凶用の人形代は587年(用明天皇2),中臣連勝海が彦人・竹田両皇子の人形代を作り呪殺を謀った例,平城宮大膳職の井戸で発見された人形代に〈坂部秋建〉の名を墨書し両眼と胸に木釘を打つ例がある。憎悪の対象を厭魅(えんみ)し死に至らせる人形代であり,〈律〉の禁ずるところである。善用の人形代には大祓での天皇・百官使用の人形代がある。一撫一吻して罪穢・病気を人形代に移し河川に流しやり平常に回帰する目的をもつ。《延喜式》によれば,平安時代の天皇は実に年間2168枚の人形代を用いる。このほか,中世以降,夫婦の離別和合,失人盗人の発見など広い分野で多用されている。奈良時代の馬・牛形は疫神の乗物であり疫神の象徴であり,一部を損じて足留に用いたり祓い流されたが,中世にはしだいに奉献される神馬の形代が生まれる。鶏・鳥・犬形,刀・剣・鏃形はともに神に供献されるもの,舟・輿形は罪穢が移された人形代や疫神を送りやるものとして形代化された。善用の形代は寄り来る疫神や身につもる罪穢を除祓する儀式の周辺に強く根付いているのである。
執筆者:水野 正好 形代は,広義には人為的に加工された神霊の憑依体をいい,その種類は多くまたさまざまな分化をとげている。形代には最初から神の表象を意図して作られたものと,本来は別の用途であったものが転用されるようになったものとがある。前者には御幣,削掛け(けずりかけ),旗幟,棒柱,オハケ,人形,仮面,影像,神輿,山車,塚,壇,位牌,塔碑,鏡,剣鉾,玉などがあり,後者には生産具,生活用具などがある。塚や石像,石碑などは,神霊のこもる聖地としての山丘や神体としての自然物から展開した形代であり,また旗,オハケ,棒柱などは神の依り木から変化してきたものである。木串に紙や布帛を付けた御幣は,神に捧げる財物と依り代との二つの意味をもつ。後者は神霊を勧請する習俗が普及するにつれて一般化したもので,本来は手にとって動かす神霊の依り代であり,玉串などにより本来的姿をとどめており,紙の普及する以前の姿は削掛け等に認められる。
人の形を模した人形(ひとがた)も本来は神霊の表象で,神霊を送るために人形を作る習俗は道祖神祭り,疫病送り,虫送りなどの各種の行事にみられ,山車や屋台に作られる人形(にんぎよう)も神の送迎を示す形代が本来の姿であった。また雛人形や武者人形も本来は毎年流すもので,紙や土製の雛人形を作り桟俵(さんだわら)にのせて流す流しびなの習俗にそのもとの姿をとどめている。さらに撫物(なでもの)といって,紙人形を作り人体を撫で,罪や穢れを紙人形に移して川などに流す祓(はらい)の習俗も広く行われている。このほか丑の刻参りに代表される呪人形,採物(とりもの)としての人形もあり,採物としての人形は芸能化して人形芝居へと変化している。
執筆者:宮本 袈裟雄
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人形(ひとがた)ともいう。紙で人体の形をしたものをつくり、これを流して災いを除いた。古くは陰陽師(おんみょうじ)がこれをつくり、流したり焼いたりして災いを防止した。今日、神社で6月の大祓(おおはらえ)の前に、氏子の家に人形(ひとがた)を配り、それに氏名・年齢を書いて宮に納めると、神職が祓(はらい)をして流し、災いを避ける。埼玉県の南部では6月晦日(みそか)の大祓の前日、紙人形(ひとがた)に家内中の名を書いて氏神に納めることを、人形祈祷(ひとがたきとう)といっている。今日一般に、雛人形(ひなにんぎょう)とよばれているものも「雛ひとがた」すなわち形代であり、これを人体の代わりとしてこれに災いをつけて流してしまうのである。つまり身代りになる形代であった。撫物(なでもの)と称するのも同様で、形代で身体を撫でてそれに穢(けがれ)をなすりつけたのち、それを流して災いを除いたのである。平安時代には、宮廷や貴族の間では陰陽師によってこの行事が行われたのである。現在鳥取地方でよく知られている郷土玩具(がんぐ)の流し雛も、この習俗の一つとして行われたものである。形代はかならずしも紙の人形(ひとがた)のみではなく、村々ではむしろ藁人形(わらにんぎょう)などの場合のほうが多かった。常陸(ひたち)(茨城県)や東北の鹿島人形(かしまにんぎょう)、大助人形(おおすけにんぎょう)というのは人形(にんぎょう)を送って災いを去るので、これも送り出すべき疫神の形代であったのである。人形(にんぎょう)にもやはり災いを取り去ってもらうために、これを流し去るという神の形代としての考えがみられる。
[大藤時彦]
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