改訂新版 世界大百科事典 「政治変動」の意味・わかりやすい解説
政治変動 (せいじへんどう)
political change
政治の安定性ないし均衡状態がやぶれ,政治体制の内部集団間の紛争やあつれきが増大する結果として生じる政治上の変革。その態様は,(1)統治組織内部の変動,(2)権力の最高担当者の変動,(3)支配関係自体の変動の三つに分かれるが,そのそれぞれの変動が合法的になされるか非合法的におこなわれるかによって六つの型に区分できる。
(1)は統治組織を構成する各機関の権力的比重が変動する場合で,20世紀に入ってからの国家行政機能の拡大にともなう執行権(現代官僚制)の優越化と議会の地位低下(〈立法国家〉から〈行政国家〉への移行),1930年代の日本における明治憲法の形式的枠組みを変えないままでの軍部の台頭,などがその例である。統治組織内の権力の相対的変動が非合法的におこなわれる場合が〈クーデタ〉であり,現在でも第三世界,とくに中南米などでは軍部によるクーデタが頻発している。
(2)は統治組織の最高首脳部の人的変動の場合であり,議会制民主主義のもとで総選挙,大統領選挙その他の事情変更(最高指導者の死亡,辞意表明,引退など)の結果として,政権が反対党に移動するなどの形で政権担当者が変わることを〈政変〉という。そしてそのことが同時に,(3)の意味での政治変動となることもありうる。最高権力者の変更が非合法的に,たとえば暴力的におこなわれるが,統治組織には変更が加えられない場合も,通常クーデタと呼ばれる。
(3)は既存のとくに階級的支配関係が変革される場合で,これを〈体制変動〉ないし端的に〈革命〉(あるいは〈反革命〉)という。革命は既存の支配体制の根本的変革であり,政治権力の,ある階級ないし階級分派から他の階級ないし階級分派への移動であるから,通常(1)および(2)の意味での政治変動をともない,またそれは生産諸関係の巨大な変動の結果であったり,起動因となることが多い。近代のブルジョア民主主義革命は前者の例であり,1917年10月のロシアにおけるプロレタリア(社会主義)革命は後者の例である。体制変動ないし革命が合法的におこなわれるか非合法的におこなわれるかという論点については,少なくとも近代以降に限定するかぎり,歴史的事実のうえからいっても,理論的に考えてみても,結局は非合法的,なかんずく強力的におこなわれることが多かったし,その蓋然性が高いであろう。イギリスのピューリタン革命,アメリカ独立革命,フランス大革命とそれ以降のフランスにおける諸革命(七月革命,二月革命,パリ・コミューン),1905年の挫折したロシア革命,17年の二月革命と十月革命,中国革命,ベトナム革命などみなそうである。理論的にいえば,革命が戦争,とくに敗戦を契機としてしばしば勃発すること,革命が政治権力の階級間移動であるかぎりにおいて,既存体制の正統性根拠を全面的に否定し,既存の国家権力機構の徹底的解体を要求しがちであること,これに対抗するために支配者の側も組織化された暴力や弾圧に訴えがちであること(予防的反革命ないし反革命)などが,その理由となるであろう。ただ,最近の発達した資本主義諸国における共産党の中には,第3次世界大戦を回避する現実的可能性を想定しつつ,反独占ないし反帝・反独占の統一戦線に勤労大衆の圧倒的多数を組織化し,議会等において統一戦線勢力が多数を占めることによって,合法的・平和的に政権を獲得し,社会主義への移行の展望を切り開こうとする革命路線を主張するものがふえており(先進国革命路線,ないしユーロコミュニズムの路線),この〈世紀の実験〉が成功するかどうかが注目されている。
→革命
執筆者:田口 富久治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報