政治的決定や指導者の選出などが行われる現実の過程を指して使われる用語。
政治現象を過程として把握する視点は,20世紀の前半,論争を伴ったひとつの主張という形で登場した。市民社会において,政治を国家や議会などから制度的・理念的に解釈するのが一般的だったのに対して,政党政治や世論などの現実的な展開に即して分析する視点は,19世紀末のW.バジョットやJ.ブライスなどの業績にすでにあらわれていたが,それが過程論という形で表現されるようになったのは,同じ制度論への対抗として形成されたマルクス主義的な構造論に対して,明確に自己形成するようになってからである。
それは一方では,J.デューイ,A.N.ホワイトヘッドらの機能主義的プラグマティズムの哲学を支えとしていた。20世紀の初頭,マルクス主義の実体論的,本質論的アプローチに対抗して,具体的な機能や現実の過程に即して社会事象の全般を分析することが彼らによって提唱されたが,政治過程論もその一部として形成されたのである。他方,20世紀を迎えて大衆化と組織化が進行するに従い,〈集団の噴出〉現象がはじまり,政治の世界は,個人を単位とした19世紀的な諸制度も,また階級対立しか視野に入れないマルクス主義的な構造論も処理しきれない,多元的な利益集団間の相互交渉の過程として把握するのが実態に即しているという考えが強まった。
このようにして,A.F.ベントリーの《統治の過程》(1908)にはじまり,トルーマンDavid B.Truman《統治過程論》(1951)にいたる政治過程論に立つ多くの著作が生み出された。その多くは,トルーマンに典型的に見られるように,こういう利益集団の相互交渉がやがては均衡に達して,新たな多元的集団の民主主義が生まれるというアメリカ的体制の擁護論を内包していたために,支配階級論に立つマルクス主義政治学との間に激しい論争がしばしば行われた。しかし,その後,マルクス主義者の間でも,20世紀の政治的現実をふまえた具体的な分析の必要が認識されるにつれて,政治過程ということばは,必ずしも集団を単位とした均衡論的内包を伴うことなく,一般的に使用されるようになっている。
政治過程は,このように今日の政治制度が規定していない政治の現実を,動態的に把握するアプローチを指し示すことばとして使われてきている。それは,とりわけ20世紀的な政治現象としての利益(圧力)集団,大衆宣伝,エリートや指導者,大衆運動などの歴史的・分析的研究に対して用いられることが多い。これまでとりわけ研究が集中してきた分野には,次のようなものがある。
(1)政策決定過程 特定の政策や決定がどのような過程で形成されるかに焦点をあてたもので,さらに官僚や政策スタッフ内における起案過程についての規範的・実証的研究,政策がどのような対外的・対内的圧力の下に決定されるかの交渉過程や立法過程あるいは圧力過程などについての研究,政策に対してどのように大衆的支持をとりつけるかについての説得あるいは操作過程の研究などに分かれる。(2)権力過程 政治権力やエリートあるいは指導者がどのように形成され,選出されるかの過程についての研究。それはまた,特定の社会内におけるエリートや権力集団の形成過程,選挙制度という枠内での戦術や影響力行使の仕方を追求する選挙過程,派閥や敵対集団間の抗争過程などに分けることができるだろう。
このほか,政治過程の研究は,今日,複数の行為主体の相互交渉の下に営まれる政治のあらゆる側面について,細分化されつつ拡大する傾向にある。
このように政治過程の研究が,時間の継起の中で営まれる政治的行為主体の具体的行動の記述に即そうとすればするほど,それが純粋な政治史の別称でないかぎり,多元的な行為主体の行動規準やその結果について整理する理論的枠組みが必要となってくる。したがって,政治過程的な分析は,明白にあるいはその含意において,何らかのシステム論的な仮説とセットになっていることが多い。政治過程論の生成時に多く内包されていた均衡論も,そのひとつだったと考えることができる。今日,均衡論的な仮説の安易さが指摘されればされるほど,それに代えて,過程論的な分析を有効に生かす理論的枠組みやシステム仮説をどのように形成するかについて,関心が高まっているということができるだろう。
執筆者:高畠 通敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「運動」「変動」という政治現象の動態的側面を強調して政治について考察・分析しようとする研究者は、政治過程という語を意識的・積極的に使用する傾向がある。そこには、フォーマルな静態的な統治構造のみに政治の世界を狭く限定せず、利益の相互作用という政治の本質的契機を広大な文脈で動態的にとらえて分析しようとする姿勢が読み取れる。
政治過程、つまり「利益の抗争・対立(分裂力)と調整・統合(合意形成力)の途絶なき相互作用の過程」という視点が登場した背景にあるのは、デモクラシーの大規模化(政治権力の大衆的基盤拡大)と政治範域の拡大であった。新規に参入した膨大な大衆は、政治の場に、多様な欲望・期待を噴射させ、その実現を確実なものとするために自らを組織化した。組織されたマス・デモクラシーの時代が到来した。それぞれの利益は、組織を背景にしてその実現を政治に求めるようになった。政治の場は、集団と集団が対決する奪い合いのシステムとなった。政治システムはなによりも、相対立する利益・欲望を調整・統合しなければならなくなった。伝統的な政治分析の視点、つまりフォーマルな政治制度の静態的解釈という視点では、もはや十分な説明能力をもちえない。
20世紀の初頭、第一次世界大戦ごろから政治過程という語を政治学者が使用するようになったが、政治過程という視点を一つの理論的フィールドにまで発展させたパイオニア的業績はA・ベントリーが1908年に発表した『統治過程論』であった。この著作は、制度論偏重の当時の学問状況にあってはあまりにも斬新(ざんしん)であったため、受け入れられなかった。だが、1951年にD・B・トルーマンが発表した『政治過程論』で再評価され、その理論的秀逸性が広く認められることになった。
政治過程は、市民の利益・主張・要求が政策決定の場に集約・表出され、アウトプットに変換されていく過程と定義できる(狭義の政治過程)。だが、変動を常態とする今日では、視野を拡大し、候補者指名過程、選挙過程(投票、政党)、交渉・調整過程(利益団体、大衆運動、市民運動)、立法過程(議会行動)、行政過程(官僚)、司法過程(裁判所)、フィードバック過程(世論、政治意識、マスコミ、政治文化)を包摂しようとする傾向がある。
[岡沢憲芙]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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