教員のカリキュラム編成(読み)きょういんのカリキュラムへんせい(英語表記)faculty and curriculum

大学事典 「教員のカリキュラム編成」の解説

教員のカリキュラム編成
きょういんのカリキュラムへんせい
faculty and curriculum

大学において教育の体系を示すのは教育課程(近年,同じ意味を持つ言葉として「教育プログラム」の語がよく用いられる)であり,教育課程の内容に当たるカリキュラム編成を編成するに際して最も重要な役割を果たすのが,各課程の教育の実施を直接担当する教員および教員集団である。大学教育はその基本的なあり方として,各学問分野の専門家集団である教員(大学教授職,faculty)が,各専門分野の教育・研究に関する決定権を有する。これは大学における学問の自由,専門家自治に関わる最も根源的な原理の一つであり,大学の中核に位置するアカデミックな諸事項の決定は,その内容を最も深く関知する専門家集団に委ねるべきであるとの原則に則っている。国・地域によっては,法律によって,あるいは学内規則によって,カリキュラムの最終決定権を理事会学長に担保させている場合がある。しかし,その場合でも,カリキュラムを含むアカデミックな事項については,教員集団の判断が最大限尊重されるべきであり,それとは異なる決定を下すのは稀な場合に限られるとされる。また通常は,こうした決定の様式慣習として成り立っている。

[三つの教員集団]

このようにカリキュラム編成は基本原則として専門家集団の判断が尊重され,またそれが最も重要な意味を持つ。ただし,ここでいう教員集団,専門家集団には大きくいって三つの異なるレベルが存在する。最も狭い意味では,各教育課程の実施に直接携わる教員集団がある。この集団の規模は教育課程の目的や規模により異なる。カリキュラム編成を実質的に担うのはこの集団である。次に,各教育課程が属する組織における教員集団がある。日本の場合,これは通常,部局(学部,大学院)における教員組織としての教授会に当たる。部局は普通,複数の教育課程から成り立っており,部局に所属する教員の担当する課程は専門により異なるが,分野や規模によっては部局が第1の意味における教員集団と重なる場合もある。部局は各課程の専門的内容をより大きく包含する形で専門的学問を構成しており,すなわち部局の教員集団は広い意味での専門家集団に当たる。新たな課程の立上げ,教育科目の新設・改廃などは,通常,部局教授会での議論と決定の手続きに委ねられる。この場合,上述のように,第一義的には教育課程の実施に当たる狭い意味での教員集団の判断が重視されるが,場合によっては教授会の場で専門的内容に立ち入った実質的な議論が交わされ,結果として元の判断が覆されたり,修正されたりする場合がある。内容的な議論に至らない場合でも,カリキュラムや授業科目の実施可能性の検討や重複の整理などの各種調整が行われることがある。また,教授会と並行して教育課程委員会,カリキュラム委員会などが編成され,より小規模な単位でカリキュラムに関わる実質的な議論の場を確保する場合もある。このように,部局レベルにおける教員集団では,課程のカリキュラムに対するチェックや調整(場合によっては支援)が行われ,すなわち,それはカリキュラムを管理する権限を有しているといえる。

 最後に,全学レベルの教員集団がある。このレベルの教員集団がカリキュラムに及ぼす影響は,大学の規模や専門分野の多様性によって異なる。多数の部局を有する大学では,全学レベルでカリキュラムに関わる議論がほとんど行われない場合もある。一方,部局の数が少なく,部局間の学問的な親和性が高い場合などは,前述の部局レベルで行われるような議論が全学レベルで交わされる場合もある。またアメリカ合衆国では,全学レベルの教授会に相当する評議会(アメリカ)(faculty senate, academic senateなど)が置かれる場合が多く,学内のほぼ全課程のカリキュラムに関する実質的な最終意思決定はここで行われる。全学レベルにおける議論で最も重要な意味を持つのは,全学的に企画・実施される教育課程,すなわち教養教育や共通教育に関する議論である。ここでは多くの場合,全部局から教員の代表が選定され,委員会や部会等の組織を編成して,カリキュラムに関する議論が行われる。全学的な議論においてはさまざまな調整が必要となることが多く,こうした議論を支えるために,教育担当副学長などの下にセンターや機構,室などの組織が置かれる場合もある。

 以上のようないくつかのレベルの教員集団での議論を超えて,学長をはじめとする大学執行部や理事会などがカリキュラムに影響を及ぼすことは多くないが,教養教育・共通教育に関わる議論には学長の意向が反映される場合がみられる。また,全学的な教育改革が進む状況下や財政上の危機にある場合などには,学長や理事会の意向がカリキュラムのあり方に強く影響を及ぼす場合がある。また近年では,特色GP,現代GPなど,政府による特定教育プログラムへの各種の財政支援が行われるようになり,これらプログラムの企画・申請・実施に当たっては,大学執行部を含めた全学レベルで議論が行われる場合が多い。
著者: 福留東土

参考文献: 寺﨑昌男『大学教育の創造―歴史・システム・カリキュラム』東信堂,1999.

参考文献: Lisa R. Lattuca & Joan S. Stark, Shaping the College Curriculum: Academic Plans in Context(2nd Edition), Jossey-Bass, 2009.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

今日のキーワード

排外主義

外国人や外国の思想・文物・生活様式などを嫌ってしりぞけようとする考え方や立場。[類語]排他的・閉鎖的・人種主義・レイシズム・自己中・排斥・不寛容・村八分・擯斥ひんせき・疎外・爪弾き・指弾・排撃・仲間外...

排外主義の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android