理事会(読み)りじかい

大学事典 「理事会」の解説

理事会
りじかい

学校法人の管理・運営に関する議決機関であり,理事で構成する会議を指す。その設置形態や名称等は大学の設置主体により異なる。

[理事会の名称・権限等]

私立大学を運営する学校法人には,理事会が設置されている。私立学校法(日本)は理事会・理事に関して「学校法人に理事をもつて組織する理事会を置く」「理事会は,学校法人の業務を決し,理事の職務執行を監督する」と規定している(36条)。同法では理事の該当者は以下のとおりである。①当該学校法人の設置する私立学校の校長(学長・園長を含む),②当該学校法人の評議員のうちから,寄附行為の定めるところにより選任された者,③その他,寄附行為の定めるところにより選任された者(38条)。さらに理事の職務については以下のように定める。理事長は学校法人を代表し,業務を総理する。理事は,寄附行為の定めるところにより,学校法人を代表し,理事長を補佐して学校法人の業務を掌理し,理事長に事故があるときはその職務を代理し,理事長が欠けたときはその職務を行う。監事(学校法人)についても,①学校法人の業務の監査,②学校法人の財産状況の監査,③学校法人の業務・財産の状況について毎会計年度,監査報告書を作成し,理事会および評議員会への提出が業務として規定されている(37条)。理事の数は5人以上と規定されている(35条)。実際にはこれを大きく上回る大学が多い。

 国立大学の場合には,「理事会」は設置されていない。国立大学法人法(2003年制定)には「理事会」に関する規定はないが,それに相当する組織として「役員会(国立大学)」の設置を規定している(「学長及び理事で構成する会議」同法11条)。理事の数は各大学ごとに決められており一定ではない。大学の規模等により2~8人である。学長が役員会の議長を務める。

 公立大学の場合には,地方独立行政法人法の「公立大学法人に関する特例」の諸規定の中に,理事会(役員会)に関する規定は設けられていない。理事会を設置するかどうかは設立団体の判断によっており,設置していない大学もある。役員は理事長,副理事長,理事,監事で構成されるが,副理事長については置かないこともできる。役員の数は定款で定められている。

[理事会と教授会の意見対立]

私立大学では理事会と教授会の権限をめぐる意見の対立が,従来からしばしばみられる。理事会が法人の経営に関する権限を有するのに対して,教授会は教育・研究面に関する権限を有する。大学の主要な活動が教育・研究であり,その推進・改善に権限と責任を教授会が負う限り,教授会の役割が大きくなるのは必然である。一方,大学といえども経営体の一部である以上,教育・研究の論理のみでは運営できず,経営の論理を無視できない。両者の論理の矛盾が理事会と教授会の見解の対立となる場合も少なくない。

 大学設置・学校法人審議会(日本)は2003年(平成15)に発表した「学校法人制度の改善方策について」の中で,理事会の機能強化の方針を打ち出した。法人経営をめぐる社会・経済情勢に対応しつつ,安定した学校運営を行うためには,学校法人の管理運営機能の一層の充実を図ることが必要であり,学校法人の業務に関する決定権限を有する理事会の機能の強化が不可欠と指摘している。具体的な方策として,学校法人の業務に関する最終的な決定機関としての位置付けを明確化する観点から,理事会を法令上に位置付けること,理事に外部人材を任用することを適当としている。私学高等教育研究所(日本)が2005年に行った理事会運営に関する調査でも,理事会の意思決定・執行機能を強化する傾向が確認された。そのことは,教授会の決定権限と矛盾する場面も想定される。

 2004年に行われた私立学校法の改正では,私立大学の理事会の権限が強化された。同法は,「私立学校の公共性を一層高め」,「学校法人の管理運営制度の改善」を目的として,経営の透明化・明確化,複数の理事が代表権を持つ不合理さを改め理事長の代表権を明確にし,理事の業務分担による権限の分割登記を可能にした。

[理事会をめぐる政策動向]

経済同友会が2012年に発表した「私立大学におけるガバナンス改革(日本)―高等教育の質の向上を目指して」は,理事会の現状を,以下のように指摘する。理事会は学校法人の最高意思決定機関であり,学校法人および傘下の大学の人事,予算,規則改定,組織改廃等について最終的な決定権限をもつ。しかし,実態は,理事会の権限は限定的で,大学・教授会の決定を追認するだけになっている。教授会の意向が理事会に影響を及ぼす可能性も否定できない。この現状を踏まえ,理事会に人事権・予算権・組織変更権等を与え,理事会を実質的に最高意思決定機関にしなければならない。これが私立学校法(2004年改正)の本来の主旨であるという。また,理事会が実質的な学長任命権を取り戻し,学長の権限を強化し,理事会は学長を通して間接的に大学に影響力を行使する形が望ましい。理事会は,学校法人の長期的展望・戦略や方針の決定および学長人事等を担うことも提言する。つまり,大学のガバナンスが大学・教授会に強く規定されて,経営体としての機能を十分に果たし切れていないとの認識である。さらに,外部理事の比率を増やすことをあわせて提起している。

 中央教育審議会大学分科会は,2014年2月に発表した審議のまとめの中で,法人の監事機能強化の必要性を指摘し,監事の権限を強化し法人の内外から業務運営の改善を図るべきことを提言した。具体的には,財務や会計の状況だけでなく,教育・研究・社会貢献の状況,学長の選考方法,大学内部の意思決定方式等の大学ガバナンス体制等についても監査すべきと指摘した。

 さらに,政府は「経済財政運営と改革の基本方針2015」(2015年5月閣議決定)において,私立大学のガバナンス機能強化を図る観点から,適切な意思決定を可能とする組織運営の確立,教育研究の状況や財務情報等の積極的な公開の促進,財政基盤の確立と基盤的経費等のメリハリある配分を行う方針を示した。ここにみられるのは,教授会の権限を制限して,実質的に理事会が大学の最高決定機関としての実質を回復すべきであること,大学人だけでなく大学外部の人材を積極的に登用して,経営体として大学のガバナンスを高めることを企図するものといえる。
著者: 夏目達也

参考文献: 大学設置・学校法人審議会 学校法人分科会 学校法人制度改善検討小委員会「学校法人制度の改善方策について」,2003.

参考文献: 経済同友会「私立大学におけるガバナンス改革―高等教育の質の向上を目指して」,2012.

参考文献: 林直嗣「改正私学法と大学の経営・ガバナンス」『ガバナンス問題通信』第15号,2006.8.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報