教父(読み)キョウフ

デジタル大辞泉 「教父」の意味・読み・例文・類語

きょう‐ふ〔ケウ‐〕【教父】

カトリック教会で、2~8世紀に現れた神学者のうち、正統信仰をもち、聖なる生涯を送り、教会に公認された人々。オリゲネスアウグスティヌスなどが有名。

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精選版 日本国語大辞典 「教父」の意味・読み・例文・類語

きょう‐ふケウ‥【教父】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 古代キリスト教会で、原始教会の伝統とギリシア哲学を結合しつつ、キリスト教の真理を体系化した神学者。特に、カトリック教会の成立した二世紀以後七、八世紀までの人たちをさす。〔現代文化百科事典(1937)〕
  3. 洗礼の時の保証人。名親。

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改訂新版 世界大百科事典 「教父」の意味・わかりやすい解説

教父 (きょうふ)

古代および中世初期の有力なキリスト教著作家のうち,教会によって正統信仰の伝承者として認められた人々の総称。教父の著作および思想の研究を〈教父学patristics(patrology)〉と呼ぶ。教父にあたるギリシア語patēr,ラテン語paterはいずれも〈父〉の意味で,古代教会においては主教の敬称であった。しかし4世紀には,聖書に明示されない教義や教説の擁護と確立のために,正しい信仰を伝えたと認められる神学者の著作を権威とする習慣が一般化し,そのような著作家をとくに教会の〈父〉と呼ぶようになった。したがって教父とは単なるキリスト教思想家のことではなく,その著作が,聖書の有する古来の権威に次ぐないしはそれに匹敵する権威を有した人々である。アレクサンドリアクレメンスとかオリゲネスのように著作の一部の正統性が疑われた場合,教会が教父として認めないこともあった。他方,アレクサンドリア主教のアタナシオスとかキュリロスのように,正統信仰を擁護し,神学上の貢献が大きく,かつ聖人である場合,〈教会博士doctores ecclesiae〉の称号で呼ばれる教父も存在する。かくしてカトリック教会では教父の名称を与えるために,時代としての古代,教理の正統性,聖なる生活,教会の承認の四つの基準を設定している。

 使徒(キリストの弟子)ないし新約聖書の各筆者は教父とは呼ばない。けれども使徒とほぼ同じ時代,すなわち1世紀末から2世紀前半にかけて書かれた教会文献のうち,新約正典に含まれなかった文書の筆者,クレメンス,イグナティオスポリュカルポス,ヘルマス,パピアスなどは教父であり,とくにここにあげた人々は近世になって〈使徒教父〉と呼びならわしている。したがって教父は〈使徒教父〉から始まるわけだが,下限はセビリャイシドルス(636ころ没)である。ただし東方正教会ではダマスクスヨアンネス(749ころ没)を最後の教父としている。古代教会の教父はほとんどギリシア語を用いたので,〈ギリシア教父〉と呼び,他方,ラテン語を用いた西方教会の教父,キプリアヌスヒエロニムス,アウグスティヌスなどは〈ラテン教父〉と呼ばれる。

 教父の重要性は,まず教義の形成に直接たずさわり,それによってキリスト教が世界宗教になる基盤を築いたという点に求められる。三位一体論からキリスト論といった教義の根幹にかかわる問題が教義上および教会政治上の激しい争いを経て解決を見たのは,ニカエア公会議(325)からカルケドン公会議(451)までの期間で,この時代には教父の名にもっともふさわしい人々,アタナシオス,〈カッパドキア三星〉(大バシレイオス,ナジアンゾスのグレゴリオス,ニュッサのグレゴリオス)とクリュソストモス,さらにアレクサンドリアのキュリロスなどが活躍した。このうちカッパドキアの3教父は一様にギリシア的教養を身につけており,プラトン哲学の方法を取り入れることによって,キリスト教が普遍的に受容される素地を作った。もちろん教父の活動の陰には異端として葬りさられた数多くの教会人がいたわけである。また教父の名を冠してひそかに生きのびた異端の教えもあった。教父の権威を借り,つごうのよい個所だけを引いて自己の主張を補強するといった傾向は,すでにアレクサンドリアのキュリロスにすら見られるものだが,さまざまな異端論争および東西両教会の抗争の際には相手を攻撃する常套手段となった。

 一方,西方最大の教父アウグスティヌスは,体系としての神学の基礎を置き,それが中世に受けつがれてスコラ学の完成に至った。教父時代の終りは,結局,教義面で許容される思弁の範囲が固定したということを意味する。その典型が東方正教会の場合で,最後の教父ダマスクスのヨアンネスの主著《知識の泉》において,神学上のおもな問題が一応すべて解決されたと考えられている。東方でスコラ学が生まれなかったのは,教父の権威があまりにも高く,それを継承発展させるといった発想が生まれなかったからである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教父」の意味・わかりやすい解説

教父
きょうふ
patres ecclesiae; church fathers

「教会の父」の意。信仰上の師弟の関係を父子の関係にたとえた呼称で,古代および中世初期のキリスト教思想家,著作家のうち,その信仰,思想,生活が全教会の模範,規範となるような人々について用いられる名称である。厳密な教会用語としては,(1) 教会史の古代 (2~8世紀頃) に属すること antiquitas ecclesiae,(2) 教義の正統性 doctrina orthodoxa,(3) 生活の聖性 sanctitas vitae,(4) 教会の正式布告に信仰の証言としての引証があること approbatio ecclesiaeの4条件を満たす教会の著述家をいい,この基準にあてはまらない著述家は単に「教会的著述者」 scriptores ecclesiaeといわれる。もともと pater (父,複数 patres) は司教をさす語であったが,アウグスチヌスが司教でないヒエロニムスを正統教理の権威として引用したように,またレランのウィンケンチウスの『備忘録』にみられるように,5世紀頃より広義の教父の概念が確立した。その後さらに教父の定義がせばめられ,近世のカトリック教父学で以上の4条件が定まった。教父の区別には,(1) 時代別 (使徒的教父,護教的教父,思索的教父) ,(2) 使用語 (ギリシア教父,ラテン教父,シリア教父,コプト教父など) による区別 (生国にはよらない) などがあり,思索的教父の時代,すなわちギリシア教父としてはオリゲネスや,ニッサのグレゴリウスに代表されるカッパドキアの3教父,ラテン教父としてはアンブロシウスアウグスチヌスらの輩出した時代が教父時代の最盛期であったといってよい。教父についての研究は教父学と呼ばれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「教父」の意味・わかりやすい解説

教父
きょうふ
church fathers 英語
Kirchenväter ドイツ語

「教会の父」の意。教父とは一般的には古代教会における代表的神学者をさす。ただしカトリック教会では、そのなかでもとくに正統信仰をもち、聖なる生涯を送り、教会によって公認され、古代(2~8世紀)に属する特定の神学者に限定されている。

 教父は、その著作に用いた言語によって「ギリシア教父」と「ラテン教父」に大別される。ギリシア教父は比較的に思弁的であり、プラトニズムの影響下で、教義(三位(さんみ)一体論とキリスト論)の形成に寄与した。ユスティノス、イレナエウス(エイレナイオス)、クレメンス(アレクサンドリアの)、オリゲネス、アタナシウス、バシレイオス、グレゴリオス(ニッサの)、クリソストモス、キリロス(アレクサンドリアの)など。ラテン教父は比較的に実践的で、とりわけ教会の伝統や倫理や職制の形成に貢献した。テルトゥリアヌス、キプリアヌス、ラクタンティウス、アンブロシウス、ヒエロニムス、アウグスティヌス(ギリシア教父の特色をもあわせもつ)、ボエティウスなど。これら教父たちの神学思想大系を「教父神学」または「教父哲学」といい、教父についての研究を「教父学」という。

[荒井 献]

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百科事典マイペディア 「教父」の意味・わかりやすい解説

教父【きょうふ】

キリスト教世界において,その著作が聖書に次ぐ,あるいは同等の権威を有するとされる古代の著作家の称。ラテン語pater,英語Father。うち正統信仰の擁護に寄与し,神学上の貢献が大きく,聖人でもある場合は特に〈教会博士doctores ecclesiae〉と呼ばれる。使徒および新約聖書の記者を除く有力な筆者を〈使徒教父〉,ギリシア語を用いた人々を〈ギリシア教父〉,ラテン語を用いた人々を〈ラテン教父〉と称することもある。ローマ・カトリック教会ではセビリアのイシドルス(636年ころ没)が,東方正教会ではダマスカスのヨアンネス(749年ころ没)が最後の教父。教父の著作・思想の研究にあたるのが教父学patristics(patrology)。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「教父」の解説

教父(きょうふ)
patres ecclesiae[ラテン],church fathers[英]

使徒以後のキリスト教会で,正統的教理を論証し,清浄な生活を送り,教会によって承認される古代の著作家たち。ときに中世の神学者をも含めることもあるが,教父に関する学問である教父学では,ほぼ時代を限定して,東方教会ではダマスクスのヨアンネス(670?~750?),西方教会ではグレゴリウス1世,またはセビリャイシドルス(560?~636)までとするのが通例である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「教父」の解説

教父
きょうふ
patres ecclesitici (ラテン)
church fathers (イギリス)

古代〜中世初期にかけて異端に対して正統のキリスト教を主張する教会著作家
教説が正統であること,生活が清潔であることなどが教会から認められたものの尊称で,その著作は信者に対して『聖書』につぐ権威を有する。アウグスティヌスやエウセビオスらが有名。

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世界大百科事典(旧版)内の教父の言及

【司教】より

…按手礼によって使徒の後継者として立てられた,地方教会の統治者であり,各地に分散しているキリスト者が祭司の民として一致して礼拝を行うために,一同に奉仕する司祭(長老)団の中心人物。地方教会を統括する牧者として神の民を牧し,父である神の配慮を具体化する者として〈教父〉と呼ばれた。第2バチカン公会議は,この司教と司祭の役職を奉仕的祭司職と呼ぶ。…

※「教父」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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