セビリャ大司教,学者,著作家。セビリャのイシドールIsidor da Sevillaともいわれる。カルタヘナ出身の貴族の家に生まれ,兄レアンデルLeanderのもとで教育を受けた後,この兄を継いでセビリャ大司教となった(600)。大司教としては,第4回トレド会議(633)その他の公会議を通じて,西ゴート族およびユダヤ教徒のカトリックへの改宗に尽力し,教育制度の整備に努めて,スペインのカトリック教会の基盤を不動のものにした。また,学者としては,〈当代に比類なき学者,世の終りまで最も優れた学識の士〉という賛辞に違わず,神学,歴史,文学,科学など多方面にわたって多数の書物を著してスペインの学芸を指導したほか,彼の著作は,古代の文物に関する知識の源泉として,中世を通じて西ヨーロッパに強い影響力を及ぼした。主著《語源録または事物の起源Etymologiae sive origines》20巻は,自然,人間,神,国家の諸事象を論じた一種の百科事典で,その記述には,名称,とくにその語源への強い関心がみられる。現代の批判的研究の成果から見れば,不正確な記述や誤った叙述も目立つが,当時の知識や学問の実情を伝える好個の材料である。なお,全西ヨーロッパに流布し,中世教会法の発達に大きな影響力を及ぼした偽イシドルス教会法令集は,このイシドルスの盛名を利用したものである。
執筆者:淵 倫彦
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スペインの聖職者。セビーリャの名家に生まれたが、若くして親に死別。修道士の兄レアンデルLeander(?―599/601)のいた修道院で教育を受けたが、この兄は、東方に旅行しコンスタンティノープルでは後の教皇グレゴリウス1世と知己となるなど、広い知見の持ち主で、セビーリャの司教をも務めた。イシドルスもまた600年ごろ兄の後を継いでこの地の司教となり、西ゴート人支配下のスペインでカトリシズムの拡大、ユダヤ教徒の改宗、学校や教会の建設、教会会議の開催に尽力した。その広い学識は生前からよく知られ、著書はさまざまな知識の宝庫として中世を通じて頻繁に利用されたが、とくに『語源論』Etymologiaeは当時の諸学問についての百科全書的情報を提供している。また『命題集3巻』Sententiarum Libri Tresはキリスト教の教義や実践の手引書であり、『教会職務論』De Ecclesiasticis Officisはスペイン教会の典礼と組織についての貴重な資料となっている。史書には『大年代記』Chronica Majoraと『ゴート、バンダルおよびスエビ諸王の歴史』Historia regibus Gothorum, Vandalorum et Suevorumがあり、同時代のスペインの不可欠の史料となっている。
[今野國雄 2017年11月17日]
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560?~636
聖イシドロともいう。セビリャ大司教(在位600~636)。トレドその他の教会会議を通じて,典礼の整備,教育制度の拡充,ユダヤ人の改宗などに尽力,西ゴート王国のカトリック教会の基盤を確立した。主著に古代的知の結晶とされる『語源誌(起源論)』がある。
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…5世紀になると,それまで細々と伝わっていたギリシア・ローマの科学の伝統を集大成して,いわゆる〈四科quadrivium〉(幾何学,天文学,算術,音楽)の摘要書をつくろうという動きが生じてきた(自由七科)。そのようなものとして,マクロビウス,マルティアヌス・カペラ,カッシオドルス,ボエティウス,イシドルスらの著作が挙げられる。これらの内容は,まだそれほど水準の高いものではないが,中世前期において西欧知識人の基本的な科学的教養を培ったものとして重要である。…
…カッシオドルスは古典研究を神学研究に取り入れて,中世修道院を学問所とする道を開いた。最後の修辞学者イシドルスは,すでに7世紀に入っている。こうして文学史上の古代ローマは7世紀初頭まで細々と続いた。…
※「イシドルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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