文化の動態を把握する概念の一つで、文化触変とも訳されている。文化の変化のうちでも、二文化の接触に起因するもの、すなわち異なった文化との、持続的で直接的な接触によってもたらされた変化をいう。伝播(でんぱ)の研究が、従来、文化の個々の要素のみを問題にしていたのに対し、文化変容の研究はより全体的な視点から、これらの受容と統合の過程を問題にしようとするものである。
文化変容の研究は、白人文化の支配的影響のもとで、急速に変化しつつあった北米インディアンの文化の研究に端を発している。こうした状況はまた、数多くの先住民社会が今日置かれている状況でもあり、今日なお緊急の問題を提供しているのであるが、文化接触一般からみれば、一方から他方への影響のみが問題となる、やや特殊なケースである。文化変容は、その原因となる文化接触のあり方、接触する二文化の内在的な性格などによってさまざまな形をとり、その一般化は容易ではない。たとえば、侵略や征服による接触と、交易による場合とでは大きな違いがあるし、前者の場合でも、接触した集団の規模や技術の発達段階の相違などに応じて異なってくる。またインドのニルギリ地方のトダ、コタ、バダガ、ブルングの各民族間のように、長い接触にもかかわらず文化変容がみられない例もある。
北米インディアンの研究に端を発する文化変容の研究のいま一つの大きいテーマに、文化変容の過程における個人個人の適応の問題がある。西洋文明との接触以降世界各地でみられた土着主義的運動や千年王国運動も、こうした観点から分析されることがある。19世紀末に北米インディアンの間に急速に広まったゴースト・ダンス(幽霊踊り)という一種の陶酔的な新興宗教は、白人が滅びインディアンだけが生き残る世界の出現を信じるものであったが、文化変容に伴う集団的不適応を示すものとされた。こうした単純な見方には批判も多いが、個人的な不適応の問題は、先住民の間でのアルコール中毒の蔓延(まんえん)といった社会問題や、二か国語教育の是非などの政策上の問題とも結び付いて、今日なお応用人類学的研究の重要な課題の一つとなっている。文化変容の研究は、単に理論的な関心からだけではなく、実際的な問題解決への関心からも、多くの人類学者の関心をひく研究となっているのである。
[濱本 満]
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…だから,伝播しやすいと言われる物質文化の要素にしても,生態学的理由,経済的考慮(経費がかかりすぎるなど),既存の価値体系に合うか否か,などの要因によって受容や拒否が決められる。一方の文化から他方の文化への伝播が進行し,後者の文化体系に変化が生じてくる過程は,文化変容(アカルチュレーションacculturation)と呼ばれる。 クローバーが論じたように,伝播のなかに,刺激伝播あるいは着想伝播と呼ばれるものがある。…
…一般に,同化とは支配集団と被支配集団との不均等な文化的相互作用,融合作用の過程を意味する。その点で,異質な文化集団との接触によって,その影響下に引き起こされる〈文化変容〉とは異なる。同化政策は,他国家,他民族への征服にともなって,歴史上さまざまな形で部分的には行われてきたが,典型的なものは近代国民国家による植民地経営を契機とする。…
…外部的要因は,外部文化からの異文化要素の伝播による変化の要因である。 文化変容acculturation外的要因による文化変化の一つで,これは〈独立の文化をになう二つ以上の社会が,長期にわたって直接に接することにより,いずれか一方または両方の文化体系に変化を生ずる現象〉をいう。文化変容は,西欧の植民地であった地域において原住民とヨーロッパ人との直接の接触を通じ,とくに原住民の側に見られた。…
※「文化変容」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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