改訂新版 世界大百科事典 「文学館」の意味・わかりやすい解説
文学館 (ぶんがくかん)
文学関係の各種資料や遺品,旧蔵書などを収蔵・公開するミュージアム。古典関係の文献は早くから大学・県立・市立図書館はじめ,宮内庁書陵部,静嘉堂文庫,尊経閣文庫など全国各地の文庫に収集保存されてきたが,近代文学は関東大震災や戦災,あるいはしばしば発売禁止にあうなどで散逸がはなはだしく,わずかに東大の明治新聞雑誌文庫のほかは徳冨蘆花,島崎藤村,小泉八雲,樋口一葉,石川啄木らの記念文学館がそれぞれゆかりの地にあった程度で,とくにプロレタリア文学関係資料などは惨憺たる状態だった。1967年,文壇・学界の有志240名による日本近代文学館が東京駒場に完工開館したあと,約15年間に札幌市の北海道文学館,小樽市の小樽文学館,花巻市の宮沢賢治記念館と高村光太郎記念館,山形上山(かみのやま)市の斎藤茂吉記念館,金沢市の石川近代文学館,東京の俳句文学館,大宅壮一文庫,吉川英治記念館,横浜市の大仏次郎記念館,静岡長泉町の井上靖文学館,伊豆市湯ヶ島の伊豆近代文学博物館,松山市の子規記念博物館,宮崎県日向市の旧東郷町の若山牧水記念館などが設立され,前橋,四日市,彦根などの市立図書館内に置かれた萩原朔太郎,丹羽文雄,舟橋聖一らの特設文庫のようなものをあわせると,全国に約100の文学館・文庫が設立された。さらに調布市に武者小路実篤文学館,横浜市に神奈川近代文学館,大阪市に国際児童文学館が完工する。近代文学の歴史をつくってきた雑誌が〈幻の雑誌〉などといわれて手にすることさえ困難だったが,こうした努力の積みかさねがあって,貴重資料の復刻・翻刻などが盛んに行われるようになり,文学研究を大幅に促進するのに貢献した。一部にまったくの観光施設にすぎなくなっている個人記念館もあるが,文学館は今後さらに増えそうな傾向がみられる。
執筆者:小田切 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報