文書提出義務(読み)ぶんしょていしゅつぎむ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「文書提出義務」の意味・わかりやすい解説

文書提出義務
ぶんしょていしゅつぎむ

民事訴訟において挙証者が文書証拠調べにおいて利用するために、文書の所持者が裁判所にその文書を提出する義務をいう。旧民事訴訟法では、訴訟相手方や第三者が所持する文書については、原則として提出義務はなく、例外として、引用文書(文書を所持する当事者が訴訟において引用した文書)、権利文書(挙証者が、文書の所持者に対し引渡または閲覧請求権を有する文書)、利益文書(挙証者の利益のために作成された文書)、法律関係文書(挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書)について文書提出義務を認めていた。しかし、公害、環境、医療過誤薬害、製造物責任などのいわゆる現代型訴訟では、証拠が一方当事者に偏在しており、そのことが事案の真相解明を阻む要因となっていた。

 そこで、新民事訴訟法(平成8年法律第109号)では、文書所持者の提出義務を原則として肯定し、旧民事訴訟法における原則と例外を逆転した(民事訴訟法220条)。すなわち、引用文書、権利文書、利益文書、法律関係文書について提出義務を認めるだけではなく、他の文書についても一般的に提出義務を認めた。ただし、公文書、文書の所持者またはその一定の近親者(配偶者等)が刑事訴追・有罪判決を受けるおそれがある事項またはこれらの者の名誉を害すべき事項が記載されている文書、所持者等の犯罪に関する事実が記載されている文書、職業秘密文書(職業秘密に関する事実が記載されている文書)、自己利用文書(もっぱら自ら利用するために作成した文書で部外者に見せることが予定されていないもの)については、提出義務を否定している。これらの除外文書にあたるかどうかは、裁判所は文書をとりあえず提出させ、非公開の審理裁判官が提出義務を判断する(インカメラ手続。民事訴訟法223条3項)。

 なお、公文書の提出義務については、改正案が法制審議会でまとまり、1998年2月国会に提出された。その内容は、公文書も民間文書と同じように提出義務を原則とするが、公務秘密文書(公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの)、自己利用文書(国または地方公共団体が所持する文書であって、公務員が組織的に用いるものを除く)、刑事記録等(刑事事件に係る訴訟に関する書類もしくは少年の保護事件の記録またはこれらの事件において押収されている文書)は提出義務から除外するというものである。

[池尻郁夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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