裁判所が、証人、鑑定人、文書、証拠物など(これらを証拠方法という)を取り調べて、そこから得られる証言、鑑定などの証拠の内容(これらを証拠資料という)に接して、心証を形成するための訴訟行為をいう。
[内田一郎 2018年4月18日]
公判期日における証拠調べをいう。例外として公判期日外の証拠調べをいうこともある。公判期日における証拠調べは、冒頭手続が終わったあとに行われる。証拠調べの初めに、まず検察官が、証拠により証明すべき事実を明らかにする。この際、予断排除の原則の適用がある。裁判所は、次に、被告人または弁護人にも、証拠により証明すべき事実を明らかにすることを許すことができる。前記の冒頭陳述が終わると、まず検察官が証拠の取調べを請求しなければならず、次に、被告人または弁護人は証拠調べを請求することができる。この際、不意打ちを防止するため、証拠調べ請求の事前告知の制度がある。証拠調べの請求は、第1回公判期日前を除いて、公判期日前にもこれをしてよい。被告人の供述が自白である場合には、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられたあとでなければ、その取調べを請求することはできない。さらに、証拠調べの請求をするには、証拠と証明すべき事実との関係(立証趣旨)を具体的に明示して、これをしなければならない。裁判所が証拠調べの請求を却下する決定または許容する決定をするには、検察官および被告人またはその弁護人の意見を聴かなければならない。裁判所は、その意見を聴いて、証拠調べの範囲、順序および方法を定めることができる。この場合、準備手続が活用される。裁判所が必要と認めるときは、職権で証拠調べをすることができる。この場合でも、検察官、被告人または弁護人の意見を聴いて決定をしなければならない。
証拠調べの方式は、証人・鑑定人・通訳人・翻訳人はこれを尋問し、証拠書類はこれを朗読し、証拠物はこれを示し(展示という)、証拠物中書面の意義が証拠となる物の取調べは朗読し、かつ示すことによる。証人尋問は、刑事訴訟法第304条第1項・第2項の規定にかかわらず、交互尋問の方式で行われている。被告人に対して供述を強制することはできないが、その任意の供述は証拠とすることができる。証拠調べに関して検察官、被告人または弁護人は、異議を申し立てることができる。裁判所は、取り調べた証拠が証拠能力のないものであるときは、申立てまたは職権により証拠の排除決定をする。裁判所は、検察官および被告人または弁護人に対し、証拠の証明力(証拠価値)を争うために必要とする適当な機会を与えなければならない。
なお、2004年(平成16)の刑事訴訟法改正により導入された公判前整理手続の決定があったときは、裁判所は、第1回公判期日前の公判前整理手続における証拠整理として、以下の証拠調べ手続を行うことができる。すなわち、証拠調べの請求をさせること、証拠調べの請求があった証拠について、その立証趣旨、尋問事項等を明らかにさせること、証拠調べの請求に関する意見(証拠書類について同意をするかどうかの意見を含む)を確かめること、証拠調べの順序および方法を決めること、および、証拠調べに関する異議の申立てに対して採否の決定をすること、である。
また、2016年の刑事訴訟法改正により、取調べの録音・録画制度が導入され、裁判員裁判の対象事件および検察官の独自捜査事件(検察官が直接告訴・告発等を受け、または自ら認知して捜査を行う事件)について、原則として取調べの全過程の録音・録画が義務づけられた(刑事訴訟法301条の2第4項)。そして、検察官は、被告人または弁護人が被告人の供述の任意性に疑いがあるとして異議を述べたときは、その任意性を立証するため録音・録画の記録媒体の取調べを請求することが義務づけられた(同法301条の2第1項)。
[内田一郎・田口守一 2018年4月18日]
当事者間に争いのある事実の存否について、裁判所が心証を得るために、証拠方法を取り調べる行為をいう。証拠調べは、当事者の証拠の申し出(民事訴訟法180条)によって開始されるのが原則である(弁論主義)。ただし、職権探知主義の支配する訴訟(例、人事訴訟)においては、当事者の申し出を待たず、職権によって証拠調べをすることが認められている(行政事件訴訟法24条など)。また、弁論主義のもとでも、職権調査事項および調査の嘱託(民事訴訟法186条)、当事者尋問(同法207条1項)、検証に際しての鑑定(同法233条)などについては、職権で行うことができる。なお、正規の証拠調べ前に、裁判所があらかじめ証拠調べをして、その結果を確保する手続を証拠保全という(同法234条以下)。
[内田武吉・加藤哲夫]
…裁判官または犯罪捜査にあたる機関が,事実を解明する目的で,物や場所のありさまをみずからの五感によって確かめる活動をいう。裁判官が行う場合には証拠調べの一種となる。同じく証拠調べの一種である証人や書証の取調べなどが,他人の言葉を通じて事実を知ろうとする方法であるのに対し,検証は,裁判官が対象物から直接に情報を感得しようとする点に特色がある。…
…ただし,裁判所が事件の実体にふれることになるので,予断排除の見地から,この協議は第1回公判期日の前には許されない。このほかの準備活動として,公判期日外の証拠調べ(証人尋問,検証など)が挙げられる。すなわち,公判期日において取り調べることのできない証拠は,期日外に取り調べ,その結果を後日あらためて公判廷で取り調べるのである。…
…すなわち,判決の基礎となる事実や知識は,裁判所が単に偶然的主観的に獲得したのでは足りず,事実認定の過程を客観的に公判廷に顕出し,裁判所ばかりでなく,当事者もこれを感得し,その評価または意見を述べる機会を持つようにしたのである。このように,裁判所の事実認定や知識獲得の手がかりとなるものが訴訟における証拠であり,これを収集,認識する手続が証拠調べである。刑事訴訟法は,とくに〈事実の認定は,証拠による〉と明文で規定している(317条)。…
※「証拠調べ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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