精選版 日本国語大辞典 「薬害」の意味・読み・例文・類語
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薬の投与または摂取によっておこった障害をいい、その要因には医薬品そのものの薬理作用(副作用)や催奇形性などの有害作用によるものと、病原微生物や化学物質の混入(汚染)によるものがあり、前者には、医薬品の併用投与による薬物相互作用の結果としての薬理作用の増強によるものもある。一般的に医薬品の副作用によるものが多いが、病原微生物の汚染による血液製剤でのエイズ感染症、B型およびC型肝炎、ヒトの脳を原料とした天然型ヒト成長ホルモン製剤(ソマトロピン)でのプリオンによるクロイツフェルト・ヤコブ病が社会問題となった。
薬害が話題となったのは、サリドマイド事件やキノホルム事件以来のことで、以下、代表的な薬害事件を年代順に述べる。
1956年(昭和31)ペニシリンによるショック死が報告され、皮膚反応テストの実施が通達された。1961年にはサリドマイドの催奇形性が世界的な問題となり、日本では翌1962年に全面回収が行われ、医薬品としての使用が禁止された。1965年にはアンプル入りのかぜ薬によるショック死がおこり、同年キセナラミンによる肝障害が話題となった。1967年にはリン酸クロロキンによる視力障害が報告され、製造販売が中止された。1968年にはクロラムフェニコールによる血液障害が重大な副作用として問題となり、使用が制限された。
1970年になると、キノホルムがスモンの原因であることが判明し、大きな社会問題となった。1971年にはコラルジルによる脂肪肝の発生が報告され、製造が中止された。1975年には小児に多発した大腿(だいたい)四頭筋拘縮症の原因がスルピリンやクロラムフェニコールの筋肉注射によることがわかり、筋注用注射剤による組織障害性が問題となった。1976年にはビスマス塩の大量投与による精神神経障害がオーストラリアとフランスの両国で報告され、ビスマス塩の一般用医薬品への使用が禁止された。1977年にはビグアナイド系経口糖尿病薬による乳酸アシドーシスが報告され、死亡率50~60%といわれた。また同年、アミノピリンの内服により発がん性のニトロソアミンが生成されることが実験的に認められ、一般用医薬品としての使用が禁止された。
1980年代に入ると、薬害エイズ事件、薬害C型肝炎事件が発生した。1984~1985年にかけて、血友病患者の唯一の治療薬である血液凝固第Ⅷ因子および第Ⅸ因子の非加熱製剤の投与による、エイズ感染での死亡例が、日本で初めて報告された。当時は製剤および原料のほとんどをアメリカからの輸入に頼っており、エイズウイルスに汚染された血液が原料となっていたことが原因である。血友病患者のエイズ感染問題は、アメリカではエイズウイルス汚染が確認されるやいなや同製剤の発売を中止し、加熱製剤への移行が進んだにもかかわらず、日本では非加熱製剤の使用が続けられたため被害が拡大し、厚生行政を揺るがす大きな薬害事件となった。
C型肝炎事件は1986年9月から1987年4月にかけて、青森県三沢市の産婦人科医院で、非加熱フィブリノゲン製剤を投与された産婦8名がC型肝炎(当時は非A非B肝炎といった)に感染したとの報告から始まった。このフィブリノゲン製剤はウイルスを不活化するため以前はβ(ベータ)プロピオラクトンを添加していたが、HBsグロブリンを添加する方法に変更されたもので、変更以前はまったく感染は発生していなかった。その後、加熱製剤も出たが、C型肝炎ウイルスの不活性化はなされず被害が増大し、薬害C型肝炎事件として裁判にまで発展した。
1990年代に入るとソリブジン薬害事件がおきた。ソリブジンは抗ウイルス剤で、単純ヘルペス1型、水痘、帯状疱疹(ほうしん)ウイルス、EBウイルスに有効で、帯状疱疹の治療にアシクロビルの20分の1以下の量で有効であることなど期待された薬剤であった。がん患者の帯状疱疹の治療に抗がん剤の5-FUと併用してよく用いられたが、1993年(平成5)9月の発売後、約1か月足らずのうちに重篤な副作用が発生し、死亡例が出たため、11月1日より自主回収された。その間の副作用発現患者23例中で、死亡したのは14名であった。
厚生労働省は医薬品の副作用による事故を未然に防ぐため、製薬企業に対して「市販後調査の基準」を定め、さらに新薬の重篤な副作用は、発売直後によく現われることから「市販直後調査」が義務づけられた。また、製造販売業者、医療機関等薬局開設者、病院、診療所、飼育動物診療施設の開設者、医師、歯科医師、薬剤師、獣医師その他の医薬関係者に対しては「医薬品又は医療機器について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生又は当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生に関する事項を知った場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない」と薬事法で定められた。
医薬品の副作用および病原微生物によって汚染された生物由来製品の投与による感染症の発生等、健康被害を受けたものに対しては、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品副作用被害救済制度」と「生物由来製品感染等被害救済制度」によって救済がなされている。
[幸保文治]
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…さらに臨床試験では,個体による反応のばらつきを無作為に均等化することによって,比較試験が行われる。 このように緻密(ちみつ)な試験が行われるにもかかわらず,薬害による不幸な事件が後を絶たない。そこで副作用とはなにかについて考えてみたい。…
…薬害の一つ。リン酸クロロキンchloroquini phosphasを長期間,大量に服用したときに起こる視力障害。…
※「薬害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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