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薬害 やくがい

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

薬害
やくがい

薬品の生体に及ぼす害。薬物は生体にとって有益な作用を有すると同時に,多かれ少なかれその薬物特有の毒性を有している。薬物を病気の予防,診断,治療に用いたとき,生体にとって有害な作用が現れた場合に,これを薬害反応という。市販薬,医家向け薬剤,いずれの場合も薬害反応は起りうるが,特に医師による投薬により有害反応が引起された場合,医原病もしくは医療原性疾患といわれる。

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百科事典マイペディアの解説

薬害【やくがい】

薬害という言葉は,1970年代には一般に,農薬による農作物への被害をさして用いられ,医薬品による人体への被害には〈薬禍(やっか)〉の語が当てられていた。1960年代の催眠薬サリドマイドによる胎児奇形の発生,整腸薬キノホルムによるスモンの発生以来,1990年代に至っても抗ウイルス剤ソリブジンによる死亡事故など,医薬品による被害が特に日本で続出した。
→関連項目医薬分業治験薬臨床試験

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世界大百科事典 第2版の解説

やくがい【薬害 drug‐induced suffering】

一般的には,医薬品や農薬など薬物による,ヒトも含めた動植物への被害をいうが,通常は狭義に用いて,医薬品(病気の診断,治療,予防に用いる化学物質)による人間の健康被害のことを指す。第2次大戦後の日本では,多くの薬害が発生し社会問題化したことから,こうした一般的な定義をさらに社会的な面からとらえ,〈多数の人々に重大な損害を与える社会的な出来事〉(砂原茂一,1976),さらには〈資本主義的生産様式から発生する医薬品による災害〉(高野哲夫,1972)と規定する試みもなされている。

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大辞林 第三版の解説

やくがい【薬害】

薬剤により、植物体や人畜に有害な作用が及ぶこと。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

薬害
やくがい

薬の投与または摂取によっておこった障害をいい、その要因には医薬品そのものの薬理作用副作用)や催奇形性などの有害作用によるものと、病原微生物や化学物質の混入(汚染)によるものがあり、前者には、医薬品の併用投与による薬物相互作用の結果としての薬理作用の増強によるものもある。一般的に医薬品の副作用によるものが多いが、病原微生物の汚染による血液製剤でのエイズ感染症、B型およびC型肝炎、ヒトの脳を原料とした天然型ヒト成長ホルモン製剤(ソマトロピン)でのプリオンによるクロイツフェルト・ヤコブ病が社会問題となった。
 薬害が話題となったのは、サリドマイド事件やキノホルム事件以来のことで、以下、代表的な薬害事件を年代順に述べる。
 1956年(昭和31)ペニシリンによるショック死が報告され、皮膚反応テストの実施が通達された。1961年にはサリドマイドの催奇形性が世界的な問題となり、日本では翌年(昭和37)に全面回収が行われ、医薬品としての使用が禁止された。1965年にはアンプル入りのかぜ薬によるショック死がおこり、同年キセナラミンによる肝障害が話題となった。1967年にはリン酸クロロキンによる視力障害が報告され、製造販売が中止された。1968年にはクロラムフェニコールによる血液障害が重大な副作用として問題となり、使用が制限された。
 1970年になると、キノホルムがスモンの原因であることが判明し、大きな社会問題となった。1971年にはコラルジルによる脂肪肝の発生が報告され、製造が中止された。1975年には小児に多発した大腿(だいたい)四頭筋拘縮症の原因がスルピリンやクロラムフェニコールの筋肉注射によることがわかり、筋注用注射剤による組織障害性が問題となった。1976年にはビスマス塩の大量投与による精神神経障害がオーストラリアとフランスの両国で報告され、ビスマス塩の一般用医薬品への使用が禁止された。1977年にはビグアナイド系経口糖尿病薬による乳酸アシドーシスが報告され、死亡率50~60%といわれた。また同年、アミノピリンの内服により発癌(はつがん)性のニトロソアミンが生成されることが実験的に認められ、一般用医薬品としての使用が禁止された。
 1980年代に入ると、薬害エイズ事件、薬害C型肝炎事件が発生した。1984~85年にかけて、血友病患者の唯一の治療薬である血液凝固第因子および第因子の非加熱製剤の投与による、エイズ感染での死亡例が、日本で初めて報告された。当時は製剤および原料のほとんどをアメリカからの輸入に頼っており、エイズウイルスに汚染された血液が原料となっていたことが原因である。血友病患者のエイズ感染問題は、アメリカではエイズウイルス汚染が確認されるやいなや同製剤の発売を中止し、加熱製剤への移行が進んだにもかかわらず、日本では非加熱製剤の使用が続けられたため被害が拡大し、厚生行政を揺るがす大きな薬害事件となった。
 C型肝炎事件は1986年9月から1987年4月にかけて、青森県三沢市の産婦人科医院で、非加熱フィブリノーゲン製剤を投与された産婦8名がC型肝炎(当時は非A非B肝炎といった)に感染したとの報告から始まった。このフィブリノーゲン製剤はウイルスを不活化するため以前はβ(ベータ)プロピオラクトンを添加していたが、HBsグロブリンを添加する方法に変更されたもので、変更以前はまったく感染は発生していなかった。その後、加熱製剤も出たが、C型肝炎ウイルスの不活性化はなされず被害が増大し、薬害C型肝炎事件として裁判にまで発展した。
 1990年代に入るとソリブジン薬害事件がおきた。ソリブジンは抗ウイルス剤で、単純ヘルペス1型、水痘、帯状疱疹ウイルス、EBウイルスに有効で、帯状疱疹の治療にアシクロビルの20分の1以下の量で有効であることなど期待された薬剤であった。癌(がん)患者の帯状疱疹の治療に抗癌剤の5-FUと併用してよく用いられたが、1993年(平成5)9月の発売後、約1か月足らずのうちに重篤な副作用が発生し、死亡例が出たため、11月1日より自主回収された。その間の副作用発現患者23例中で、死亡したのは14名であった。
 厚生労働省は医薬品の副作用による事故を未然に防ぐため、製薬企業に対して「市販後調査の基準」を定め、さらに新薬の重篤な副作用は、発売直後によく現われることから「市販直後調査」が義務づけられた。また、製造販売業者、医療機関等薬局開設者、病院、診療所、飼育動物診療施設の開設者、医師、歯科医師、薬剤師、獣医師その他の医薬関係者に対しては「医薬品又は医療機器について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生又は当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生に関する事項を知った場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない」と薬事法で定められた。
 医薬品の副作用および病原微生物によって汚染された生物由来製品の投与による感染症の発生等、健康被害を受けたものに対しては、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品副作用被害救済制度」と「生物由来製品感染等被害救済制度」によって救済がなされている。[幸保文治]

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世界大百科事典内の薬害の言及

【医薬品】より

…さらに臨床試験では,個体による反応のばらつきを無作為に均等化することによって,比較試験が行われる。 このように緻密(ちみつ)な試験が行われるにもかかわらず,薬害による不幸な事件が後を絶たない。そこで副作用とはなにかについて考えてみたい。…

【クロロキン網膜症】より

薬害の一つ。リン酸クロロキンchloroquini phosphasを長期間,大量に服用したときに起こる視力障害。…

※「薬害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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