文理解(読み)ぶんりかい(その他表記)sentence comprehension

最新 心理学事典 「文理解」の解説

ぶんりかい
文理解
sentence comprehension

句点「。」や「.」で区切られた語の並びを文sentenceという。文理解は,コンピュータの処理にたとえるならば,一連の語の並びを入力し,出力としてその意味内容が得られるような,情報処理過程としてとらえることができる。文の意味内容は大きく命題的情報と様相的情報の二つに分けられる(阿部純一,1995)。命題的情報は,述語が描写する行為・出来事と,その行為・出来事への参加者・関与物(「動作主」「対象」など)からなり,ネットワークとして表現できる。一方,様相的情報には「命題内容に対する話者(その文の発話者)の判断や態度視点」,「文に描写されている出来事の完了や進行などの相aspect,話者の聴者への態度」などが含まれる。

 文理解の過程は,統語論的処理,意味論的処理,語用論的処理に分けられる。また,これらの処理に共通する処理の形式として,アルゴリズムヒューリスティックスがある。以下,それぞれについて述べる。

 第1の統語論的処理は統語解析syntactic parsingともよばれ,文を構成する単位(たとえば単語)の群化を行なう処理である。この処理を行なう「装置」をパーサparserとよぶ。統語解析には,文を構成する単位の目録である心内辞書mental lexiconと,群化が可能な構成単位の種類や順序に関する情報からなる統語規則syntactic ruleが必要である。心内辞書と統語規則を用いて,語のまとまり(たとえば,名詞句動詞句,そして主部,述部等)を切り出していく,すなわち文法的分析を行なう過程が統語論的処理である。第2の意味論的処理は,文から命題的情報を得る過程で,第3の語用論的処理は,文脈に照らして話者の意図などを推論する過程である。

 アルゴリズムalgorithmとヒューリスティックスheuristicsは,統語論的処理,意味論的処理,語用論的処理のいずれにおいても見られるが,ここでは統語論的処理について見ていこう。統語解析におけるアルゴリズムは,基本的にボトムアップ処理bottom-up(BU)processingとトップダウン処理top-down(TD)processingの二つに分けられる。BUは,語から始まるデータ駆動型過程である。形態素解析の結果として文構成単位が得られたら辞書と統語規則に基づいて最終的に「文」という単位に達するまで群化の作業を繰り返す過程である。TDは,これとは逆で,入力が「文」であるという仮説から出発する仮説駆動型過程である。一方,ヒューリスティックスは,方略strategyを用いる過程である。方略には戦略などの意味もあるが,文理解でいう方略とは,統計的な頻度情報に基づくパターン化された知識のことをいう。文理解における方略には,たとえば知覚の方略がある。知覚の方略とは,英語で「名詞句(x)-動詞句(y)-名詞句(z)」という並びが出てきたならば,x,y,zの単語の内容を知らずとも「xが(動作主)-yした(行為)-zに対して(被動作者)」というパターンとして知覚する(解釈する)のがよい,という方略である。また,最少付加とよばれる方略もある。これは,文を最も単純な統語構造として解釈しようとする方略である(たとえば「私は太郎を見た……」という文が示されたならば,これを単純な統語構造「私は太郎を見た」として解釈しようとするのはこの方略による。たいていはうまくいくが,ときにはうまくいかない場合もある。「私は太郎を見た花子に手を振った」など)。ところで,自然言語には多義性ambiguityが存在する。多義語や一文全体の多義性の処理は文脈情報を用いて一義化を図り,解析途中の群化の多義性の処理は先読みや後戻りなどのしくみによって決定の先送りや再解析を行なう。

 なお,アルゴリズムとヒューリスティックスは文理解過程の全体構成において並存している可能性がある。前者は,統語解析の結果に基づいて意味論的処理と語用論的処理を行ない,後者は,統語解析の完了前に,方略に基づいて意味論的処理と語用論的処理に進むことを可能にする。 →言語情報処理 →情報処理 →単語認知
〔金子 康朗〕

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