最新 心理学事典 「単語認知」の解説
たんごにんち
単語認知
word recognition
文字が認知されるメカニズムについては,鋳型モデル理論,特徴理論,構造理論などが知られている。鋳型モデル理論template theoryは,心内のデータベースに保存されている鋳型との照合により文字が同定されるというシンプルなモデルである。特徴理論feature theoryは文字を特徴づけるさまざまな要素,たとえば水平の線,垂直の線,開かれた曲線,閉じた曲線,ハネなどの有無により,文字が認識されるというモデルである。二つの文字を比較する場合,共通する特徴が多ければ多いほど文字の弁別は困難になり,たとえば「は」と「ほ」の区別は「は」と「の」の区別よりも困難であることを,特徴理論は定量的に予測することができる。構造理論structural theoryは,全体は要素の和以上の構造をもつというゲシュタルト理論に基づき,形態のまとまりを問題にする。手書きによる崩し文字であっても読み取れることは,構造理論により説明することができる。なお,文字認知は,特徴や全体的な形態といった個別の文字に由来する情報のみならず,その文字が置かれた文脈によっても影響を受ける。たとえば,同じ文字であっても単語の一部として提示される方が,非単語の一部として提示されるよりも速く正確に処理される(単語優位性効果word superiority effect)。
単語認知にはボトムアップ処理bottom-up processing,すなわち単語を構成する個々の文字の処理を踏まえて単語が認識される過程と,トップダウン処理top-down processing,すなわち文や文脈の処理が特定の単語の処理を促進するという過程の両方がかかわっていると考えられている。ボトムアップに関しては,文字が一つずつ処理されていくという系列処理serial processingと,同時に並行して行なわれるとする並行処理parallel processingがあるが,現在は並行処理が優位である。
単語認知のメカニズムについては,1960年代に開発されたモートンMorton,J.によるロゴジェンモデルlogogen model(ロゴジェンは合成語で,logoはギリシア語で単語,genusはラテン語で生まれるを意味する)が有名であり,後の研究にも影響を及ぼした。ロゴジェンとは,貯蔵されている語彙表象のシステムであり,入力された感覚情報がその閾値を超えるか否かにより,単語検出を行なう装置である。このモデルは,オンラインで行なわれる読み,または聞きとりにおける単語認知のメカニズムを問題にしており,個々のロゴジェンは,それが受け入れることのできる情報と,それによって産出される反応(単語)によって定義される。受け入れることができる情報とは,言語刺激に由来する音韻的属性と視覚的属性,および文脈に由来する意味的属性であり,これらの情報の数が閾値を超えたならば,可能な反応(単語)が出力バッファに送られる。この可能な反応は,実際の反応として出力されるか,リハーサルループによって再度ロゴジェンに送られる。このモデルは,高頻度の単語は認識されやすいという頻度効果,刺激単語の集合が小さいほど単語は再認しやすいという効果,刺激提示の前に文脈を提示すると単語の認識が促進されるという文脈効果,短時間で単語を繰り返し提示すると処理が促進されるという効果などを説明できるとされる。ロゴジェンモデルのバリエーションとして,マクレランドMcClelland,J.L.とルメルハートRumelhart,D.E.による相互活性化モデルinteractive activation modelやパープPaap,K.R.らによる活性化-検証モデルactivation-verification modelがある。前者では,単語に含まれるすべての文字の処理が並行して行なわれ,それによって抑制ないし促進的な処理が行なわれる。後者では,潜在的な単語認識の後,トップダウン処理による顕在的な処理(検証)が行なわれる。 →言語情報処理 →文理解
〔仲 真紀子〕
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