日本大百科全書(ニッポニカ) 「日本的雇用」の意味・わかりやすい解説
日本的雇用
にほんてきこよう
終身雇用、年功序列、企業別組合という三つの特徴をもつ日本の雇用制度。これらの特徴は雇用システムの三種の神器(じんぎ)ともよばれる。戦後日本経済の高度成長を雇用面から支えたが、企業優先の制度が人々の暮らしのゆとりを奪い制約を与えたとして、1990年代から雇用の流動化や成果主義の必要性が唱えられるようになった。
日本の伝統的な文化に根づく特殊な雇用慣行との見方もあったが、1972年(昭和47)に経済協力開発機構(OECD)が対日労働報告書で三つの特徴について分析。低賃金の未熟練者を長期安定的に技能訓練することで、労働生産性を高め、ライフスタイルにあわせて賃金をあげる普遍的システムとして世界的に知られるようになった。経済学的には、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学教授ゲーリー・S・ベッカーが1964年に、教育・訓練を受けるほど労働生産性は向上し賃金も増大するという『人的資本』Human Capitalを発表し、日本的雇用の年功賃金や終身雇用の合理性を学問的に説明した。
1992年(平成4)に、国民生活審議会(内閣総理大臣の諮問機関)が企業優先の日本的雇用慣行を見直し、個人の生活を重視するため弾力的な雇用システムに転換するよう提言した。また、日本的雇用を可能にしてきた社会構造にも変化が見られる。日本の人口のピラミッド型構造が崩れ、少子高齢化が進展しており、低賃金の若年労働力を毎年大量に供給できない。これに加えて、自己実現を求めて転職する若年層の増加、雇用の流動化を促す派遣労働法制の整備、さらにバブル経済崩壊後、企業競争力を高めるため、年俸制など成果型賃金を採用する企業の増加により、労働組合の組織率低下もあって、日本的雇用は徐々に形骸(けいがい)化が進んでいる。
一方、フリーターとよばれる非正規雇用者、ニートや失業者の大量発生が社会問題化しているばかりでなく、2008年の世界同時不況では派遣労働者の契約解除問題も表面化し、日本的雇用のよさを再認識する機運も出ている。
[編集部]