勤続年数、学歴、年齢などの属人的要素を重点に組み立てられた賃金。年功序列型賃金あるいは年功給ともいう。勤続年数、年齢の増大に応じて賃金が上昇するところに基本的な特徴があるが、これらの要素と賃金上昇とが一律の相互関係にあるわけではなく、学歴別、男女別、職種別による格差、人事考課による個人差をうちに含んでいる。年功昇進、退職金制度などとともにいわゆる年功制度の柱をなし、わが国特有の雇用慣行である終身雇用制を支える役割を担ってきた。
[横山寿一]
年功賃金は、明治40年代から登場し始め、第一次世界大戦後、独占資本主義への移行とともに大企業を中心に本格的な確立をみた。その成立背景には、技術進歩に対応した新しい型の熟練の出現とそれを担う熟練工の不足が生じてきたこと、それに対して大企業が、企業内で仕事の経験を積ませながら養成していく政策を採用したこと、しかも、農村から大量に供給される若年の不熟練労働力を低賃金で雇い入れ、子飼い方式で養成する形がとられたこと、そして、長期にわたって雇用関係を維持するために、勤続奨励など労働者を企業内につなぎ止めておく措置がとられたこと、などがあった。このように年功賃金は、当初より、熟練の年功的形成、年功的昇進、年功的職場秩序の形成と一体のものとして形成・確立された。第二次世界大戦期には、年功を中心とした最低生活給に諸手当を組み合わせるなど、一定の修正が施された。こうした修正は、戦後の電産型賃金体系(日本電気産業労働組合が獲得した賃金体系)の普及過程でさらに進み、生活給体系としての性格をいっそう強めていった。しかしその後、職務給、職能給の導入が図られていくなかで、属人的要素の比重は低下し、仕事給体系との妥協的な形態へ変化を遂げつつ今日に至っている。
[横山寿一]
勤続年数、年齢に応じて昇給する仕組みは、労働者を企業内に引き止め、企業意識を醸成するとともに、労働者の企業ごとの分断と労働組合の企業内化を強める方向に作用する。また、昇給を根拠に若年労働者の賃金が低位に押しとどめられたうえで、昇給にもさまざまな格差が持ち込まれていることから、定期昇給制度をとりながらも賃金費用が総額として低く抑えられる仕組みとなっており、低賃金体系としての役割をもっている。他方、年功賃金のもとでは、雇用の長期化が前提とされるため、景気変動への対応に一定の制約が生じる。そこで、長期雇用の本工とは別に、臨時工、社外工などの不安定労働者を活用して雇用調整を行う体制がとられてきた。こうして、終身雇用制と結び付いた年功賃金のもとでは、その外部に、逆に短期的な不安定な雇用がつくりだされ、雇用の階層構造をもたらす結果となっている。
[横山寿一]
近年、低成長への移行に加えて、高齢化、ME(マイクロエレクトロニクス)技術革新が進み、年功賃金も新たな局面を迎えている。高齢化は、定年延長を促進したが、各企業は、賃金費用の増大を避けるために、一定の勤続年数、年齢に達した段階で賃金上昇率を低下あるいはストップさせるなど、従来の基準賃金曲線を修正してきている。また、選択定年制、早期退職奨励制度などを実施し、終身雇用自体にも修正を加え始めている。この傾向は、ME技術革新によっていっそう拍車がかけられてきている。一般に、技術革新は、従来の熟練を解体させ、新たな熟練を登場させることによって、勤続年数と技能との相互関係を崩す。職務給・職能給の導入もそのことを背景としているが、ME技術革新は、こうした変化をより広範囲にわたって引き起こし、職務・能力にウェイトを置いた能力主義的管理への移行を促進する。そして、技術革新への対応能力をもつ若年労働者の比重が高まり、逆に、それまで技能修得のうえで上位にあった中高年労働者は、技術革新へ対応しきれない層を中心に余剰人員化される。
それに伴って、勤続年数・年齢と賃金との相互関係にも変化が生じ、かならずしも一義的なものではなくなる。加えて、能力主義管理は、当初から年功賃金のうちに含まれていた職種別格差、人事考課による個人差をいっそう拡大するから、賃金における年功的要素の比重は低下せざるをえない。
しかし、賃金の能力主義化は年功賃金を消滅させたわけではなく、実際には両者が併存するかたちをとった。その背景として年功賃金が、学歴労働者の初任給を低位に押しとどめ、学歴・性などによる格差を利用しうる限りでは、依然として低賃金体制として資本にとっても合理性をもっていること、年功と賃金との矛盾も中高年の企業内流動化によって緩和しうること、企業帰属意識を維持させ勤労意欲(モラール)やモラルの低下を食い止めるうえでも、昇給期待感を抱きうる経済的基礎が必要であること、などがあげられる。だが、バブル崩壊後の日本経済の長期停滞を背景に始まった構造改革論議のなかで、従来の日本的システム自体の転換が求められてきており、年功賃金をはじめ年功制度全体が本格的な見直しの段階に入りつつある。仕事の実績や能力に応じて支払う職能給の一層の拡大、業績査定と一体となった年俸制の導入などはその具体的な現れである。
[横山寿一]
『社会政策学会編『現代日本の賃金問題』(1982・御茶の水書房)』▽『野村正實著『終身雇用』(1994・岩波書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本では企業別組合が一般的であるが,こうした雇用慣行を土台にしなければ,かかる形は成立しえず,当然産業別組合が支配的な形態となっていたであろう。(2)年功賃金も大きな特色で,労働者の属性にリンクして賃金を決める属人給が一般的で,それも年齢・勤続等による格差が大きく,仕事の量や質への配慮が相対的に少なかった(年功的労使関係)。これを最もよく表すのが定期昇給制度で,技能も職務も変わらないのに年々賃金が上がることなど,外国ではなかなか理解されがたい。…
…もし従業員が,原則として学校卒業時に定期採用されるとすれば,基本給は初任給から始まり,その後,年齢,勤続年数,経験年数とともに定期昇給,年功的昇進によって,個人により差はあるが,上昇することになる。これは年功賃金といわれる。 さらに,日本の企業では,従業員が退職する場合,懲戒解雇,自己都合退職,会社都合退職,定年退職など退職理由によって支給率に違いがあるが,退職一時金が支払われる制度がある。…
※「年功賃金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新