野間宏(1915-91)の中編小説。1946年《黄蜂》に断続的に連載。特にブリューゲルの絵をめぐる象徴詩風の長い冒頭や全体の文章の感覚,日本の近代文学の自然主義的性格と無縁な内容が,野間をこの一作で戦後文学の担い手とした。滝川事件(1933)後の思想弾圧と大陸侵略の進む時代,主人公深見進介は京大内の左翼運動に深い関心をもつ一方で,彼の抱く革命思想を恐れ離反せんとする恋人の肉体への強い恋着も断てないでいる。彼はそうした我執のにおいのする自己の完成をも大きな問題と考えるゆえに運動に全的には同調できない。この深見の苦悩は戦後の人々をとらえた個と全体の相克の問題に通ずるとして注目された。
執筆者:兵藤 正之助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
野間宏(ひろし)の短編小説。1946年(昭和21)4、8、10月号の『黄蜂(きばち)』に発表。翌年、真善美社の「アプレゲール・クレアトリス叢書(そうしょ)」第1回として刊行された。官憲の弾圧によって左翼革命運動がほとんど壊滅的状況にあった昭和10年代を背景とする。芸術に志す学生深見進介(しんすけ)は、軍国主義に対する絶望的な抵抗に命を賭(か)けていこうとする活動仲間の決意を「仕方のない正しさ」としながらも、自らはその正しさを真の正しさとするために自己保存と我執の臭(にお)いのする道を選択し、仲間たちと訣別(けつべつ)する。その後、仲間たちは次々と獄死する。戦時下の悲惨な青春をブリューゲルの絵を軸に描き、戦後の出発点を示した第一次戦後派の代表作。
[紅野謙介]
『『暗い絵』(新潮文庫・旺文社文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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