有機エレクトロルミネセンス用色素(読み)ゆうきえれくとろるみねせんすようしきそ(英語表記)organic dyes for electroluminescence

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

有機エレクトロルミネセンス用色素
ゆうきえれくとろるみねせんすようしきそ
organic dyes for electroluminescence

有機エレクトロルミネセンス有機EL、有機電界発光)に用いられる色素。有機ELという呼び名は、日本では定着しているが、諸外国ではOLED(organic light emitting diode)とよばれる。有機ELも、発光ダイオード(LED:light emitting diode)も、正孔(ホール)と電子の再結合のエネルギーを物質が受け取って発光する現象であり、これらの原理は同一とみなせるためである。有機蛍光物質の場合、この再結合のエネルギーは、通常のフォトルミネセンスと同じ発光スペクトルを与える。光による励起では、一重項(電子のスピンがすべて反平行な対(つい)をなしている配置)の基底状態からは、一重項励起状態が生成する。三重項励起状態のほうが安定であるが、異なる多重度間の遷移禁制であるためである。しかし、前記の再結合エネルギーでできる励起状態は、理論上、一重項と三重項の比が1対3になる。三重項状態は3個の状態が縮重(ここでは、量子力学においてエネルギーなどの固有値が同じ状態が二つ以上あることをさす。縮退ともいう)しており、一重項の3倍生成する。

 素子から発生する光子数を電流から算出した電子数で割って得た数値を外部量子効率という。素子内部で発生した光を外部に取り出せる効率は0.2程度である。ほかのいくつかの減衰要因がない理想的な場合の外部量子効率の理論値は、一重項からの発光(蛍光)のみを利用する場合で0.05、三重項からの発光(リン光)も利用する場合で0.2ということになる。発光材料としては、クマリン、ルブレン等の低分子化合物のほか、高分子材料も用いられる。金属錯体は外部量子効率の高い素子を作製しうるものが多い。のAlq3トリス(8-キノリノラト-κN1O8)アルミニウム:tris(8-quinolinolato-κN1O8)aluminium)は蛍光利用、Ir(ppy)3(トリス[2-(2-ピリジニル-κN)フェニルC]-イリジウム:tris[2-(2-pyridinyl-κN)phenyl-κC]-iridium)はリン光利用の代表的な発光材料である。後者ではイリジウムの重原子効果により、一重項から三重項への項間交差(系間交差)が効率よく起こり、また、本来は禁制であるリン光発光も常温で起こる。

 有機ELを用いたディスプレーは発光部の厚さが1マイクロメートル以下と薄い液晶ディスプレーは液晶による制御部だけで約5マイクロメートルの厚さをもつため視野角が狭いが、有機ELでは視野角が広くなる。応答も液晶に比べて速やかである。有機ELディスプレーは素子構造が液晶より単純で薄型化、軽量化も図れるため、プラスチックの下敷きのようなフレキシブルなディスプレーも作製できる。

[時田澄男]

『城戸淳二監修『有機EL材料とディスプレイ』(2001・シーエムシー出版)』『時田澄男著「有機エレクトロルミネッセンス」(杉森彰・時田澄男著『光化学――光反応から光機能性まで』所収・2012・裳華房)』『H. Uoyama, K. Goushi, K, Shizu, H. Nomura, C. AdachiHighly efficient organic light-emitting diodes from delayed fluorescence(“Nature Vol. 492”, pp. 234~238, 2012, Macmillan Publishers, London)』


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