赤、緑、青、黄、白などの蛍光を発する種々な有機材料の膜を透明な陽極と陰極基板で挟んだ構造で、電極間の電圧により自ら発光するデバイス。ELとは、電気的な冷光の意のエレクトロルミネセンスの略。有機EL素子の画面は鮮やかで厚さは数ミリメートル、柔軟なプラスチックの基板でも実現できるとして注目されている。
有機ELの発光は電圧励起(れいき)による無機ELとは異なり、注入電流での電流励起によるもので、発光ダイオードに似て陽極側から注入された正孔(せいこう)(半導体内で正の荷電粒子としてふるまう電子の欠けた状態)と陰極側から注入された電子とが発光膜の中で再結合することにより得られる。素子の構造は透明基板(ガラスなど)の上に陽極としての透明電極を重ね、その上に数百ナノ(10億分の1)メートル厚の複数層の有機発光材料を、さらに陰極板(金属など)を重ねたもので、光は透明基板を通して外部に放射される。赤・緑・青(RGB)画素に応じたEL素子またはカラーフィルターをつけた白色EL素子に輝度制御用の電気信号を加えれば、カラー映像が得られる。
画像の作成にはマトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々のEL素子を直接駆動する単純マトリックス型と各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型がある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるので文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレー用に製品化が進められている。
電圧を加えてから有機EL素子の発光までの応答速度は液晶ディスプレーより1桁(けた)以上速く動画向きで、視野角依存性はほとんどなく、コントラスト比は大きく、バックライト不要の自発光のため液晶ディスプレーより1桁薄くできる。しかし、現在のところ輝度半減寿命が6万時間のブラウン管(CRT)に比べ5000~1万時間と短く、液晶より消費電力は大きめで、輝度は大型TVには不足するという。
エレクトロルミネセンス(EL)は、1936年にフランスのデトリオG. Destriauが発明した当初は無機材料による発光を利用したものをさしていた。無機ELが門標や計器盤・装飾に実用化された1950年代に、有機物質に電流を流すと発光することはすでに認められたが、駆動電圧は数千ボルトと高く実用化には至らなかった。
有機ELは、1980年代以降の100ナノメートル以下の有機薄膜の開発などにより表示デバイスとしての研究が始まった。1987年アメリカのイーストマン・コダック社の電荷輸送層導入による機能分離構造の発明により発光効率が向上し、1997年(平成9)には東北パイオニア社によりカーオーディオの単色ディスプレー用に搭載・実用化された。その後、携帯電話の背面ディスプレー、情報端末(PDA)用の3.8インチ、デジカメ用のフルカラー2.16インチが商品化され、2007年末には11インチ3ミリメートル厚パネルのカラーテレビが発売される。有機ELパネルは2005年にすでに21インチのものが試作され、プラスチックフィルム基板による照明・広告用シートやペーパーテレビヘの実用化も進められている。
[岩田倫典]
『吉野勝美著『有機ELのはなし』(2003・日刊工業新聞社)』▽『城戸淳二著『有機ELのすべて』(2003・日本実業出版社)』▽『時任静士・安達千波矢・村田英幸著『有機ELディスプレイ』(2004・オーム社)』▽『シーエムシー出版編・刊『有機EL素子の開発と構成材料――開発動向と特許展開』(2006)』▽『河村正行著『よくわかる新有機ELディスプレイ――テレビを変える究極の高画質ディスプレイ』(2007・電波新聞社)』
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