有限責任無限責任(読み)ゆうげんせきにんむげんせきにん

改訂新版 世界大百科事典 「有限責任無限責任」の意味・わかりやすい解説

有限責任・無限責任 (ゆうげんせきにんむげんせきにん)

債務者の全財産が債務の引当て(担保)となっている場合を無限責任,債務の引当てとなるものが,債務者の財産中のある物または一定額に限られる場合を有限責任という。債務者の責任は無限責任が原則であり,有限責任はとくに法律が認めた場合に限られている。後者には次の2種がある。(1)物的有限責任 責任が債務者の財産中の特定のものに限定される場合をいい,債務者が特定物のみをもって責任を負う場合(例えば,商法607条,質屋営業法20条2項等)と特定財産のみをもって責任を負う場合(例えば,民法922条,信託法19条等)とがある。これらの財産が債務額より不足のときにも,債権者は他の財産に対して強制執行することはできない。(2)人的有限責任 債務者の財産が,債務の一定額を限度として引当てとなっている場合をいい,例としては,株式会社の株主がその有する株式の引受価額を限度として責任を負うこと(商法200条),合資会社有限責任社員や有限会社の社員が出資額を限度として責任を負うにすぎないこと(商法157条,有限会社法17条)のほか,書留郵便物をなくしたりしたときの国の責任(郵便法68条),などがあげられる。この場合も債権者は強制執行によってそれ以上の弁済を受けることはできない。

 上記のように法律がとくに有限責任を定めた場合以外は,債務者は債務の履行につき原則としてその有する全財産をもって責任を負わなければならない無限責任を負担する。したがって債権者は,債権全額の満足を得るまで債務者の財産のいかなる部分に対しても無制限に強制執行を行うことができる。ただこの場合でも別の法規定により無限責任を免れることがありうる(例えば,破産法上の免責により,破産者が一般的に既存の債務について債権者からの追及を免れる場合,破産法366条ノ2~366条ノ20)。なお,会社の債務について,一定の条件の下に会社債権者に対して直接に連帯・無限の責任を負う社員の制度を設けている場合もある。合名会社の社員および合資会社の無限責任社員がこれであって,無限責任社員は,会社財産をもって債務を完済できないとき,または会社財産に対する強制執行が効を奏さないときには,その個人財産をもって責任を負わなければならない(商法80,146,147条)。自称無限責任社員の責任も同様である(159条)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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