三方を海に囲まれ,大陸と地続きの朝鮮半島で発達した朝鮮料理は,精進料理の流れをくんで生の材料を多用し,箸(はし)で食べる日本料理や,一般に干した材料を多用し,脂を用いて加熱して食べる中国料理に対し,双方との共通性を有しながらも,箸と匙(さじ)で食べる料理として独自に発達した。また調味料や香辛料の用い方にも特色がある。食べ物に関しては中国と同様に医食同源の思想があり,薬飯,薬酒,薬念(調味料,薬味),薬果,薬水など飲食物に薬の字を用いたものも多い。食の文化という点では朝鮮と日本は古くからかかわりがあり,釜,鍋,甑(こしき)をはじめとする台所用具や食べ物の呼称に朝鮮語と対応するものが少なくない。食器は金属製(鍮器か,最近ではステンレス)がほとんどで,陶器もそれについで用いられ,概して大型である。普通,家庭での食事では米飯にスープ,キムチが必ずつく。形式としてメニューが豊かになるにつれ,おかずの楪(チヨプ)(皿)数が奇数の単位で増す。三楪飯床(サムチヨプパンサン)を例にとると,ご飯,スープ,キムチ以外にナムル(野菜のあえ物)の生菜(センチエ)(生野菜),熟菜(スクチエ)(お浸し)各一皿と,クイ(魚,肉などの焼物)かチョリム(煮つけ)のどちらか一皿の計三皿で,これに調味料がつく。以後皿数が増すごとに,〈朝鮮料理の副食〉に示すような鍋物,煎(ジヨン),脯(ポ),膾(フエ)などが加えられる。
このような朝鮮料理の組合せが確立したのは高麗時代の後期とみられる。しかし現在のような朝鮮料理は,李朝500年の都ソウルの王家の食生活が基本になって洗練された宮廷料理的なものと,各地方の特産物を材料にしてその地方に古くから伝わる調理法からなる郷土料理の変遷したものの双方で成り立っている。穀物や水産物とともに畜肉料理が豊かなのは,地続きの大陸の食生活の影響である。三国時代以前にもあった肉食は,仏教の伝来,普及によって統一新羅時代から高麗中期にかけて一時的には制限をうけ,食生活から影をひそめた。しかし高麗時代に北方の肉食民族である契丹の侵入,100年を超える元による支配の中で肉食は広く普及する。以後,肉料理は連綿とひきつがれ,今日のようなバラエティに富んだ料理がつくられるにいたった。
李朝時代の科学,文化の発展は,食材料の品種改良,調理法の発達へとつながり,食生活文化は向上する。今日の各種料理メニューの多くはこの時代のものとみてよい。一方ではこのころから強く打ち出された崇儒排仏政策によって,高麗時代に仏教とともに栄えた茶道が衰退を余儀なくされた。また李朝後期の17~18世紀ころには,トマト,カボチャ,エンドウ,トウモロコシ,ジャガイモ,トウガラシなどが海外から新しく流入してくる。キムチなど朝鮮料理の辛くなるのはこのころからのことである。
米飯が主食としてはもっとも中心であり,最高のものとされたが,麦,粟,豆類などの雑穀をまぜた混ぜ飯もよく食される。秋夕(中秋節)や正月などの名節,還暦祝などの祝事の席に用いられる薬飯(ヤクパプ)はもち米にナツメ,栗,松の実,クルミ,はちみつ,ゴマ油などを炊きこんだものである。粥(チュック)も,単なる病人食というのではなく,魚肉,野菜類などを加えるものが多い。麵は中間食や口なおしとして好まれ,日本でも知られる冷麵のほか,温麵,スープなしで具と混ぜて皿にもる皿麵(ビビン麵)などがある。めでたいときに食する餅(トック)も,もち米,うるち米の両方を用い,つき餅,蒸し餅と種類が多く,日本などよりも多くの場面で食される。饅頭(マンドゥ)は中国から伝わったものであるが,広く食される。餡には魚肉,野菜,キノコ類が多く使われ,肉汁に入れてスープとともに食すのが一般的である。
材料そのものは日本と共通のものが多いが,調理法,調味法には特色がみられる。日本でよく知られている焼肉やキムチのほかに別欄に示すように多様な料理がある。調味法は,みそ,しょうゆとともに,ゴマ油などの植物性油があらゆる調理にとり入れられ,これにトウガラシ,ニンニク,コショウ,ショウガなどの香辛料がよく合わせられる。こうした料理の特徴は,大陸性の風土によることも大きいが,膳に一度に並べて食べる平面展開膳方式や,食事に必ず匙が用いられることにもよっている。冷めても固まらない植物油の多用や,スープ,煮汁,漬物汁なども匙で食べるので,それに見合うような副食料理へと料理内容が適合し発展してきたといえる。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
朝鮮半島に伝わる料理の総称。主食類の粒食と粉食、副食類のスープ、漬物、各種食品材料、調味料などの組合せのパターンが確立したのは、高麗(こうらい)時代後期から李朝(りちょう)時代の初めにかけてのころとされる。今日のような内容の朝鮮料理は、李朝時代(15~20世紀)500年間の都であったソウルの王家や両班(ヤンバン)(貴族)の食生活や風俗が基本となった宮廷料理的なものと、各地方の特色ある郷土料理的なもののうえに成り立っている。古代からあった肉食は仏教全盛とともに6世紀ごろから制限され食生活から影を潜めるが、11~14世紀にかけての北方の肉食民族との接触交流、とりわけ元(げん)による100年を超える支配のなかで肉食は広く定着し、一般化して、今日のバラエティーに富んだ肉料理につながっている。李朝中期ごろから生活文化は向上し、各種料理は豪華、多様化するが、このころから強くなった崇儒排仏政策によって、高麗時代には隆盛をみせた茶道(さどう)は衰える。このころ南方から多くの食品が流入したが、そのうちトウガラシは17世紀初めごろから知られだしたもので、一部の料理が辛くなるのは18世紀過ぎからである。食べ物に対しては薬食同源の思想があり、薬飯(ヤッパプ)、薬酒(ヤッチュ)、薬念(ヤンニョム)(薬味)、薬果(ヤックワ)、薬水(ヤッス)などと「薬」の字が多くみられる。
主食のパプ(飯)は米のほかに雑穀類がよく混ぜられ、チュック(粥(かゆ))は米、雑穀類に魚、肉、野菜、種実、山菜、牛乳などをも用いる。クッス(麺(めん))も好まれ、穀類、緑豆の粉はもちろん、ジャガイモの粉なども混ぜて製麺し、温麺(オンミョン)、冷麺(ネンミョン)、皿麺などにする。また朝鮮料理ではトック(餅(もち))の種類が多く、糯米(もちごめ)での搗(つ)き餅(もち)、糯米や粳米(うるちまい)を粉にしてから蒸す餅、粉を酒で練って膨らませる蒸餅(チュンピョン)などがある。小麦粉でつくられるまんじゅう類もよく食べられ、餡(あん)には肉や野菜類が多い。
飯饌(バンチャン)(副食)は、材料そのものは日本のそれとたいして変わらないが、調理法、調味法に特色がみられ、種類も多い。
おもなものをあげると、クック、湯(タン)はスープ類のことで食事にはかならずつき、具が多く、さじで食べる。煎骨(チョンゴル)、チゲ、鳥雉(チョチ)とよばれる鍋物(なべもの)は、クックより汁が少なく寄せ鍋風で、汁もさじで味わう。家庭的なテンジャン(みそ)チゲ、高級な神仙炉(シンソンロ)がその例である。膾(フェ)は刺身類のことで、これはトウガラシ、コチュジャンを酢みそなどに溶いたたれをつけるか、和(あ)えるかして食べる。なまの材料に熱を通して用いる熱膾(スッケ)もある。チムは蒸し物で、魚や肉を味つけして煮くずれしない程度に煮るか蒸す。サムは包み物で、チシャ(サニーレタスと同種)などの生野菜に飯をのせ、おかずや調味料とともに包んで食べる特色ある家庭料理である。ナムルは野菜の和え物で、なまの生菜(センチェ)にはトラジ(キキョウの根)、タンポポなど山菜もよく使われ、熱を通した熟菜(スッチェ)にはダイズのもやしやゼンマイなどが用いられる。クイは直火(じかび)で魚肉類を焼くもので、焼肉料理が代表的。炙(ジョッ)は肉や野菜を切りそろえて串(くし)焼きにして、冠婚葬祭などに用いられる料理。煎(ジョン)は魚、肉、野菜などの薄切りを溶いた卵黄を衣(ころも)にして油で焼いた料理で、ポックムは炒(いた)め物、ティギムは揚げ物のことをいう。チョリムは魚、野菜をあわせてしょうゆで煮つめたもの。魚や肉の干物は脯(ポ)とよび、するめはその例である。キムチは野菜類の漬物で、食事にはスープとともにかならずつく。またチャンアチはしょうゆ漬けのことで、ニンニク、ナスがよく用いられ、ジョッカル(塩辛)も種類が多い。調味料ではしょうゆ、みそとともにごま油などの植物油が広く用いられ、香辛料はコショウ、トウガラシ、ニンニク、ショウガがよく用いられる。
食事はさじと箸(はし)のセットでする。飯、スープ、漬物の汁はかならずさじで食べる。食器は金属の真鍮(しんちゅう)器か、陶器がほとんどで、概して大形である。朝鮮料理は辛いものばかりだと受け止められがちだが、実は辛くない料理のほうが多い。朝鮮半島全体としてトウガラシの使用量も一様ではなく、南部、東部地方に比べて、北部、西部のほうが少ない。近年、食生活が多様化し、外来食器、外来料理の影響で朝鮮料理にもかなりの変化がみられる。
[鄭 大 聲]
『鄭大聲著『朝鮮の食べもの』(1984・築地書館)』▽『鄭大聲著『朝鮮食物誌』(1979・柴田書店)』▽『鄭大聲・全鎮植著『朝鮮料理全集』(1986・柴田書店)』
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