木田元(読み)キダゲン

デジタル大辞泉 「木田元」の意味・読み・例文・類語

きだ‐げん【木田元】

[1928~2014]哲学者山形の生まれ。中央大教授。ハイデッガー研究の第一人者として知られるほか、メルロ=ポンティの翻訳を数多く手がけた。著「現象学」「哲学反哲学」「闇屋になりそこねた哲学者」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「木田元」の意味・わかりやすい解説

木田元
きだげん
(1928―2014)

哲学者。山形県生まれ。父は元新庄市長木田清(1900―1993)。海軍兵学校在学中に第二次世界大戦終結を迎える。終戦直後の混乱のなか闇屋までした異色の哲学者である。山形県立農林専門学校(現、山形大学農学部)在学時に、ドストエフスキーキルケゴールを読んで哲学に目覚めた。ハイデッガーの主著『存在と時間』を研究したくて、1950年(昭和25)に東北大学文学部哲学科に入学。1953年に卒業して同大学院に進む。1958年同大学院を修了すると同時に、東北大学文学部助手に就任した。1960年に中央大学文学部専任講師、1963年助教授を経て、1972年に同教授に就任した。1999年(平成11)に同大学を定年退職し同名誉教授となる。

 専門は現代哲学。とくに現象学の研究者として知られる。1970年に著した『現象学』は、その平明達意の語りによって現象学の魅力を紹介し、1970年代の日本における現象学ブームのきっかけをつくった。現象学のなかでも彼が最初に取り組んだのは、メルロ・ポンティの哲学である。1976年から6年間にわたって雑誌『現代思想』に連載した「メルロポンティの世界」は、1984年に大著『メルロ=ポンティの思想』にまとめられたが、本書は今日では、日本におけるメルロ・ポンティ研究の古典とされている。それと並行して、メルロ・ポンティの著作のほとんどを翻訳しているが、この精確で読みやすい邦訳は、「哲学書の翻訳は難解」という常識を変えた。

 1990年代に入ると、ハイデッガー哲学の研究に本格的に乗り出した。その研究成果は、後期メルロ・ポンティの「反哲学」という概念を手掛りニーチェ、ハイデッガーを「反哲学」の系譜で読み解いた『哲学と反哲学』(1990)、本格的なハイデッガー哲学の研究書『ハイデガーの思想』(1993)、ハイデッガーから西洋哲学史を逆照射した『反哲学史』(1995)、『存在と時間』未刊部の再構築を企てた『ハイデガー「存在と時間」の構築』(2000)、ハイデッガーの時間論から出発してショーペンハウアー、ニーチェ、ドストエフスキー、ヤスパース九鬼周造(くきしゅうぞう)などの「運命」観を論じた『偶然性と運命』(2001)、19世紀末から20世紀への転換期の思想史を論じた『マッハとニーチェ』(2002)などとして刊行された。また、『哲学以外』(1997)、『哲学の余白』(2000)、『闇屋になりそこねた哲学者』(2003)などの軽妙洒脱(しゃだつ)なエッセイや自伝は、一般の読者にも広く受け入れられた。

[須田 朗 2016年8月19日]

『『メルロ=ポンティの思想』(1984・岩波書店)』『『哲学以外』(1997・みすず書房)』『『哲学の余白』(2000・新書館)』『『マッハとニーチェ』(2002・新書館)』『『闇屋になりそこねた哲学者』(2003・晶文社/ちくま文庫)』『『反哲学史』(講談社学術文庫)』『『ハイデガー「存在と時間」の構築』(岩波現代文庫)』『『現象学』『偶然性と運命』『ハイデガーの思想』(以上岩波新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「木田元」の意味・わかりやすい解説

木田元【きだげん】

哲学者。専攻は現象学,存在論。新潟市生まれ。3歳のとき一家満洲・新京に渡る。新京第一中学校を経て,1945年海軍兵学校に入学(78期)。敗戦後,旧制高等学校への編入資格を得るが学費を捻出できず失効する。山形県新庄市の父方の遠縁の家に寄留。鶴岡市役所臨時雇,小学校代用教員などで家族を養う。闇屋で儲けた資金で,1947年山形県立農林専門学校(現山形大学農学部)に入学。同年9月にシベリアに抑留されていた父親の帰国で,学資の心配がなくなり,卒業まで在籍した。1950年東北大学文学部哲学科(旧制)編入学。ドイツ語,古典ギリシア語,ラテン語を短期間で習得。1953年同大学院哲学科特別研究生課程に進み,フランス語を習得。1958年東北大学文学部助手。1960年中央大学文学部哲学科専任講師。同助教授を経て,1972年から1999年まで中央大学文学部哲学科教授,同名誉教授。メルロー・ポンティの《行動の構造》(1964年,滝浦静雄共訳,みすず書房),《眼と精神》(1966年,滝浦静雄共訳,みすず書房)の,厳密かつ平易な日本語訳で知られ,ハイデッガーフッサールの研究でも高く評価された。《現象学》(1970年,岩波新書),《ハイデガーの思想》(1993年,岩波新書),《現象学の思想》(2000年,ちくま学芸文庫)は現代哲学の第一級の入門書である。異色の経歴の哲学者らしく,東西の古典はもとより,詩歌から時代小説,推理小説にいたるまで幅広い読書家としても知られ,哲学以外の多くの著書がある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「木田元」の解説

木田元 きだ-げん

1928-2014 昭和後期-平成時代の哲学者。
昭和3年9月7日生まれ。代用教員をつとめたのち,東北大などでまなぶ。メルロ-ポンティ,ハイデッガーを研究し,昭和48年中央大教授。未完であったハイデッガーの「存在と時間」をその講義録などをもとに再構築し,平成12年「ハイデガー「存在と時間」の構築」にまとめた。平成26年8月16日死去。85歳。山形県出身。著作に「現象学」「哲学と反哲学」「新人生論ノート」など。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android