日本大百科全書(ニッポニカ) 「未公開株流通市場」の意味・わかりやすい解説
未公開株流通市場
みこうかいかぶりゅうつうしじょう
trading market of non-introduced stocks
証券取引所や店頭市場などに公開されていない株式の発行・流通が行われる市場。1997年(平成9)7月、金融資本市場の制度改革(日本版金融ビッグバン)に伴う自由化の一環として開放され、これを受けて日本証券業協会(日証協)は「グリーンシート銘柄制度」を創設した。グリーンシート銘柄制度では、一定の情報開示などの条件を満たした銘柄が「店頭取扱有価証券」として扱われることで、証券会社はそれらの気配を提示して未公開株式の投資勧誘を行うことが可能となった。これにより、未公開株式であっても流動性が付与されることとなり、株式の発行企業にとっては新たな資金調達の選択肢が広がることにもなった。しかし、リーマン・ショック(2008)を契機にグリーンシート銘柄制度の利用は大きく減少したため、日証協は2015年(平成27)5月にグリーンシート銘柄の新規指定を中止し、2018年3月末で同制度は廃止された。
その一方で、日証協はグリーンシート銘柄制度の受け皿として、同制度での新規指定を中止した2015年5月に、「株式投資型クラウドファンディング制度」と「株主コミュニティ制度」を設けている。
株式投資型クラウドファンディング制度は、未公開企業が株式の発行を通じて資金調達を行うための制度である。金融商品取引法(金商法)上は、証券会社の「電子募集取扱業務」と位置づけられ、少額要件(株式発行は年間1億円未満、投資家の払込みは年間50万円以下に制限)のほか、インターネットを通じた取引に限るなどの制約がある。証券会社による投資勧誘もインターネット経由(ウェブサイトや電子メールによる方法)に限られ、電話や訪問などでの投資勧誘は禁じられている。これは、頻発する投資詐欺などへの対応策でもある。「多数の人から」「少額ずつ」「インターネットを通じて」「低コストで」資金を集める仕組みであり、株式等の発行もインターネット上で行われる。一般のクラウドファンディングで、達成に伴い発生する「見返り」は、株式投資型の場合、直接的には株式発行会社から支払われる配当金ということになる。
これに対して、株主コミュニティ制度は、株式投資型クラウドファンディングを利用して発行された株式の流通を促すほか、地域に密着した企業の株式売買ニーズなどにこたえる制度である。たとえば、地域密着型企業の場合、当該企業をよく知る近隣の投資家をメンバーとした株主コミュニティをつくり、このグループ内に限って株式の売買を円滑に行う仕組みである。具体的には、証券会社が、取り扱う銘柄を特定した株主コミュニティを組成し、当該銘柄の売買を希望する投資家が加入することとなる。証券会社は運営会員という立場で、コミュニティに参加している投資家に対してのみ投資勧誘を行うことができる。投資家も、株主コミュニティの参加者同士での取引は自由に行うことができるが、コミュニティに未加入の投資家はもちろんのこと、コミュニティを運営する証券会社が相手であっても、当該銘柄の取引を行うことは禁じられている。
一般に未公開株式は、発行企業にとっては直接金融による資金調達がむずかしく、投資家にとっても適正な株価評価や円滑な売買がむずかしいという問題がある。株式投資型クラウドファンディング制度と株主コミュニティ制度は、そうした未公開株式が抱える課題解決に取り組む試みと評価される。
[高橋 元 2018年8月21日]